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【21-05】学際的人材の育成―イノベーション・実践・融合がキーワード

2021年06月25日 馬愛平(科技日報記者)、周進進(科技日報特派員)

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画像提供:視覚中国

人材は第一に考えるべき資源であり、科学技術のイノベーション実現を支える力でもある。学際的学科の設立は、現在の社会発展に伴う複合型人材へのニーズを満たすための重要な措置だ――程永波(南京財経大学学長)

 現在、科学技術のイノベーションや飛躍的進歩、発展は、多くの学問領域を跨いだ学際的な取り組みに左右されるようになってきている。そのため、複合型人材の育成への要求がさらに高くなっている。

 こうした状況の下で、今年初め、中国教育部(省)のホームページで、「学問分野『学際的学科』、一級学科『集積回路工学・工程学』と『国家安全学』の設置に関する国務院学位委員会、教育部の通知」が公布された。複数の学科を跨いだ学際的な教育を行う学際的学科は他の学問分野とは「独立」した形となり、中国における14番目の学問分野となった。

 南京財経大学の程永波学長は筆者の取材に対し、「経済発展の新たな常態(ニューノーマル)において、大学の人材育成と産業界からのニーズとのマッチングが不足しているという現状に対して、伝統的な専攻カリキュラムをアップグレードさせて改良し、特に不足している、社会の発展方向に適応する人材を育成することは、現在の高等教育において速やかに解決されなければならない重要な課題となっている」と述べた。程学長によれば、人材は第一の資源であり、科学技術のイノベーション実現を支える力でもある。学問分野としての学際的学科の設置は、現在の社会発展に伴う複合型人材へのニーズを満たすための重要な措置だという。

 学際的学科を「独立」させた後、どのような人材育成モデルを取るべきなのか。また学際的学科の教員たちが新たな人材育成ニーズに対応するには、どのような素養が備わっていなければならないのだろうか。

産学研協同で新型人材を育成

 20世紀末以来、中国の大学では、学際的な教育を基礎とした教育実践や人材育成理念が強化されてきた。特に近年において、中国国内の応用型大学は所在地域における経済社会の発展の特徴に合わせることに注力し始めており、学際的な教育と学内外の環境との融合を強調し、それによって学際的教育および人材育成システム改革の強化を押し進めた。

 しかしながら、これまでの学際的教育の進展状況は、学際的学科が独立した学科として分類されるための要求を満たしていなかった。南京財経大学食品化学・工程学院の丁超副教授は、「新たに設けられた学際的学科は、専攻カリキュラム体系、実践的な授業方式、人材育成モデルのいずれにおいても、まだ初歩的な整備段階であり、依然多くの不足が存在している。従って、学際的学科の構築をベースにして、学生の創造的な思考能力と実践能力の育成に注力し、カリキュラム体系、授業内容、授業方法、実践手段の改革をさらに進め、多様化する新型人材の育成モデルを模索していく必要がある」との見方を示す。

 丁副教授は、「学際的学科の設置は社会発展における実際の要求に基づいており、国家および地方の戦略配置産業に向けて、実践能力のある複合型人材を育成するものだ」とし、そのため学際的学科の人材育成のニューモデルには次の3点が求められると指摘する。その3点とは、①産学研の融合をベースに、各方面の組織と連携して協定を結び、各組織の職務や責任の範囲および人材育成効果の検証基準を明確化する、②責任、権限、利益に関する制度や規範を合理的に設ける、③産学研による人材の協同育成拠点を構築し、実習やプロジェクト委託などを通じて人材の新しい協同育成モデルを形成することである。

「大学と企業の連携による新たな学際的人材協同育成モデルを構築するほかにも、カリキュラム体系を改革して新たな学際的人材教育ニーズに応じることや、研究型教育モデルを導入して学生の創造的な思考能力を育成することが考えられる」と、丁副教授は言う。

実践を強化し新しい授業モデルを作り上げる

 南京財経大学食品科学・工程学院の方勇学長は、「4年制大学の段階では、中国の学際的人材はまだイノベーション能力や実践的経験が不足しているなどの問題を抱えている。先端知識と技術の把握が足りず、大学卒業後、その実践能力では現在の社会のニーズを満たせていない」と語る。

 社会のニーズを指針とする学際的学科は、学生に対する実践能力への要求が一段と高いレベルになってくる。

 この点について丁副教授は、大学は実践教育体系を再構築して新たな実践的教育モデルを作るべきだ、としている。「例えば、実践教育拠点を中心点として、学内で実験、学外で実習を行った上で、更にイノベーション・プロジェクトやコンテストを実習や実地研修と組み合わせてはどうか。企業からの指導担当者が実際の産業における問題を授業に取り入れ、大学側教員と企業側指導担当者が共同でイノベーション訓練課題を設計し、学内実習の方式で学生の研究テーマ設定を指導する。また、大学生イノベーション実践プロジェクトや学内研究テーマ設定への申請などを通じて、学生の研究テーマ設定を支援することもできる。さらには、応用の見込みのある研究課題や、潜在的な商品化価値のある研究を行った学生には、『チャレンジカップ』、『インターネット+』などのコンテストに出場させることで、競争によって学びを促進し、コンテストに向けて短期的かつ高い強度の準備をさせることで学生のプロジェクト能力とイノベーション能力を強化する」と、丁副教授は提言する。

