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【25-07】Nature Index 2025-中国が成長、卓越ジャーナル支援策も貢献

松田侑奈(JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー) 2025年07月03日

「Nature Index Research Leaders」は、自然科学・医学系の主要学術誌(約145誌)に掲載された論文をもとに、研究機関や国の成果を数値化・可視化したものである。論文数は量的指標であり、調整シェアは質や貢献度を図る指標である。調整シェアとは、Nature Indexに掲載された論文の総数が基準年と比べて何パーセント増減したかを算出し、その変化率に基づいて各機関のシェア値を基準年のレベルに調整して得る数値である。即ち、高品質な国際論文への実質的な貢献度を、年を越えて比較できる指標であり、単なる論文数では見えない研究の質と影響力を示すため、質を測る基準として用いられている。

 6月11日、「Nature Index Research Leaders 2025」が公開された。中国の研究成果は大幅な増加を見せ、国・地域別で今年も1位となった。

 中国の論文数は37,273で、調整シェアは前年に比べて17.4%増加し、量・質ともに主要国の中で最も高い成長率を記録した。日本は論文数では前年度に続き5位を維持したが、調整シェアは9%低下し、苦戦している。

 日本を除くアジア各国の研究成果は、下記表の通り、著しい伸びを見せている。上位10カ国のうち、中国以外で調整後のシェアが2023年から増加したのは韓国とインドのみで、それぞれ4.1%と2%増加した。韓国は総合ランキングでカナダを抜いて7位に上昇し、表にはないが、18位から16位にランクアップしたシンガポールは7%の増加を記録し、上位20カ国の中で中国に次いで2番目に大きな増加となった。かつて優勢だった西側諸国は、調整後シェアが2年連続で減少し、カナダ、フランス、スイス、英国、米国はいずれも7%以上の減少を記録した。

2024年Nature Index研究成果順位と調整シェア(国・地域別)
順位 2023年シェア 2024年シェア 論文数 2023年から2024年にかけての調整シェアの変化
1 中国 23,580.30 32,121.81 37,273 ▲17.4%
2 米国 21,160.53 22,082.59 31,930 ▼10.1%
3 ドイツ 4,397.78 5,000.90 10,559 ▼2.0%
4 英国 3,810.87 3,942.01 9,528 ▼10.9%
5 日本 3,015.07 3,185.39 5,555 ▼9.0%
6 フランス 2,301.44 2,421.39 5,955 ▼9.3%
7 韓国 1,670.92 2,017.95 3,431 ▲4.1%
8 カナダ 1,780.90 1,854.49 4,566 ▼10.3%
9 インド 1,506.64 1,783.34 2,733 ▲2.0%
10 スイス 1,417.24 1,522.50 3,967 ▼7.4%

 また、研究成果シェア上位10機関のうち8つが中国の機関であることが示すように、中国は圧倒的に高い生産性と研究力を有している。特に浙江大学(▲18.0%)と上海交通大学(▲19.9%)の伸びが顕著である。

2024年Nature Index上位10機関の調整シェア変化
順位 機関名 2023年シェア 2024年シェア 論文数 2023年から2024年にかけての調整シェアの変化
1 中国科学院(CAS) 2,253.62 2,776.90 9,445 ▲6.2%
2 ハーバード大学 1,206.87 1,155.19 3,915 ▼17.5%
3 中国科学技術大学 651.48 850.60 2,609 ▲12.5%
4 浙江大学 598.53 819.57 2,118 ▲18.0%
5 北京大学 622.03 812.32 3,080 ▲12.5%
6 中国科学院大学 647.09 793.59 3,925 ▲5.7%
7 清華大学 610.86 769.57 2,526 ▲8.5%
8 南京大学 618.74 755.20 1,864 ▲5.2%
9 マックス・プランク協会(ドイツ) 650.78 752.22 2,847 ▼0.4%
10 上海交通大学 512.47 713.24 1,936 ▲19.9%

