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【21-03】長期学制教育改革―9年で臨床・研究の二重の要求を満たす中医人材を育成

2021年03月26日 葉 青(科技日報記者)

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画像提供:視覚中国

従来の中国医学(中医)の学部5年+修士課程3年+博士課程3年の教育モデルと比べ、「長期学制」は教育研究資源を集中させ、ハイレベルで優秀な中医薬関連人材を育成するうえでプラスになる。(馬民・暨南大学研究生院執行院長)

 新型コロナウイルスの感染拡大期間中、中医薬は新型コロナ対策や予防・治療において独自の優位性と効果を発揮し、人々の中医薬に対する理解がより深まった。しかしそれと同時に、「将来の中医薬関連人材をどう育成すれば、その精髄を受け継いで伝統を守りながらも革新を続け、中医の臨床診療の能力とレベルを高めることができるか」という問題も提起した。先ごろ、教育部(省)の公式サイトは「医療・教育協同の深化および中医薬教育改革と質の高い発展のさらなる推進に関する実施意見」(以下「実施意見」と略称)を発表し、医療と教育の協同の深化と、中医薬教育改革と質の高い発展のさらなる推進について改革意見を打ち出した。

依然として苦境に直面する中医薬人材育成

 中医薬は中華民族の優秀な伝統文化における至宝だ。新中国成立後、中国は中医薬教育と人材育成を非常に重視し、独自の特色を持つ衛生・健康サービス体系を構築するために人材面で力強い保障を提供した。現在、中医薬高等教育はすでに200万人近い中医薬専門人材を育成し、中医薬を主体として関連学科と協調的に発展するという学校運営構造が形成され、高等職業学校、4年制大学から修士・博士課程に至る多階層・多学科・多元化モデルが出来上がっている。こうした中医薬専門人材は「走出去」(海外進出)と「一帯一路」(the Belt and Road)建設に積極的に貢献するなかで、中医薬文化と中華文化を伝える重要な使者となっている。

 暨南大学研究生院執行院長の馬民教授は、「中国の中医薬人材育成は大まかに2つのモデルに分けられる。伝統的な中医薬人材師承育成モデルと現代的な中医薬人材大学育成モデルだ」と話す。馬教授はこの20年来、中医および「中西医結合」(中国医学と西洋医学の結合)臨床教育・研究にずっと従事してきた。

 現在、大学では、中医専門教育の学制は通常5年制となっている。「そのほとんどが集団での講義形式の育成モデルを主流としている。最初の2~3年は、基本的に基礎理論知識を学び、その後で臨床実習に入る。しかし中医学科には独自の特色があり、学派も多い。寒涼派、温熱派、補土派、養陰派などがあり、学ぶべき内容は極めて多い。そのため、実践と理論学習がうまく結び付かず、互いに促進し合えない状況に陥りやすく、所期の教育目標が達成されにくい」と馬教授は言う。

 北京中医薬大学党委員会書記の谷暁紅氏もかつてその文章で、「現在、中国の医学系大学では、学科やカリキュラム間にまだ明らかな境界が存在し、効果的な学科間の融合が足りない」と指摘した。中国医学と西洋医学について言えば、思考方式が違うため、学科の体系も完全に相通じているわけではなく、依然として壁が存在している。

 大学教育には中医教育の西洋化、中医薬伝統文化の伝承不足、中医教育における科学性や系統性の不足、中医技能の不足といった問題が存在し、ある程度において中国の中医の伝承と人材育成を苦境に陥らせている。

「実施意見」を打ち出した目的は、こうした局面を打破して変化を求め、中医薬の特徴に合った人材育成体系の構築をさらに推進し、中医薬教育が「健康中国」確立と中医薬伝承・革新的発展に果たす基礎的な役割を十分に発揮できるようにすることにある。

教学研究資源の集中にさらに役立つ長期学制

「実施意見」は、中医学の長期学制教育改革を推進し、中医学9年制人材育成を試行・模索することを打ち出した。馬教授は、「長期学制の目標は主に優秀人材の育成に焦点を当てることにある」とする。

 高等医学教育改革が絶えず深まるにつれて、長期学制医学教育モデルは他の学制と併存させる形を取り、様々なレベルの医療体系に対する社会のニーズに応えられるようにするべきだ。現在、中国では、天津中医薬大学や広州中医薬大学、南京中医薬大学、北京中医薬大学、成都中医薬大学など一部の中医薬大学が他に先駆けて9年長期学制による優秀革新人材育成モデルを展開している。

 広州中医薬大学を例にすると、2015年から中医学(9年制)を新規で開設し、「9年段階別、学部・大学院一体化」の人材育成モデルを実行し、中医学基礎教育、大学院生学位教育と研修医規範化育成を有機的に融合させた。学生は卒業時に中医研修医規範化育成と中医学博士学位育成の二重の要求を満たすことができ、主に中医臨床と研究に従事する。

