知財・法律
トップ  > コラム&リポート 知財・法律 >  File No.24-09

【24-09】科学技術成果の実用化を阻む「足枷」を外す(その1)

陳 曦(科技日報記者) 2024年09月04日

(画像提供:視覚中国)

 2015年に「中華人民共和国科学技術成果転化促進法」が改正されてから、中国では「『中華人民共和国科学技術成果転化促進法』の実施に関する若干の規定」や「科学技術成果の転移転化促進行動案」が発表され、法律・法規の改正から関連細則の策定、具体的なタスクに至る科学技術成果の転移・転化業務の「三部作」を形成した。成果の使用権、処分権、収益権を全て科学研究機関に委譲し、科学技術成果の実用化を阻む「大きな足かせ」を外すことで、顕著な成果を挙げてきたが、科学技術成果の実用化がさらに進展するにつれて、一部の根深い問題が次第に顕在化している。

 天津市はこのほど、「科学技術成果の実用化と革新的改革をさらに推進するための若干の措置」(以下「若干の措置」)を発表した。これは、成果実用化の体制やメカニズムに存在する「職務科学技術成果」(大学や科学研究機関などが職務を果たす過程で得た科学技術成果)の管理、権利付与、値踏み出資など7つの重大かつ困難な問題に対し、18の革新的措置を打ち出したもので、科学技術成果の実用化を阻む「小さな足枷」を的確に外すとしている。

職務科学技術成果の分別管理

 科学技術成果は、大学や科学研究機関における国有無形資産であり、その資産価値の確認などの問題は、これまで常に実用化プロセスにおける難題となってきた。

 天津市科技局科学技術成果・技術市場処の趙暁鵬副処長は「職務科学技術成果の価格は、科学技術成果の実用化の全過程における最も核心的な問題だ。特殊な無形資産である職務科学技術成果は、一般的な国有資産と異なり、独自のイノベーションの規律が存在する。職務科学技術成果は形成された後も、すぐには実用化されないため、その価値を正確に判断することができず、適切な方法で国有資産に組み込むことができない」と説明した。

 では、他の国有資産とは異なる科学技術成果の管理制度を、どのようにして構築すれば良いのだろうか。この問題に対して「若干の措置」は、職務科学技術成果の全過程を分別管理するという方法を打ち出し、的確なガイドラインを提示している。

「若干の措置」では「移転や許諾、値踏み出資などの方法により、実用化前の職務科学技術成果のコストや価値が正確に算出できない場合、法律に基づいて無形資産としての確認は行わない。実用化の際、科学研究事業機関は実際の状況に基づいて『協議による価格設定+公告』や、技術取引市場での上場取引などの方法を選択し、科学技術成果の価格を決定することができる。実用化後、科学研究事業機関は値踏みによる株式参入などの方法で、職務科学技術成果を実用化して形成される国有資産の管理方法を確立することができる。こうした国有資産の移転、譲渡、撤退などの処置については、一般的な国有資産の管理方法とは異なり、科学研究事業機関または市レベルの主管部門が権限に基づいて、審査・認可、登録に関する決定を行うもので、国有資産価値の保全・向上に関する管理審査の範囲には組み込まない」と明確に規定している。

 趙氏は「実用化前に関する政策が打ち出されたのは画期的なことだ。これは、職務科学技術成果の分別管理を実施するための基礎となる。職務科学技術成果の実用化後、成果の価値は市場の影響を受けて変化しやすくなる。事業機関のトップは意思決定をする際、価値の変化により国有資産が流失し、責任を問われるリスクを懸念することが多い。『若干の措置』は、実用化後に形成された国有資産に関しては分別管理を実施すると明記しており、そのような懸念を払しょくし、科学研究事業機関が成果の実用化を思い切って実行するよう促している」と見解を述べた。

「全ての所有権を付与するのは画期的」

 科学研究者の職務科学技術成果に対する権利付与改革を深化させるのが、「若干の措置」の重要な目的の一つだ。18の措置は、成果実用化の権益改革を全面的に実施することを基礎とし、権利の帰属改革をさらに深化させており、「成果創出者(チーム)に対し、職務科学技術成果の全ての所有権、または10年以上の長期使用権を付与することができる」と明記している。

 趙氏は「全ての所有権を付与するのは画期的なことだ。2020年5月に科学技術部など9部門が共同で打ち出した『科学研究者に対し職務科学技術成果の所有権あるいは長期使用権を付与する試行実施案』は、成果創出者と所属機関の両方が成果所有権を持つことを認めているが、それは『一部の権利の付与』で、実施にも複雑な手続きが必要になっており、複数の段階を経てはじめて権利が取得できるようになっていた」と指摘する。

 南開大学特許・知的財産権管理弁公室の韓寧主任は「18の措置は、『一部の権利付与』という制限を取り払い、科学技術成果の所有権を発明者に付与し、発明者にさらに大きな実用化の自由を与えるもので、審査の時間を短縮できるため、実用化のチャンスを把握するのに有利となり、多くの優れた社会資金を呼び込むことにつながる」と分析している。

 18の措置はまた、大学が成果実用化の必要性に基づき、実用化によって生まれた国有株式の所有権を、独立した法人資格を有する大学テクノロジーパーク運営企業や新型研究開発機関、技術移転センター、資産管理会社などの主体に移管し、管理運営させることをサポートしている。これにより、成果の実用化に対し、より便利かつ専門的なサービスが提供されるようになる。

 趙氏は「これまでは、科学技術成果の所有権は全て、資産管理会社に移さなければならなかった。だが、資産管理会社は管理を重視するが、実用化はあまり重視しないことが多い。『若干の措置』は大学のニーズに合わせて、職務科学技術成果の権利付与対象を多様化する模索を行っている」と説明した。

その2 へつづく)


※本稿は、科技日報「解除束缚科技成果转化的"细绳子"」(2024年7月23日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

 

上へ戻る