 分野別でみると、科学の5大分野(下記)における上位10機関は、そのほとんどが中国の研究機関である。特に物理・化学・地球科学分野では、8割以上を占めている。

生命科学:米国のハーバード大学がリード。中国科学院と浙江大学が上位に。

化学:上位10機関すべてが中国の研究機関。

地球・環境科学:上位10機関中8機関が中国の研究機関。中国科学院、南京大学、中国科学院大学などが急成長。

健康科学:米国(ハーバード大学、米国立衛生研究所(NIH)、ジョンズ・ホプキンス大学)がリード。中国からは中山大学が7位に入った。

物理科学:上位10機関中9機関が中国。中国科学院が1位、清華大学、浙江大学が続く。

 ただ、企業においては、米国が上位10社のうち7社を占め、技術的には、依然として米国がリードしていることが窺える。中国のシノペック(Sinopec)がシェア129.7%増で11位にランクインした。

 Nature Index 2025は、中国を中心とするアジア諸国の研究生産性が急速に向上していることを示している。特に中国の伸びは、単なる論文数の増加にとどまらず、中国が世界の科学研究において質・量ともに主導権を握りつつあることを示している。米国は依然として生命科学・健康科学で強みを維持しているが、科学全体の重心はアジア(特に中国)にシフトしつつあるかもしれない。特に中国の機関が物理・化学・地球科学分野で世界最上位を多数占めていることは、2019年以降、中国が体系的に推進してきた「中国科学技術ジャーナル卓越行動プラン」などの政策的支援が大きいと思われる。論文捏造・盗用・著者の不正登録などの問題や中国発の学術誌や論文への国際的な信頼性(peer reviewの透明性、オーサーシップの正当性など)が時々疑問視されるが、中国の成長は、中国が「科学技術強国」への道を、量から質へと進化させつつあり、今後のグローバル科学のパワーバランスを再編する中心的プレイヤーとなっていることを如実に示している。

 最後に、参考として、「中国科学技術ジャーナル卓越行動プラン」の内容を整理しておく。2019年から科学技術部等は、世界レベルの科学技術学術誌の育成を目的に、中国科学技術ジャーナル卓越行動プランを5年ごとに策定し、実施している。現在進行中の第2期(2024~2028)では、285件のプロジェクトを選定し、財政支援および人材育成を通じて中国学術誌の国際競争力を強化している。英語学術誌支援、中国語学術誌支援事業等に分かれている。

「中国科学技術ジャーナル卓越行動プラン」第2期(2024~2028)の内容
出典:中国科学技术协会「关于组织实施中国科技期刊卓越行动计划二期项目的通知」
事業名 内容
1 英語学術誌支援 国際的影響力を持ち、中国主体で運営され、データも国内に保管される英語学術誌を選定・支援。
対象:
① 先導英語誌(50誌):年間最大150万元支援
② 次世代英語誌(150誌):年間最大50万元支援
2 中国語学術誌支援 中国が強みを持つ分野や重点研究分野を反映する中国語学術誌を支援。
対象:
① 先導中国語誌(100誌):年間最大30万元支援
② 次世代誌(学術90誌、科学普及10誌):年間最大10万元支援
3 高水準新刊創刊支援 学問領域のバランスのとれた発展を実現すべく、英語・中国語の新規学術誌の創刊を奨励。(例:AI、量子技術、バイオ医療、宇宙、材料、海洋など50以上の重点分野)
対象:
全国学会、国際機構、双一流大学、国家研究機関、国家重点実験室など。英語誌と中国語誌計50誌を支援(中国語は10誌以内)。
※財政支援はなし。行政手続きの優先(登録・発行番号付与)などを支援。
4 優秀編集人材育成 学術誌編集および運営を専門的・国際的に担える人材の育成を図る。
支援形式:
① 編集専門人材育成プロジェクト2件(各最大70万元、単発)
② 学術誌人材研修支援プロジェクト50件(各5万元、単発)
5 学術誌クラスター試行事業 デジタル統合プラットフォームを構築し、出版~査読~流通~データ管理の一体化と国産化を推進。
支援タイプ:
A型:先導型プラットフォーム(2件、年最大1,000万元)
B型:中堅プラットフォーム(6件、年最大500万元)
C型:初期プラットフォーム(5件、年最大100万元)→いずれも5年間の安定的な財政支援あり

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