 馬教授は、「従来の中医学学部教育5年+修士課程3年+博士課程3年の教育モデルと比べ、長期学制は教育研究資源を集中させ、ハイレベルで優秀な中医薬関連人材を育成するうえでプラスになる」と指摘。さらに、「標準化された西洋医学とは違い、中医薬は診療の過程で病因や症状などを分析して治療法を判断する『辨証論治』を重視する。時には、同じ治療プランで別の病気を治療し、薬の分量を変えるだけで良好な治療効果をあげられることもある。また時には、同じ病気を治すのに異なる治療方法を取ることもある。『辨証論治』を臨床に応用するには、本当に多くの経験を積む必要がある」と語った。

 馬教授は、「長期学制では、中医薬人材を育成する上で、理論教育のほかにも、十分な時間をかけて臨床実践を積み、専門人材を育成する。こうすることで、学生は様々な専門家や学派と接して、各系統の疾患特性を理解し、本当の意味で中医の精髄を受け継ぐことができる」と指摘する。

 馬教授の考えでは、長期学制教育で育成される中医学の学生にとって、伝統を守りながらも革新する能力の育成が明らかにより重要になってくるという。馬教授は、「教師は研究成果を教育体系に溶け込ませることで、学生たちに一般的な中医薬伝統理論と臨床技能を学ばせるだけでなく、臨床基礎研究を理解し、独自の研究能力を育成することができ、そうすることで学生の視野を広げ、学生の研究・革新能力を育成することが可能となる」と指摘する。

ハイレベルな複合型人材を共同で育成

「実施意見」は中医学長期学制教育改革の推進を打ち出すと同時に、試行段階において新たに増やす学生募集枠は、主に中医薬大学と他大学とが共同で行うハイレベル複合型中医薬人材育成に充てられることにも言及している。

 なぜ複合型人材の育成を推進するのか? 中国工程院院士で澳門(マカオ)科技大学校長の劉良氏は、「中医薬は複雑な科学体系で、複数の学科の先進技術を結集・融合することが必要であり、複数の学科を結び付けた人材チームが求められている」と指摘する。

 中国工程院院士で天津中医薬大学校長の張伯礼氏は、「中医薬人材の育成においては、複数学科の融合をより強調するべきだ。学生は中医についてだけでなく、西洋医学についても理解していなければならない。中医薬専門の学生にとって、伝染病の予防・治療だけでなく、消毒や隔離といった面の知識も身に着けている必要がある」と話す。張氏は、「現代科学技術と密接に結び付けることで、中医薬が伝統を守りつつ革新的な発展を遂げることが促されるに違いない。しかし現在、中医薬の学科を跨いだ教育はまだ進んでおらず、学科間の深い融合はまだ見られない。その難点の1つは中医理論の解釈だ。この難点を突破するためのカギは、中医も現代科学技術も分かる複合型人材の育成にある」と指摘する。

 しかし、中医薬教育分野では、複合型人材育成の実現は少なからぬ挑戦でもある。谷氏は、「最大の難点は、いかにして限りある学制年限内に高基準の人材育成目標を達成するかだ。それには、トップレベルデザインから出発し、異なる育成段階カリキュラム体系の統合を強化することが求められる。同時に、教育モデルを転換し、学生が積極的かつ自主的に学ぶよう導き、学生が有用な人材に成長するための場を提供することが必要だ。このほか、『中医+』や『+中医』、『中西医結合』リーダー人材育成プロジェクトを積極的に展開し、中医学・西洋医学、理工など複数学科を跨いだ融合を通じて、統合型の中医教育体系を構築することを模索する必要がある」と指摘する。

 中医薬人材の「早くから学び始めても熟練するまで時間がかかる」という特性を踏まえ、広東省では大学の学生募集時点から複合型中医薬人材の育成に特に注目している。広州中医薬大学の王省良校長はメディアの取材を受けた際、「学生募集制度を改革したいと考えている。これには、育成モデルの改革、カリキュラム体系の再構築、中国医学と西洋医学のどちらにも精通し、どちらの能力も備えた中医薬人材の育成が含まれる。こうした改革を通じて、名医を育成し、しかも良薬の誕生を促せる」と語っている。

 馬教授は、「私たちは絶えず『教育内容--臨床実践--科学研究--成果実用化』という多元的で一体化した伝承・革新教育モデルを確立しようと努力している」と話す。馬教授の説明によると、内容面で、暨南大学は中医の知識・技能と中華優秀伝統文化カリキュラムを相互に融通させようと努めている。また実践面では、学校と病院が協力し、学生の臨床実践訓練を強化。研究面では、大学では学生たちが成果の実用化に向けて努力するよう導くような取り組みにさらに力を入れているという。馬教授は、「研究と臨床における質の高い人材を育成するだけでなく、中華の優秀な文化を広め、高い文化的資質を持ち、自信にあふれた愛国人材を育成する必要がある」と語った。


※本稿は、科技日報「長学制教育改革 9年培育中医"双料"抜尖人才」(2021年2月18日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。