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【23-06】中国初のオープンソース・ライセンス訴訟、法廷がGPLライセンスの意義を認める

2023年07月18日

高須 正和

高須 正和: 株式会社スイッチサイエンス Global Business Development/ニコ技深圳コミュニティ発起人

略歴

略歴:コミュニティ運営、事業開発、リサーチャーの3分野で活動している。中国最大のオープンソースアライアンス「開源社」唯一の国際メンバー。『ニコ技深センコミュニティ』『分解のススメ』などの発起人。MakerFaire 深セン(中国)、MakerFaire シンガポールなどの運営に携わる。現在、Maker向けツールの開発/販売をしている株式会社スイッチサイエンスや、深圳市大公坊创客基地iMakerbase,MakerNet深圳等で事業開発を行っている。著書に『プロトタイプシティ』(角川書店)『メイカーズのエコシステム』(インプレスR&D)、訳書に『ハードウェアハッカー』(技術評論社)など
medium.com/@tks/takasu-profile-c50feee078ac

 2022年10月、GPL(General Public License)  をテーマにした中国初の裁判が結審した。訴訟のきっかけは、以前勤めていた会社からプログラムのソースコードを盗み出して製品化した会社があったという、中国ではありふれた話だ。だが、裁判の中でお互いがGPLを根拠にした(間違った)主張を行い、中国の法廷がGPLについてきちんとした指導を行った、つまりは中国の法廷がGPLの有効性を認めたものとして、中国のオープンソース界で話題になっている(判例のリンク:中国語)。

GPLライセンスの効果と法的強制力

 オープンソースのソフトウェアは、ソフトウェアごとに利用や配布に関する条件を定めたライセンスが付与されている。Linuxのカーネルなどに採用されているGPLは、フリーソフトウェアのライセンス形態の代表的な1つで、利用者はソフトウェアの実行や研究、複製、変更、配布などを自由に行うことができる。また、派生作品を作成した場合は、その派生作品のソースコードを一般に公開する必要がある。これにより、他の開発者やユーザーが派生作品を改良したり学習したりすることを促進し、オープンソースソフトウェアの普及を促進することを目指している(リンク:最新版 )。

 GPLを定義し、配布しているのは非営利団体の自由ソフトウェア協会(Free Sortware Foundation;FSF)だ。GPLは著作権ライセンスであり、刑法や民法でないため、紛争時の解決もFSFに窓口があるが(リンク:GNUライセンスに対する違反 )、ライセンス原文や対応は英語のみであり、それぞれの翻訳は非公式とされている(リンク:各国語への翻訳 )。

 そのため、特に英語圏以外で、GPLを根拠にした紛争が起きたとき、どうやって法的に解決するかはさまざまな国でテーマになっている。

盗用か? 自由なソフトウェアか? 中国初のGPL裁判

 2021年10月8日、原告の南京未来高科技有限公司(以下、南京未来)は、江蘇雲蜻蜓雅築信息技術有限公司及びプロジェクト代表の劉木茂氏(以下まとめて劉木茂氏とする)に対して、著作権侵害の訴訟を起こした。

 被告の劉木茂氏は、南京未来を退社して江蘇雲蜻に入社してすぐ、南京未来のソースコード非公開製品にそっくりのソフトウェアを販売し始めた。中国法廷の技官が調査し、ソフトウェアの機能や特徴的なスペルミス、関数のつけかた、退職後にも規約に違反して南京未来のソフトウェアリポジトリにアクセスし、該当のソースコードをダウンロードしていたことなどから、劉氏が前職の南京未来からソフトウェアを持ち出して江蘇雲蜻の製品としたことを認定した。

 盗用そのものは議論の余地のない明快な結論となった。しかし、被告の劉氏がさまざまな抗弁の中で、「南京未来の制作したソフトの主要部分はオープンソースの SharpZipLib をほぼそのまま使っただけだ。SharpZipLibはGPLライセンスが適用されたライブラリなので、ソフト全体のソースコードが公開されるべきものであり、自分がソースコードを入手したことは侵害にあたらない」と主張し、原告の南京未来が「自分たちのソフトウェアはSharpZipLib のライセンスであるGPL2.0の例外規定が適用されるためソースコードの開示義務はない」と主張したことで、中国の法廷で初めてGPLが大きく扱われることとなった。判例の中でも多くの部分がGPLの意義とその適用について割かれている。

法廷は原告のGPL違反を強く指摘し、指導

 結論として、被告がソフトウェアを盗み出して販売したことに対しては民事訴訟として300万元の損害賠償金が課せられたが、判決文上は原告がそもそもGPLライセンスが適用されているオープンソースのライブラリを、ライセンス違反の使い方をして製品としたことを問題とし、訴えた原告に対して多くの指導が行われている。

