【24-14】産官学連携によるオープンソースコンテスト、中国で次々と開催 賞金10億円超も
2024年08月02日
高須 正和: 株式会社スイッチサイエンス Global Business Development/ニコ技深圳コミュニティ発起人
略歴
略歴:コミュニティ運営、事業開発、リサーチャーの3分野で活動している。中国最大のオープンソースアライアンス「開源社」唯一の国際メンバー。『ニコ技深センコミュニティ』『分解のススメ』などの発起人。MakerFaire 深セン(中国)、MakerFaire シンガポールなどの運営に携わる。現在、Maker向けツールの開発/販売をしている株式会社スイッチサイエンスや、深圳市大公坊创客基地iMakerbase,MakerNet深圳等で事業開発を行っている。著書に『プロトタイプシティ』(角川書店)『メイカーズのエコシステム』(インプレスR&D)、訳書に『ハードウェアハッカー』(技術評論社)など
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大規模なオープンソースの普及活動
2021年開始の第14次五カ年計画でオープンソースの活用が掲げられてから、中国の教育機関でオープンソースの活用が進んでいる。単に教材としてオープンソースのソフトウェア・ハードウェアを使うだけでなく、計画やテンプレートなどを共有して関係者全体でアップデートしていく試みや、オープンソースを前提にコンテストの成果を共有する試みが始まっている。
中国最大のオープンソースアライアンス「開源社」が発表した2023年中国オープンソースレポートに、「开源教育大事记」として教育への取り組みが示されている(リンク)。教育部から始まったもの、工業・情報化部から始まったもの、研究機関から始まったものと、さまざまなところから国を挙げた取り組みであることが伺える。
次々と開催されるオープンソースのコンテスト・キャンペーン
・开放原子开源大赛(Open Atom Foundationオープンソース大会)
中国政府工業・情報化部が設立したオープンソース財団、開放原子開源基金会が主催する、賞金総額10億円以上に及ぶ大規模なプロジェクト。まず、オープンソースソフトウェアで解決すべき課題について一般公募(リンク)し、オンラインで募集するコンテストや、合宿形式で挑む大会を複数組織する。
実際はOpen Harmony, Open DiggerなどOpen Atom Foundationに寄贈されたオープンソースプロジェクトの活用方法や、「自動運転の空力課題解決」などが課題として選定された。
それぞれのコンテストや大会は各学校や行政組織がホスト・主催などとなるよう呼びかけられ、たとえばOpenDiggerの大会は江蘇省無錫市で行われた(リンク)。
また、このキャンペーンの過程で出た成果を論文とすることに対して、別の賞金が設けられている(リンク)。
・开源之夏(OSPP)
中国科学院ソフトウェア研究所(ISCAS)が主催した活動で、2023年は592大学から3475名の学生プロジェクト応募があり、504名の学生が入選、合計1236件のPull Request(ソフトウェアの改善)が行われた。
・GitLink 确实开源编程夏令营(GLCC)
中国計算機学会が主催した活動で、139大学から341名の学生が参加したサマーキャンプで、80のプロジェクトが評価合格となった。
・中国软件开源创新大赛(オープンソース・ソフトウェア・イノベーション大会)
2024年で第6回を迎える、国家機関の自然科学基金委信息科学部が指導し、中国計算機学会が主催する、さまざまな学会や大学などをまたがったオープンソース・ソフトウェア・イノベーション大会。賞金総額30万元で、特等(2万元)が5名、1等(1万元)が8名、2等(6000元)が20名のほか、上位10%に3等が与えられるなど、幅広い範囲を表彰。
・"麒麟杯" 全国开源应用软件开发大赛(キリンカップ・全国オープンソースアプリケーション開発大会)
2024年で第12回目を迎える、中国ソフトウェア産業公開、Open Atom Foundation,中国計算機学会オープンソース発展委員会など、複数の官製組織が呼びかけたコンテストで、60以上の大学から345チームが応募し、20チームが決勝ラウンドに進んだ(リンク)。
・中国研究生操作系统开源创新大赛(中国オープンソースOSイノベーション大会)
政府の教育部が主導して行われた、中国の研究機関を対象に行われているオープンソースOSのコンテスト(リンク)。
・开源和信息消费大赛(オープンソース・オープンデータ消費大会)
企業向けのコンテストで、SaaSやブロックチェーンなどのプラットフォームづくりがテーマとなっている。
産学のマッチングを仕掛けるオープンソース・ファウンデーション
多くのコンテスト・キャンペーンで共通しているのが、呼びかける相手が学生でも、学生だけのコンテストで終わらないところだ。企業が開発してオープンソースとして公開したソフトウェアの改善、複数の企業が共通して抱える課題を研究機関と協力して解決するなど、Open Atom Foundationが産学のマッチングを仕掛ける組織として活躍している。これは過去の記事で紹介したように、政府の外郭団体として企業と政府のリソース(教育機関も含まれる)を統合する役割を担っていると言える。
【23-74】急速に進化するOpenAtom Foundation、中国のソフトウェア開発を主導
西洋のオープンソース・ファウンデーションは非営利団体(NPO)で、かつ非政府機構(NGO)だが、OpenAtom FoundationはNPOだが政府系の研究機関であってNGOではない。
教育・普及活動で行われる産官学の連携
オープンソースソフトウェアの開発は、実際に使う人を含めて、社会を巻き込んで行われることが多い。コンテストをオープンに行うことは、結果として産学連携のケースが生まれやすくなる。いくつかのコンテストは中国計算機学会や科学部などの政府機関が主催しているが、コンテストの形式をオープンソースにすることで、企業との連携がしやすくなっている様子が見て取れる。
また、大規模なソフトウェアの多くはファーウェイやアリババなどの大企業が開発したものをオープンソース・ファウンデーションに寄贈して中立に公開したものだが、関連ビジネスは開発企業が引き続いて行っていることが多く、これも産学連携を助けている。さらに、コンテストの主体は、地方政府が引き受けていることも多く、地方政府と企業と研究のリソースを統合する、中国らしい産業振興政策としてオープンソースソフトウェアを用いたコンテストが行われているという性質もありそうだ。