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【20-06】オンライン塾「猿輔導」ユーザー数4億の教育サイト

2020年7月22日 毛翊君/『中国新聞週刊』記者 及川佳織/翻訳

平赫先生は毎日、机の上の携帯に向かってオンライン配信で化学の授業をおこなう。画面の向こう側には全国の2,000万人余りの小中学生がいる。「猿輔導」〔モンキー先生。オンライン授業配信アプリ名〕が新型コロナウイルスという非常事態に無料で配信することを決めてから登録者が倍に増え、学生のレベルにばらつきが目立ったため教師たちは調整を急いでいる。

 春学期に入り、劉一然くんは高校受験へのカウントダウンに入った。劉くんの通う安徽省滁州市定遠県の中学校は、通学停止期間中、毎日オンライン授業に出席して勉強するよう求めている。劉くんはほかのクラスメートと同じく朝6時過ぎに起き、クラスのオンライングループで出席を取ってから、早朝読書のビデオ会議に入った。その後は各科目の先生の授業となる。

 ビデオ授業は、先生が慣れていないせいか、重点がわかりにくいと劉くんは感じている。そこで事前に授業の内容を質問し、選択して授業を聞いている。それ以外の時間は、別途「猿輔導」の無料オンライン授業を受ける。劉くんはこのサイトに登録して3年になるのでやり方はよくわかっている。

 無料授業のカリキュラムは、登録してお金を払う週末のカリキュラムとは若干異なる。平日に設定され、時間割に基づいて1コマ40分の授業が順に放送され、間に20分の休憩が入る。授業には「猿輔導」の専任講師356人、補助講師457人、技術スタッフ151人が参加しており、さまざまなスタイルの先生の授業からランダムに選ぶことができる。

「猿輔導」は新年早々から、無料授業の準備を進めてきた。旧暦の大晦日、平赫先生は自分が主任を務める業務グループから連絡を受け、新型コロナウイルス禍の拡大による業務への影響について話し合いを持った。その後、「猿輔導」の創業者の1人、帥科氏はウイチャットで各部門の主任による電話会議を開いて基本方針を決め、1日で各部門の担当者の調整をおこなった。

全国で教育をシェア

 2020年1月25日、「猿輔導」は武漢市に1,000万元を寄付し、教師たちは2日以内にそれぞれ無料授業のシラバスを提出した。無料授業を受ける人の間には学力に差があることを考慮し、教育研究グループの教師は何度も会議を開いてカリキュラムを修正した。たとえば、これまで7問だった練習問題を3問に減らすなどだ。ネット放送は2月3日に始まった。

 2020年2月15日、同社の猿題庫〔モンキー試験問題データベース〕アプリは「全国百万人オンラインテスト」をリリースし、123万人が参加して新記録になった。2月29日、「猿題庫」は北京師範大学試験・評価研究センターと協力して新しいテストをリリースした。受験した学生は10分以内にテストの点数と全国順位がわかり、知能診断レポートがもらえる。レポートには間違った問題と苦手な問題についての分析もある。

「私たちはあくまでも学校教育を補助する立場で、今はできることを全力でやっています」と帥氏は話す。感染症が蔓延するなか、「猿輔導」はさらに北京師範大学心理学教授で科学番組『最強大脳』の科学総顧問の劉嘉氏など、心理学や家庭教育の専門家を招き、学生や保護者のための講座を開いて、目下の心理的なプレッシャーをどう緩和していくかについての情報を共有した。

 実は通常期間のカリキュラムには、もっと詳細な体系がある。劉一然くんは中学1年の物理の授業を受けたとき、まず学力テストを受け、その結果に基づいて実験班に入れられた。その後の授業では、全国の同じレベルの7~800人の学生と一緒にライブ配信で授業を聞く。

 登録している学生はすべてこうした手順を経て、それぞれの班に入れられる。実験班以外にもA+班やA班などがある。一部の班名は高校3年生にとってより直接的で、「目標は清北〔清華大学、北京大学〕から985〔江沢民が1998年5月に打ち出した世界一流大学育成計画に選ばれている39大学〕」というものもある。班ごとに学習の進度は異なる。たとえば、劉くんの所属する物理実験班では、中学3年生の間、10回の授業で教科書の内容をすべて学び、その後1回目の復習に入るが、ほかの班では授業15回というものや、さらに長いものもある。

 このほか、「猿輔導」では「ダブル担任制」を採用し、1班を30人または60人ごとに小グループに分け、各小グループに担任をつける。専任講師は授業をするほか、担任になると学生の宿題を見たり、質問に答えたり、システム上で学生の出席率や視聴持続時間を監視したりする。また、より具体的に予習や授業後の再視聴の方法、別の班へ移動すべきかなど、学生それぞれに学習プランを提供する。

 劉くんは一緒に授業を受ける同級生の中に、頻繁に連絡を取り合う友人が7人いる。お互いにウイチャットでつながってグループを作り、毎日の勉強の様子を知らせ合ったり、おしゃべりしたりする。彼らのいる場所は湖南省、陝西省、内モンゴル、広東省、江蘇省などさまざまで、学校での問題、練習、授業ノートなどをシェアし合っている。劉くんは、長沙の友人の中学は全国トップレベルで、その学校の教育資源は自分の学校より豊富なので、シェアし合うことで大きな収穫があると感じている。

