【25-13】「AI時代」の科学教育はどう実施すべきか(その1)
呉葉凡(科技日報記者) 2025年09月05日
物理探究の授業を行う北京市第一〇一中学の教師。(画像は取材先提供)
自動で果物を収穫する「つる状」のロボットアーム、高齢者を遠隔で見守るスマート介護機器、ごみ分別に用いられる音声認識技術......。北京市第一〇一中学でこのほど開かれた「小中高校科学教育の革新と発展に関するシンポジウム」の会場では、生徒6人が科学探究の革新的成果を披露した。
北京市海淀区教育科学研究院の呉穎恵院長は、「小中高校の科学教育は、自然科学の内容に重点を置き、科学技術革新人材の育成を目標に、青少年の科学的素養を高める教育活動だ。これは教育・科学技術・人材における質の高い協同発展を推進する重要な注力ポイントだ」と述べた。
2023年、中国教育部(省)など18機関が共同で「新時代における小中高校科学教育の強化に関する意見」を発表した。教育の「ダブル軽減(義務教育段階の生徒たちの宿題と学習塾の負担軽減)」政策において、科学教育を強化する取り組みを行い、教育・科学技術・人材における質の高い発展を一体的に推進することを提案した。それから2年、科学教育にはどのような優れた実践例があるのか。科学教育発展の「新たな原動力」をどう作り、科学教育に実効性を持たせるにはどうすればよいのか。シンポジウムでは、複数の学校の校長がそれぞれの経験を共有した。
AIの活用:技術変革への対応
現在、新たな科学技術革命と産業変革の進行が加速している。その中でもAI(人工知能)技術をはじめとする新たな質の生産力は、人々の生産・生活様式をあらゆる面で再構築している。教育分野においても、AI技術は授業内外に取り入れられ、教育の形態やエコシステムを変えつつある。技術がもたらした課題と変革に直面し、多くの科学教師は、「AI時代に、科学教育をどのように実施すれば、新しい技術の発展の『歩み』に追いつけるのだろうか」との疑問を抱いている。
中国人民大学附属中学の劉小恵校長によると、AIを科学教育における「新しい原動力」とするためには、二つの側面から着手すべきだという。「一つはAIを授業内容として科学教育に組み込み、もう一つはAIを道具として用いて、生徒のAIリテラシーを高めることだ」と訴える。
劉氏は、同中学での事例を紹介した。学校は授業内容の面で、横断的な学際性と縦方向の段階性を持つAIカリキュラム体系を構築した。そして、「30以上の科目からなるカリキュラム群を整備している。チームは学際的な革新授業事例を開発し、100を超える授業事例を蓄積した」と述べた。
以前、同中学と中国人民大学附属小学の教師が共同で「AI+数学」「AI+物理」など6つの授業を開講した。劉氏は、「生徒たちはこれらの授業が大好きで、教師たちもこのような革新的実践に非常に興奮している」と語った。
劉氏はまた、AIによる科学教育の推進では人文的素養の育成も軽視してはならないと強調した。最近、北京市教育委員会は『北京市小中高校AI教育推進計画(2025-27年)』を発表し、AIによる五育(徳育、智育、体育、美育、労働教育)融合の育成体系を強調し、「AI+美育浸透」などの応用シーンの拡大を提案した。劉氏は、印象に残った授業として「生成AIとともに創作する-AIで青銅器に刻まれた『中国』の鼓動に触れる」という授業を紹介した。そして、「これは情報技術教師と歴史教師が共同で教える北京市レベルの研究授業で、生徒は学びの中で国宝の魅力を感じ、文化的自信を高めることができる」と述べた。
「グループ作戦」:教育資源の共有
科学教育を行うには、質の高い教師陣や機器などの教育資源が必要だ。しかし、膨大な生徒数に比べ、質の高い科学教育資源は依然として「希少品」だ。以前発表された『新時代における小中高校科学教育の強化に関する意見』では、科学教育において弱い地域や学校を「一つも取り残さない」ことが明記されている。このため、質の高い資源の共有をどう実現するかは、学校や教育当局にとって避けられない課題だ。
グループ化による学校運営は、教育資源の質的均衡を促進する重要な手段だ。2023年8月、教育部などが共同で『新時代における基礎教育の質向上行動計画』を打ち出し、学区(文教エリア)・グループによる管理運営メカニズムを整備し、中堅教師の交流と資源共有を促し、学区内やグループ内の学校の優質均衡化加速を提案した。この運営モデルもまた、科学教育を深めるもう一つの重要な「原動力」となっている。
シンポジウムでは複数の専門家が、グループ運営では異なる学校間で教育理念・制度・カリキュラム・評価の統一を進めるべきで、「形だけ集まり、精神が散る」問題を避けるべきだと訴えた。また、小中高をカバーする教育グループでは、学校段階間の連携・接続を図り、一貫した育成体系を構築するべきだと提案した。
(その2 へつづく)
※本稿は、科技日報「人工智能时代,科学教育这样开展」(2025年7月30日付)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。