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【20-03】「孔子学院」中国のシャープパワー

2020年2月28日

三木 亮:

文教大学情報学部広報学科卒業、浙江師範大学アフリカ研究院修士1年として在籍中。大学卒業後、外国にルーツのある学生の学習サポートなどに携わる。現在は中国の対アフリカ援助などをキーワードに研究に取り組んでいる。

「中国の対外進出」は大規模なインフラ工事、敏腕投資家といったイメージと共にマスコミに登場する事が多い。ワイルドな日焼けした肉体労働者風の人物が働く様子や、敏腕中国人ビジネスマンが多言語で交渉している様子などは非常にテレビ映えする。しかし、「中国の対外進出」はそうしたハードパワー「のみ」によるモノではない。シャープパワーによる対外進出も見逃せない。その一翼を担うのが「孔子学院」である。

アフリカ大陸に広がる「孔子学院」

「孔子学院」は世界に中国文化や中国語学習を広めるための機関である。世界各国で中国語の国際資格であるHSKの実施や現地高等教育機関への中国語学習コンテンツの提供および教員の育成、外国の孔子学院で学ぶ人を中国に招いての短期の中国語強化合宿の実施、他にも現地の公立学校への中国語導入など、すべては「孔子学院」関係者の努力の賜物である。

 南アフリカでは、2013年から政府間の交渉、関連機関との協定締結、教育政策の設計、人材の確保などの準備が進められ、2016年に南アフリカの公立小・中学校教育で中国語が導入された。アフリカ大陸のその他の国でも小・中学校への「中国語」カリキュラムの導入がなされている。

 孔子学院の公式ページによれば、2019年9月30日までに全世界158の国と地域に535カ所の孔子学院が設置されている。アフリカでは46カ国に61カ所の孔子学院が設置されているが、この数は全世界の孔子学院の総数から見れば決して多くない。しかし、特筆すべきは、すでにアフリカ大陸の一部の国のみならず、ギニア、ベニンといった西アフリカの小国にも孔子学院が設置されている点である(参照URL①)。北米を拠点にしている国際教育NPO「World Education Services」が2019年4月30日に発表した報告によると、アフリカの孔子学院はフランスの言語文化教育機関の設置数に遠く及ばないものの、アメリカやその他の旧植民地宗主国が設置している類似の言語文化教育機関の総数をすでに超えている(参照URL②)。

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孔子学院のロゴが入ったTシャツを着たアフリカの人々。背中に書かれている「漢語夏令営」は「夏季中国語強化合宿」の意味。2019年6月28日、筆者撮影

将来の孔子学院の先生はどんな人?良くも悪くもイマドキな中国人学生

 そんな孔子学院だがどのような人が教師として勤務することになるのか?基本的には大卒以上の学歴かつ「国際漢語教師証書」という資格を持てば、孔子学院の教員になれる。また、1年以内の短期の教育ボランティアのために派遣される場合もある。

 こうした人材はおもに「師範大学」に設置されている「漢語国際教育」といった名前の学部や大学院で育成される。

 外国人と交流するための基本的な外国語能力や異文化理解能力の育成。中国文化や中国語を正しく教えるための知識もかなり細かく体系的に学習する。孔子、老子、孟子などの中国古典文学の知識はもちろんのこと、授業によっては漢字一つ一つに込められた精神性まで叩き込まれる。そうして学部4年や大学院2年の過程を経て、高い知識と素養を持った中国語を世界に広める高度人材が完成する......というのが大学側の宣伝文句だが、実際はそうとも言えない。

 中国もすでに「小康社会」(ゆとりある社会)を目指す段階だ。95年以降生まれや2000年代以降生まれの学生にはスマホやネットが当たり前に存在している。スマホで日本や韓国のコンテンツを楽しむのは当たり前、勉強も基本的にはアプリで済ませる。そんな調子だ。ちなみに中国でも日本同様に文系学問は女子学生が多数を占める傾向がある。「漢語国際学部」も女子学生が多い。そんな彼女たちも当然最新のメイクやオシャレを楽しむ。その姿は日本の女子学生と大差ない。こんな人材が中国よりも経済的に劣り、政治情勢が不安定なアフリカなどの国の孔子学院に派遣されてやっていけるのか?少々心配になるくらいだ。

 あるとき、山東省出身の女子学生に「毛沢東主義」に関して質問した。すると「あたし、毛沢東には興味ない。周恩来は興味ある」と中国建国の父をバッサリと切り捨てるような態度で答えを返され、むしろ私の方が戸惑いを覚えてしまった。

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浙江師範大学外語学院に設置された垂れ幕。孔子学院本部でおこなわれたアフリカの孔子学院の中国語教員ボランティア実習。2019年7月30日、筆者撮影

文化輸出に総力戦で挑む中国

 孔子学院は外国に中国語を広める他にも、ガイコク人を中国に招く橋渡し的な存在にもなっている。外国に中国文化を伝える「文化教育総合エコロジーシステム」と言えそうだ。

 イマドキ中国人によって伝えられるのは古典文学や伝統文化のみではない。スマホガジェットやドラマやライフスタイルなども伝わることになるだろう。すでに東アフリカでは中国ドラマ『媳婦的美好時代』がスワヒリ語に翻訳されて人気を博しているようだ。こうしたスワヒリ語翻訳人材なども「アフリカの孔子学院」を通して育成・獲得されている。まさに総力戦で文化輸出に挑んでいるのである。

参照URL

①孔子学院本部ホームページ「孔子学院/課堂(教室の意味)」より

②WENRホームページ「World Education News+Reviews」より

※本稿は『月刊中国ニュース』2020年3月号(Vol.97)より転載したものである。