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授業を受ける劉一然くん。写真/本人提供

空間の壁を破る

 2017年の秋、中学生になったばかりの劉くんはネットで「猿輔導」を見つけたが、周囲にオンライン授業を受けている友人はおらず、両親も詐欺ではないかと考えて初めは登録に賛成してくれなかった。秋学期のカリキュラムを逃し、冬休みに入る前に試しに数学の「期末特訓キャンプ」の授業を受けてみた。その後全県の統一テストを受けた際、その授業で聞いた方法が問題を解くのに役立つことに気づいた。

「学校の先生は問題を暗記しろと言いますが、こっちの先生はロジックを教えてくれたので、数学に対する概念が一変しました」。中1の上半期、劉くんは数学の成績がさほど良くなく、先生が自分に固定観念を持ち始めていると感じていた。「クラスでは、生徒を直接批判する先生もいました。僕も自分はほかの人ほど頭がよくないと思っていました」。しかし、オンライン授業を受けてみるとやる気が出て自信もつき、両親もやっと登録に賛成してくれたという。

 オンライン授業を受けたことで数学は劉くんの得意科目になり、中2のときには満点の150点を取るまでになった。このほかにも物理や歴史などの科目にも登録している。劉くんは文系科目が好きだ。学校の歴史のテストは教科書持ち込み可で、先生は教科書に沿って授業をするが、「猿輔導」のオンライン授業では、暗記ポイント以外のより深い内容を聞くことができる。「ネットの先生は、最短時間で最大の知識を得られるようにしてくれる」と、劉くんは興奮気味に話す。

 今、劉くんは登録して10期目になる。彼が授業を聞き始める6年前に「猿輔導」は誕生した。それは2012年のことで、オンライン教育は非常に規模が小さかった。「網易新聞アプリ」の開発に参加した李勇氏がオンライン教育「粉筆網」〔チョークネット〕を立ち上げ、リリース前に1,000万元級の融資を獲得した。しかし運営を始めてまもなく、会社は「教える、練習する、テストする」がオンライン教育の核心だと気づいた。「粉筆網」の方式はそれには合わなかったのである。そこで彼らは「粉筆網」モデルをあきらめ、国内のK12段階、つまり就学前から高校までの受験ニーズを出発点とし、ビッグデータを活用して、指向性の高い「猿輔導」を作ったのである。

 創立2年目の2013年に「猿題庫」が、続いて2014年に「小猿捜題」〔子ザルの問題探し〕がリリースされたが、この頃には技術が追いついてアプリ研究チームができ、小猿捜題に分配式機械学習システムytk-learnと分配式通信システムytk-mp4jが使われるようになった。

 2015年、北京大学化学院で先端データと力学を専攻する大学4年生の平赫さんが「猿輔導」に出会う。その2年前、彼はオフラインの塾講師からオンライン学校に転職し、お金を稼ぐことを考えていた。ちょうどその頃「猿輔導」も新たな転換を図っており、自分のサイトの教師をたくさん集める必要に迫られていた。そして平さんは「猿輔導」の試験に合格して、しばらく兼任講師をし、その後帥氏に認められて専任講師となったのである。

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授業をする平赫先生。写真/本人提供

試験対策から素質教育へ

 現在、劉くんは国語・数学・英語・物理・化学・政治・歴史の主要7科目に登録しており、週末は授業が詰まっていて、1学期に1万元近く支払っている。彼はアプリの先生への高評価率と、お試し授業の様子を基に、本当に役立つ内容を教えられる先生を選び、登録している。

 1科目ごとに1回授業を受けると約2時間かかる。まず40分講義で10分休憩、さらに40分講義で、最後の20分は質疑応答となるが、劉くんはこの時間を待ちわびている。オンライン授業でマイクを持つチャンスをねらって、分からないところを質問するのである。質問したい人が多いので、答えが出る前に時間がきて授業が終わってしまう。すると学生たちはウイチャットで質問を続けるか、アプリに伝言を残す。すると先生が音声や動画で答えを返してくれる。

 平先生は、オフラインの授業と比べ、こうしたやりとりがオンライン教育の強みだと感じている。実際の教室では、体面を気にしたり、さまざまな理由で質問できない生徒は多い。しかしオンラインではお互いを知らず、顔を出す必要もないので、生徒が質問をする可能性や意欲はずっと高いのである。

 劉くん自身、先生とのやりとりを通じて、ただ単に試験対策になるだけでなく自分自身が成長できるように感じている。学校でとまどいを感じる事柄もオンラインで先生に相談することで、自分の個性を保ち周りに迎合しなくてよいと励まされるように感じる。このサイトで学習を続ける理由は大きくはそこにある。子供たちの興味ややる気を引き出すこのオンライン教育は、もはや無味乾燥な試験対策授業ではなく豊かな人間性を育てる教育なのだ。2020年1月、「猿輔導」はユーザー数4億人を突破した。


※本稿は『月刊中国ニュース』2020年6月号(Vol.100)より転載したものである。