1. ソフト全体の主要機能は、SharpZipLibほかGPLが定義されたライブラリを呼び出すだけで、GPLが適用されたライブラリの派生物とされ、GPLが適用されるべきである。

2. SharpZipLibに適用されているGPL2.0では、オープンソースのライブラリに静的・動的なリンクを適用し、ライブラリそのものは改変しないことで、再配布を認めているが、原告のライブラリ用法はこれに則っておらず、例外規定にあたらない。

3. 原告のソフトはGPLの対象になり、ソースコードを公開すべきだが、原告は裁判の過程で、裁判所の尋問に対し、本件に関係する入札ツールソフトウェアのソースコードをオープンソース化するつもりはないと述べた。

4. 原告は、GPLV2契約に求められている対応ソースコードの提供義務に違反し、このようなGPL契約の違反は、ライセンサーと原告との間のライセンスの自動的な解除につながるため、原告がGPL契約に基づいて取得したライセンスは解除されており、原告には元のGPLオープンソースコードを継続して使用する権利はない。 原告は被告を不法行為と侵害で訴えたが、 まず原告はオープンソースコードの使用を規制し、オープンソース契約を遵守し、自らの権利の合法性と適法性を証明すべき である。そうでなければ、不適切で不法な行為者が別の不適切で不法な行為者を同じ行為で非難するという奇妙な論理になる。もし裁判所が原告の権利に基づいて、他の行為者がコンピュータソフトウェアの侵害を構成することを認定すれば、つまり原告の将来の会社の不正行為がもたらした利益を保護するために、必然的に特別な法的地位と特別な商業的利益を与えることになり、公平と誠実の原則に沿わない。

 (太字は筆者。特徴的な文章なので原文を付記:
第四,原告违反了GPLV2协议要求提供相应的源代码的义务,违反了GPL协议,构成违约,同时导致授权人与原告之间的授权自动解除,原告基于GPL协议获得的许可终止,原告对原GPL开源代码的继续使用系无权使用。原告起诉被告行为不当,构成侵权,但其自身首先应当规范使用开源代码,遵守开源协议,并证明自身权利的正当和合法,否则即会导致一个不当、不法的行为人指责另一个实施相同行为的不当、不法行为人的逻辑怪圏。法院如果基于原告的该权利认定其他行为人构成计算机软件侵权,即会保护原告未来公司的不当行为带来的利益,势必赋于其特殊法律地位和特别商事利益,不符合公平、诚信原则。)

5. 原告は中国著作権保護センターにコンピュータソフトウェアの著作権を登録する際、当該ソフトウェアがGPL協定に該当しないという陳述書を提出した。原告はプロのソフトウェア開発者として、 オープンソース・ライセンスにもっと注意を払い 、技術的手段によってGPL協定が厳しすぎるという問題を解決すべきだった。

 (太字は筆者。特徴的な文章なので原文を付記:
第五,原告向中国版权保护中心的登记计算机软件著作权时,提交了一份涉案软件不适用GPL协议的声明,原吿作为专业的软件开发者,理应对开源协议负有更髙的注意义务,通过技术手段解决GPL协议过于严格的问题。)

6. 原告のGPL違反を法廷が保護すると、GPLによるソースコードの普及に悪影響を及ぼす。

中国法廷がGPLの意義を認識し、強く推奨

この裁判は、よくある従業員の引き抜きに伴うソースコードの盗み出しという事件に、

・ 訴えた原告がそもそもGPLライセンス規約を違反してソースコードを開示せずにライブラリを使っていた

・ 法廷がソフトウェアのソースコードの対比による著作権侵害判断とGPLライセンスの該当性判断、そしてオープンソース・ライセンスの意義をきっちりと検証した

・ 法廷が「オープンソースはいかにして中国全体のソフトウェア開発を助け、これからの中国のソフトウェア開発はどうあるべきか」の指針を示したという点で、非常にエポックメイキングな出来事と言える。

 14次五カ年計画で、中国政府は法整備含めたオープンソース推進を明確に宣言している。その中には、中国の法的機関でオープンソースに伴う紛争解決ができるようにすることも含まれている。

【22-06】中国政府、14次五カ年計画に「オープンソースの知財戦略」を組み込む

 今回のケースはこの宣言が具体例となったものといえ、中国のオープンソース界でも大きく話題となっている。中国の知財戦略にオープンソースは組み込まれ、今後もこのような事例が多く見られると考えられる。


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