 具体例として、丁副教授は以下の状況を紹介した。南京財経大学食品科学・工程学院は、食糧プロジェクトケースメソッドを指針として、穀物・食用油の食品加工、物流、倉庫貯蔵、品質検査などの工業応用型実験を設計した。また、情報技術(IT)を活用して、穀物の異物除去・乾燥、還流燻蒸、穀物冷却、窒素充填CA貯蔵、米加工、小麦粉加工、スマート物流、食品3Dプリント設計などを含めたオープンなスマート実験プラットフォームを共同開発し、学内にあるイノベーション・スタートアップ実験室と合わせて、四つのレベルの実践的な教育を行うことができ、学生のイノベーション能力と実践能力を強化している。

 南京財経大学食品科学・工程学院の方勇学長は、「実践的な教育方法はかつての『うわべだけ』の産学連携とは異なり、学校のカリキュラムと現場の応用を有機的に融合させる上で役立ち、企業などが教育の過程に本当の意味で入り込みやすくなった」と指摘。さらに、「実践的な教育で、学生の理論知識、操作能力と研究能力をチェックできるだけではなく、学生の問題分析能力と解決能力も向上させられる」と語った。

 方学長は、各地で新たな学際的人材の実践的教育を強化し、実践教育の設計と評価制度を改革し、より完全な評価体制を策定して、学生の実際に着手する能力を考査し、合理的な実践教育のカリキュラム内容、進行具合、任務分担を決めることを提案している。それ以外にも、理にかなった考査体系と多様化したテスト方式が必要だとして、小論文、テーマ討論、課題作業についての口頭試問、マルチメディア教育ソフトの製作、小実験の設計、実習総括などを含めて、多角的かつ合理的に学生の実践能力を考査することを提案した。

学科を跨いだ2学科雇用制度によって教員の意欲を向上

 学際的人材育成の要は教員にある。これまでの単一学科教育を指針としていた教員育成モデルは、どのようにしてこの新しい状況における複合型人材育成のニーズに対応すればよいのだろうか?

 方学長は、「各学科や専攻の教員にはそれぞれ長所があり、学際的複合型人材の育成には異なる学科と専攻の教員の力を統合する必要がある。フレキシブルな人事制度を設け、大学の教員と企業側指導担当者が双方向に流動するメカニズムを構築しても良いだろう。また、産業協会や企業の技術リーダー、管理職の中から一定の授業能力を備えた人や、学生卒業研究指導経験(2年間以上)のある人を招聘して、大学と連携して講義をしてもらうのも良いだろう」と語る。方学長は、「現在の教員資源の配置から見ると、これまで単一学科教育に従事していた教員を大量に転向させて、複数の学科を教える能力をすぐに身につけさせることは、現実的ではない。最も理にかなった方法は、現在の教育資源を統合し、『複合型』教員チームを作ることだろう。さらには、従来の教員教育の枠組みと固定された指導教員制度も廃止して、実際の教育という見地から、教育段階ごとにそれぞれにふさわしい教員を配置することも考えられる」との見方を示した。

 この点に関して方学長は、加わることも去ることも自由で、オープンで流動しやすい学際的学科教員チームを構成して、学科を跨いだ教員異動制度を設け、教員の「双聘制」(学科を跨いだ2学科雇用制度)を模索することを提案した。さらに、学際的学科の教員に対する評価雇用制度と人材昇格ルートを規範化し、学際的学科の研究者者の成長に有利な制度・文化を作ることも提案した。

 専門家は、教員の2学科雇用は、学際的な取り組みと分野を跨いだイノベーションの協同推進、重大な成果の誕生とイノベーション創生システムの形成の重要な足がかりになると指摘する。現在中国では、学際的学科の教員の2学科雇用における制度上の障害を排除して、大学側と教員側の2学科雇用に対する積極性を引き出し、学際的な取り組みの促進と学科の競争力の継続的向上を図る必要に迫られているという。

 学際的学科の実践性に対する高い要求に関して、方学長は、「大学は中堅の教員を企業に出向させて能力を鍛え、産業の現場で企業のキーとなる技術的問題を実地で把握させるべきだ。また、教員が企業の取り組む研究テーマに携わり、研究成果を実際のプロジェクトケースへと応用するよう奨励し、教員の先端科学とエンジニアリングの実践応用に対する深い理解を促して、学生の創造力と実践能力を育成できるようにするべきだ」と指摘する。

 方学長は、「授業時間の制限および『五唯』評価制度(論文、役職、職位、学歴、受賞歴の5つの基準のみで評価すること)を打破し、学生指導への参与度と得られた成果に評価の重きを置き、学生の研究成果、イノベーション実践、研究成果の独創性、産業貢献度と社会影響力など発展性のある指標を評価基準として教員を評価して、教員の分類別評価・奨励制度をさらに整備し、合理性のある評価体系を構築するべきだ」とした。


※本稿は、科技日報「培養交叉学科人才 創新、実践、融合是関鍵詞」(2021年5月25日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。