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【19-12】教員も「シェアリング」できる時代に 中国教育部が「掛け持ち」に関する規定発表

2019年11月15日 張蓋倫(科技日報記者)

 中国教育部(省)がこのほど発表した「学部教育改革を深化させ人材育成の質を全面的に向上させることに関する意見」は、「大学の教員は所属する機関の許可があれば、他の機関でも授業を行い、報酬を得ることができる」としている。

 大学の教員の「兼務」に関する言及は今回が初めてではない。中国共産党中央弁公庁、国務院弁公庁が2016年に発表した「知識価値を向上させることを方向性とした分配政策実行に関する若干の意見」は、「科学研究者や教員は法律、法規に基づいて適度に兼務し報酬を得ることを許可する。科学研究者が兼務し、合法な収入を得ることや大学の教員が本務校以外の機関でも授業を行い、合法な収入を得ることについての許可を含む」と提起している。

 南昌師範学院の劉小強副学長は、「大学はイノベーションの一番の原動力であり、人的資源が最も集まる場所でもある。大学の教員が複数の大学で授業を行い、報酬を得ることを許可するということが再び言及されたことは、イノベーション主導の発展戦略実施を深化させ、大学教員のイノベーションの活力を十分に刺激し、発揮させるための重要な措置だ。これは、各当局がこれまでに続々と打ち出してきた一連の大学教員、科学研究者のイノベーションの活力を刺激し、発揮させるための政策と同じ類だ。これは、良いことで、大学は推奨すべきだ。もちろん、教員が本務校での授業の質を保てることが前提だ」との見方示す。

教員の所得が増加し、高等教育の優良資源のシェアリングに資する

 大学教員の掛け持ちを許可することは、まだ「余力」がある教師にとっては、その力を十分に発揮する場を得ることになる。そして、知識の価値が向上し、知識が影響を与える範囲も拡大する。

 劉副学長は、「掛け持ちできることで、教員のイノベーションの活力を刺激し、発揮させることができるほか、大学が社会サービスという職責を一歩踏み込んで果たす点でもメリットがある。社会サービスは大学の基本的な職責の一つだ。しかし、現行の体制下では、大学教員が社会サービスの面での職責を果たす点で、制限がある。特に、成果に応じた報酬という制度が足かせとなっている。教員が社会サービスを行っても、大学側はそれを成果と見なして、報酬を出すことができないことがあり、教員の社会サービスに対する積極性に影響を与えている。教員が本務校以外の機関でも授業を行って報酬を得ることができることで、教員らがその能力を十分に発揮できるほか、大学がさらに良い形で、全面的に社会にサービスを提供することに資する」との見方を示した。

 また、一人の教師が一ヶ所、一つの大学だけに限らず、他の機関でも授業ができることで、普通の大学の学生も、名門大学の教授の授業を受けることができるようになる。大学教員が掛け持ちできることで、クオリティの高い教育資源のシェアリングを促進することができる。もちろん、昆明理工大学公共政策研究センターの黎爾平教授が指摘するように、教育資源のシェアリングを推進するためには、他大学との単位認定と互換、他大学における授業科目の履修などの制度を強化・整備しなければならない。

 以前、大学教員が転職の意向に影響を与える要素に関する学者の調査によると、職業に対する満足度よりも、仕事に対する満足度のほうが、中国の大学教員が転職の意向に対する影響が大きいことが分かった。つまり、実際に肌で感じる仕事上の条件の良し悪しが、教員という仕事を続けるかどうかの決定に大きな影響を与えるということだ。同研究結果によると、教員の仕事上の条件を改善する最も手っ取り早い方法は実際の収入を増やすことだ。

 大学教員が掛け持ちできるようにすることで、確かに教員の収入を増やすことができる。劉副学長は、「大学教員が掛け持ちできるようにすることで、知識、人材を尊重する雰囲気を作り出すことができる。教員は授業を行うことで合理的に報酬を得ることができるほか、さらに多くのプラットフォームで自分の能力を発揮することできるようになる」との見方を示す。

掛け持ち普及には大学側の環境づくりも必要

 実際には、大学教員の掛け持ちはもともと「公然の秘密」だった。中国人民大学の高永安准教授が、「みんな陰でずっとやっている」と話せば、ある北京の大学教員も取材に対して、「学校には所属する教員の掛け持ちに関する明確な規定はなく、薦められることもなければ、してはいけないと言われることもない。ただ、面倒なことを避けるために、掛け持ちしている教員は普通、自ら学校に報告することはない」と語った。

 もともと多くの教員がしていることを表面化させれば、管理の規範化にも資する。

 山西省の中北大学が2017年に打ち出した「教員が他の機関でも授業を行う場合の管理規則(試行)」は、「教員はまず当校での授業や教育研究などの仕事を確実にこなすとともに、掛け持ちする場合は学校側に申請しなければならない。その後、審査と公示を経て、教員、当校、兼務する機関と、兼務する期間、機密保持、知的財産権保護などの約定を記した契約書にサインしなければならない」と規定している。

 これまで、大学教員が本務校以外の機関で授業を行い報酬を得ることに関して、社会は、教員が本務校での授業や人材育成に集中できなくなるのではと広く懸念されていた。高准教授は「全ての教員にそうすることを求める必要はない。各教員が自分の能力や関心に基づいて掛け持ちをするかを決めればいい」と、それほど懸念する必要はないとの見方を示たうえで、「もし、教員が掛け持ちしているために、本務校での授業が疎かになれば、校内の評価メカニズムが働くことになる。もちろん、授業の質を保つために、大学側も教員の成績・成果の評定制度を強化する必要がある」と指摘する。

 大学が所属する教員の掛け持ちを積極的に支持する場合、監督・管理が必要であるほか、そのための条件を作り、より柔軟な管理方法を採用し、教員のために時間的な都合をつけ、政策的なサポートを提供しなければならない。劉副学長は、「教員の職階を評定する際、対象となるのは仕事量。大学側は、教員が他の機関で挙げた成果や授業時間数なども、評定の際の対象にすることを検討できる」と提案する。

 高准教授も、「大学側は、教員の科学研究の分野の負担を適度に減らし、教員が他の機関で授業を行える時間を取れるように計らうほか、既に他の機関で授業を行っている教員にその経験を語ってもらい、他の教員に参考にしてもらうこともできる」と提案する。


※本稿は、科技日報「教師也能共享,教育部発布多点教学新規」(2019年11月7日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。