【23-04】中国は今、どのような外国人ハイレベル人材を必要としているのか
松田侑奈(アジア・太平洋総合研究センター フェロー) 2023年03月07日
中国は今、どのような外国人ハイレベル人材を必要としているのか。
それは、「高精尖」人材と「急需紧缺」人材である。
「高精尖」人材とは、「高級(ハイレベル)・精密・尖端(先端)」人材の意味であるが、学歴が高く、技術力が優れており、先端科学技術の知識と技術を有する人材を指す。「急需紧缺」人材とは、核心科学技術分野において、至急かつ必要であるが人数が足りない人材を指す。
中国政府は、2023年1月が北京、上海、広州、重慶、杭州、深圳の6つの都市で外国人ハイレベル人材を誘致する事業を2年間展開するとした。外国人ハイレベル人材に対しては、科学技術イノベーションや創業活動における支援に、希望によって永住権や帰化までワンストップで支援すると明かした。上海市の場合、2022年末まで累計37万人の外国人に就業許可を発給したが、そのうちハイレベル人材に該当する人は7万1千人である。
上記6つの都市では、誘致する外国人人材を「高精尖」人材と「急需紧缺」人材にわけ、それぞれの認定基準を公開した。
区分 | 内容・認定基準 |
「高精尖」人材 | (1)政府の誘致計画に選定された者: 中央組織部、人力資源・社会保障部など人材主管機関が認めた人材誘致計画に選定された者、「海外ハイレベル人材誘致計画(旧千人計画等)」、「外国人ハイレベル専門家誘致計画」、「長江学者奨励計画」等に選定された者 |
(2)国際基準に適合する実績を有している者: ノーベル賞やフィールズ賞など世界的な科学技術賞の受賞者、知名度のある国際学術機関の会員、海外国立研究所のハイレベル人材、世界500大企業のR&Dセンターの核心研究人材等 |
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(3)市場志向性のある外国人人材: 世界500大企業のグローバル本部、国家先端技術企業、ユニコーン企業などに務めているハイレベル管理職または技術職、大学や研究所または3A総合病院と外資病院の管理職や副教授以上の専門職人材、収入の当該地域就業人口平均収入の6倍以上の外国人人材 |
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(4)イノベーション創業人材: 国家級大学科学技術団地、国家級科学技術インキュベーターの管理職、重大技術発明・特許等の知的財産権または技術投資の方法を使用し、累計投資規模が50万ドル以上で、個人がもっている株の割合が30%以上の企業創業者等 |
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(5)優秀な青年人材: 40歳以下の中国内大学、研究所、企業、医療機関でのポスドク研究者、直近5年以内に世界TOP200の大学を卒業した40歳未満のSTEM分野の博士 |
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「急需紧缺」人材 | 次世代情報技術、集積回路、人工智能、バイオヘルス、デジタル経済、新エネルギー、新素材、教育、金融等の分野における専門職人材 |
2022年11月に、中国で公開された「グローバル人材流動性のトレンドと発展報告(全球人才流动趋势与发展报告)」では、中国の人材における競争力を分析したが、人材規模(数)は100点、人材への待遇(環境)は79.08点と評価されたことに比べ、人材の質は僅か18.83点にとどまった。質が低いと評価される原因の一つは、本稿での「高精尖」人材と「急需紧缺」人材、いわゆるハイレベル人材の不足と、一万人労働者あたりの高等教育を受けた人数、就業人員の中の科学研究者数を指標にした場合、アメリカ、ヨーロッパ諸国、アジアではシンガポール、韓国、日本にも及ばない結果となったためである。
グローバル競争における人材誘致戦略での鍵は、人材の数より質にあると思われる。すなわち、ハイレベル人材をどれだけ確保できるのかが勝負となる。中国がとある分野や産業で発展を目指している時、よく使う手法は、「量的変化から質的変化を目指す」である。これは、一定期間投資を続けて、徐々にレベルを引き上げていく作戦であるが、コロナ禍や米中貿易戦争等の影響で、中国には、「徐々に」を待つ余裕がなくなってきた。中国共産党第二十回全国代表大会で人材政策が強調されていたのもその証だと思われる。中国のこれからの発展やチャイナドリームの実現に欠かせないハイレベル人材、今回の6つの都市でのチャレンジが成功するのか、結果が注目される。
参考資料