【20-11】医学と工学が垣根を超えて連携―天津大学、「新医科」人材を育成

2020年11月10日　陳曦（科技日報記者）

　天津病院・リハビリ科の治療室で、脳出血患者の徐宝釧さん（63）は天津大学神経工学チームが研究開発した人工神経リハビリロボットシステムを使って、運動イメージによる腕のリハビリに励んでいた。これは「完全イメージコントロール」の人工神経リハビリロボットシステムで、「神工」と呼ばれ、コア技術は、ブレイン・マシン・インターフェース（BMI）だ。

　天津大学は近年、医学と工学の融合を進めており、同分野では中国全土でもトップクラス。医療・健康をめぐる先端問題に照準を合わせ、「新医科」の高みで実力を発揮し続けている。9月26日、天津大学は泰達病院、泰達国際心血管疾患病院、中新国際病院と共同で、天津大学浜海直属病院体系を構築し、医学と教育が連携し、医学と工学が融合するハイレベル三級甲等病院（中国における最高クラスの病院）集約モデルエリアを設置。テクノロジーイノベーションの加速や人工知能（AI）、ビッグデータなどの先端技術と医療・健康業界の一歩踏み込んだ融合促進に取り組む。

工学の学位を授与する医学系学科

　医学と工学の融合は即ち学際的アプローチで、そのイノベーション・発展には、学際融合および複合型人材の育成と切り離せない。

　1978年に、天津大学は医学と工学の融合をいち早く模索し始めた。天津大学医学部医学科学・工学院の何峰院長は、「当大学は中国でバイオ医学工学科を開設した第一弾の大学。医学と工学が連携して同学科を運営する先駆けとなった。そして、2017年、当大学は医用生体工学・実用化医学研究院を設立し、工学、理系などの従来から優位性を誇る学科と医学学科の学際融合がさらに促進された。そして、医学のニーズを牽引力とし、学科の発展のボトルネックを打破し、新興学科の生長ポイントを育成し、良好な学科のエコシステムの計画を進めている。2018年、当大学は、中国初の『スマート（智能）』を方向性とした医学系学部学科『スマート医学工学学科』の開設が認可された。同学科は中国初で、現時点では唯一の医学系で、工学の学位を授与する学部学科だ」と説明する。

　何院長は、「医学と工学が一歩踏み込んで融合する学科としてのスマート医学工学学科の育成目標は、しっかりとした深い数理の基礎を備え、医学の知識もしっかり身につけ、さらにスマート工学技術の手段をマスターし、学んだ知識を総合的に活用して臨床・実用化のイノベーションを行うことができるハイレベル複合型人材の育成だ。育成目標と一致しているのは、臨床のニーズを出発点、足掛かりとして、生命・健康の全周期に注目し、医学とスマートの学際融合、実用化へのイノベーションの展開ということだ」と語る。

　そのカリキュラムの中心は、医療・ヘルスケアビッグデータのスマート感知、スマート分析、スマート意思決定、およびそれらを基礎に形成する精密医療だ。その他、バーチャル・リアリティ（VR）やBMIなどの新興スマートヒューマンコンピュータインタラクション技術も含まれている。

　何院長は、「医学と工学の融合には、人工知能やモノのインターネット（IoT）、精密機械、電子情報などの関連の工学技術のほか、医学画像学、医学診断学、医学情報学などの医学技術の下支えが必要だ。同時に、スマート医学を応用する各種シーンの下支えも必要で、最も基礎となるのは、数理、人文などの関連の教養課程および医学の基礎知識をマスターすることだ」と説明する。

医、教、研、産が四位一体となり医学と工学の一歩踏み込んだ融合を促進

　今回、天津大学と浜海新区は共同で、直属の病院体系を構築し、医、教、研、産が四位一体となった現代化病院クラスターを形成することで、臨床実用化能力の向上、病院と大学の一歩踏み込んだ融合、優位性の相互補完などの促進に取り組む。

　臨床科学研究の面で、天津大学は、医学と工学の学際基金を活用し、重点疾患や患者の主なニーズに的を絞って、臨床医学研究および関連の医薬技術研究成果の実用化などを重点的に展開し、国の重大科学研究任務を積極的に担い、スマート医療やバイオ医薬品工学などの分野で、共同研究開発を展開して難題解決に取り組むほか、国家心血管疾患地域センターなどの中心となる拠点の建設に焦点を合わせ、健康医療ビッグデータ国家研究院、スマート医学工学教育部工学研究センター、天津脳型研究センターなどの複数の国家級、省・部級の科学研究プラットフォームを構築し、新しいグローバル総合医療の基盤を整備する。

　何院長は、「人材育成の面で、当大学は近いうちに、『天津大学浜海国際医学院』の建設を始める。同学院は臨床医学、救援医学、リハビリ医学、スマート医学工学、バイオ医学工学、薬学、生命科学などの学科に焦点を合わせ、ハイレベルな医師や複合型医学・工学人材の育成に力を入れる」としている。

　学科およびチームの構築の面で、同大学は今後、心血管疾患、神経科、整骨科などの学科設立を早急に推進し、重症医学科、耳鼻咽喉・頭頸部外科などの関連分野を対象にして、ハイレベルの特色ある専門分野や優位性ある専門分野を構築する計画だ。また、ハイレベル医学人材を招聘して、学科の発展が病院全体の発展を牽引するように取り組む。

　情報化整備の面で、同大学は、健康医療ビッグデータ国家研究院と共同で、病院の電子カルテシステム、オンライン診療可能な病院の構築に関する水準を向上させ、患者情報の自動管理を実現し、データ応用、データセキュリティなどの問題解決に取り組む。

※本稿は、科技日報「医学与工科跨界合作培養"新医科"人才」（2020年10月16日付6面）を科技日報の許諾を得て日本語訳／転載したものである。