教育・人材
トップ  > コラム&リポート 教育・人材 >  File No.23-20

【23-20】若手テクノロジー人材のポテンシャルをどう活性化させるのか(その2)

劉 垠(科技日報記者) 2023年12月13日

image

湖南東洞庭湖国家級自然保護区で、植物の生長具合を確認する中国科学院洞庭湖湿地生態系観測研究ステーションの若手科学研究者。(撮影:周荻瀟)

 35歳を過ぎた科学研究者も、さらなる高みを目指せるのだろうか? 若手研究者は、どのようにして学術活動と事務的な活動のバランスを取り、重要な科学技術の課題を果敢に担うことができるのだろうか?

その1 より続き)

社会に出て間もない人材への安定した支援

 以前の取材では、多くの若手科学研究者が科学研究費をめぐる悩みを常に抱えていた。中国共産党中央弁公庁と国務院弁公庁が打ち出した「若手テクノロジー人材の育成・活用を一層強化するための若干の措置」(以下「措置」)では、これらの問題に対する実務的な措置を講じ、社会に出て間もない若手テクノロジー人材を支援するために、基本科学研究業務費を強化すると打ち出している。その基本科学研究業務費を、35歳以下の若手テクノロジー人材による独自研究への支援に使い、条件を満たした機関に対する支援の割合を少しずつ引き上げ、最終的に年度予算の50%以上にするとしている。

 陳氏は「基本科学研究業務費は、若手科学研究者の科学研究費を相対的かつ安定的に支援するものだ。一部の機関は基本科学研究費が非常に少なく、支援したくてもできないという難題を抱えているが、『措置』は、実際の需要や使用成果、財政状況に基づき、中央政府直属の大学や公益性のある科学研究機関の基本科学研究業務費の若手テクノロジー人材に対する支援規模を次第に拡大し、成果評価を主な根拠とする動的分配メカニズムを整備・実施する。また、各地に対して、基本科学研究業務費を含む複数の方式で資金投入を強化するよう働きかけるという方策を打ち出している」と説明した。

 基本科学研究業務費が若手科学研究者により良い形で恩恵をもたらすためには、具体的な支援方法が鍵となる。

 石氏は「調査研究の過程で、良い事例をいくつか見つけた。例えば、中国環境科学研究院の基本科学研究業務費支援は、入職して3年以内で、かつ科学研究プロジェクトを担当したことがない若手科学研究者だけを対象としている。基本科学研究業務費は、競争する形ではなく、広く恩恵を及ぼす形で活用するのが最も理想的だ。こうすることで、若手科学研究者のプロジェクト立ち上げ、中間検査、研究報告評価・審査、監査などにおける負担を軽減し、彼らが研究に没頭できる良い環境が構築できる」と語った。

若手が重要プロジェクトで主役になるよう支援

 若手テクノロジー人材は、成長できるプラットフォームや発展のチャンスが少ないという深刻な問題に直面している。これに対し「措置」では実効性の高い方法が打ち出されている。若手テクノロジー人材が国の重要科学技術プロジェクトで中心的役割を果たすことへの支援については、国家重要科学技術プロジェクトや基幹コア技術、緊急時対応テクノロジーの研究開発で若手テクノロジー人材を大胆に活用し、プロジェクト(テーマ)の責任者や中心メンバーとなる40歳以下の若手テクノロジー人材の割合を、原則的に50%以上にすると規定している。

 陳氏は「これらの数字が50%なのか、60%なのかというのは重要な問題ではない。重要なのは、テクノロジー計画のプロジェクトにおいて、さまざまな実効性の高い措置を通じ、一人でも多くの若手テクノロジー人材が中心的な役割や主役を担えるようにし、若手テクノロジー人材が中国の科学技術イノベーション発展の中心層へと成長するようサポートすることだ」と語った。

 「措置」ではさらに「国家重点研究開発計画の重点特別プロジェクトにおいて、若手科学者が担当するプロジェクトの割合をさらに高め、責任者の申請年齢を40歳に緩和し、職位や学歴などによる制限を設けない。各種国家科学技術イノベーション拠点が、若手テクノロジー人材を対象とした独自の科学研究プロジェクトを立ち上げるよう奨励し、40歳以下の若手テクノロジー人材が率先して担当する割合を原則として60%以上とする」と規定している。

各機関の状況に合わせた人材評価導入を

 機関の評価基準を合理的に制定し、論文数や人材の称号を機関の評価指標とせず、若手テクノロジー人材の審査・評価指標を数段階に分けないようにするということも「措置」の大きな注目点となっている。

 陳氏は「『措置』の人材評価の方向性は非常に明確で、科学研究機関の独自の評価能力を高めるよう求めている。また、論文だけを重視したり、肩書の数などの指標を通して評価するのをやめるよう求めている。科学研究機関はその職責や位置付け、使命を基に具体的な評価指標を定める必要がある」と指摘した。

 石氏も「良い評価指標というのは、科学研究機関が実情に合わせて制定するべきだ。例えば、中国科学院大連化学物理研究所が打ち出した『定性と定量の組み合わせ』という研究グループ審査評価体系は、科学研究評価における『論文だけを重視する』現象を打破している」と述べた。

 2022年11月、科学技術部など8部門は「テクノロジー人材評価改革の試行に関する活動案」を共同で打ち出した。これは、中国科学院計算技術研究所など科学研究機関12カ所、清華大学や北京大学などの大学またはそれらの付属機関9カ所、上海市など6地域を試行エリアに選出し、異なるイノベーション活動タイプに対するテクノロジー人材分類評価指標と評価スタイルを模索・形成しており、この点は注目に値する。


※本稿は、科技日報「全方位多角度激发青年科技人才潜力」(2023年9月25日付5面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。