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【07-002】酸化チタン光触媒反応を発見した藤嶋昭教授と日中研究交流(下)

2007年2月20日

  酸化チタン光触媒の反応を世界で最初に発見した 藤嶋昭東京大学特別栄誉教授(現在、財 団法人神奈川科学技術アカデミー理事長)を 囲む日中研究交流会は、光 触媒の研究にとどまらず多くの魅力的な研究テーマへと広がっている現状報告会となった。今回はその研究成果の一端を紹介するとともに、日 中の共同研究や研究交流についての率直な意見交換の様子を報告し、今 後の日中研究交流の輪が広がることを期待する。

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日中交流研究会出席者(敬称略、順不同)

  • 藤嶋昭(財団法人神奈川科学技術アカデミー理事長、東大特別栄誉教授、日本化学会会長)
  • 姚建年( 中国科学院化学研究所副所長、 中国科学院院士)
  • 江雷( 中国科学院化学研究所教授、国家ナノ科学技術センター首席科学者)
  • 劉忠範( 北京大学ナノ科学技術研究センター長、
  • 国家ナノテク・工程研究院副院長、長江学者特別招聘教授)
  • 孟慶波( 中国科学院物理学研究所教授、クリーンエネルギーセンター副所長)
  • 顧忠沢(中国 東南大学生物科学・医学工程系教授、生物電子学国家重点実験室副室長、長江学者特別招聘教授)
  • 只金芳( 中国科学院理化技術研究所教授)
  • 永野博(科学技術振興機構理事)
  • 司会・馬場錬成(中国総合研究センター長)

姚建年教授の講演 ナノワイヤーの作成などで多くの研究成果

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 本日は有機系の光機能材料の効果について講演したい。私が日本に留学し、藤嶋研究室で行っていた、光で着色するフォトクロミズム反応、電気化学的に着色するエレクトロクロミズムの研究は、い まなお研究者や学生と続けている。

 無機系から始まったナノ材料研究は10年前からブームとなり、サイズ効果等が発見された。有機系については、最初は高分子系の研究が集中的に行われたが、我々は小さな有機分子に着目した。

 有機系と無機系のナノ材料の違いを見ると、無機系は原子と原子の結びつきであり、金属結合やイオン結合といった強い結合が存在している。これに対し、有機系は分子が一つ一つで、そ の分子の間にファンデルワールス力等が働いている。このように有機系と無機系はそれぞれ異なる特徴がある。有機の小分子で材料を形成すると新しい物理化学的性質を発見することができる。

 我々はまず、分子のデザインから開始する。分子の中にドナーとアクセプタ両方を持たせ、電子変換が容易にできるようにする。この分子を利用して、色々と物理化学的手法を用いてナノ材料とする。分 子内のインタラクションと分子間のインタラクション両方を活用してさまざまな機能実現を目指している。

 分子の空間的な構造として、直線の他に曲線構造で粒径が均質なナノパーティクルの作成にも成功している。

 粒径の異なるナノパーティクルの吸収スペクトルを計測すると、粒径が大きくなるほど長波長(450nm)のところに新しいピークが出た。これは、分子と分子が集まった結果生じた新たな性質である。蛍 光寿命測定でも、粒径に応じて2種類の性質が存在していることがわかった。

 更に、粒子径に応じて、どのように発光波長が変化するか、有機材料の場合も無機材料と同様、サイズによって調節できるかどうかを調べた。その結果、ナ ノパーティクルの粒径に応じた発光に変化が生じることがわかった。

 有機のナノパーティクルへのドーピングによる発光制御では、有機溶液中にドナー、アクセプタも入れ、DCMとTPPをドープしたところ、DCMとTPPの量によって青から赤まで、発 光量が調節できることがわかった。

 結論として、有機系も無機系と同様、発光波長や量を粒径に応じてコントロールできることがわかった。

姚建年教授の業績と研究活動

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 教授の名を高めたのは、1992年に「Nature」に発表したモリブデン酸化物を用いた研究成果である。真 空蒸着法で作製した酸化モリブデン薄膜に紫外線を照射するとフォトクロミズム反応によって着色する。着色は電解処理によって消すこともできる。この着色、消 色を繰り返すことで新しいプリント方式も夢ではないという。たとえば何回でも再利用ができる紙が開発されると、木材・森林資源の保全につながる。

 いま、姚建年教授の研究室は研究員、副研究員、博士課程の学生らを含めると30人前後になる。2006年には、国際論文を28本出すなど大きな成果をあげている。研究費は年間約200万元。博 士課程の修了者の進路を聞くと、一人は米国へ、一人は韓国へ行き、もう一人は研究室に残っている。日本への留学生がいないのはちょっと寂しい思いをした。(CRCマンスリーレポート編集部)

劉忠範教授の講演 カーボンナノチューブのさまざまな特性

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 1984年に日本に行き、93年まで日本で学び、藤嶋研究室には5年間在籍した。今から13年前に東大より北京大学助教授として帰国。6月5日に帰国したのだが、3 ヵ月後の9月には早くも教授に昇格した。

 横浜みなとみらい21のMMタワーは光触媒タイル 現在取り組んでいる研究テーマは、酸化チタンや光触媒はあまり関係なく、いまはナノケミストリー、ナノ構造、ナノデバイスの研究を行っている。

 カーボンナノチューブに基づくCMOSデバイスの研究を 973プロジェクトで行っていたが、約 1ヶ月前に終わった。結果としては、非 常に満足する成果が得られた。

 SPM(走査型プローブ顕微鏡)による超高密度データ蓄積も行っている。ナノインプリントリソグラフィーを利用し、光機能構造を研究している。

 最近はバイオテンプレートを利用し、自然を模倣してナノ構造を作っている。例えば、セミの羽を直接バイオスタンプとして利用すると光が反射しない。この性質を材料に活用することができる。

 また、カーボンナノチューブは金属にも、半導体にもなる。したがってトランジスタに利用し、シリコンセミコンダクタと同じCMOSデバイスにできるはずと考えた。

 この際の重要な課題として、次のようなものがあげられる。

  • カーボンナノチューブの構造はどのように制御するか
  • 完全な金属性、半導体性をどのようにわけるか。その技術は何か
  • カーボンナノチューブ自身はランダムな構造。これをどうアラインするか
  • 耐エラー性の高いアーキテクチャの開発
  • カーボンナノチューブをどのように集積してデバイスとするか

 CVD法を利用して高温で成長させることで4センチ以上のナノチューブを作ることが出来る。この時、C VD成長中に温度を突然上げるとチューブは細くなり、下げるとチューブは太くなる。ナ ノチューブは太さに応じて金属性/半導体性のコントロールができるので、同じチューブの中で両方の物性を持つことができる。こ の様にナノチューブの物性をコントロールできたことが、ラ マンスペクトル分析で確認された。

 カーボンナノチューブを有機修飾する場合、高温は利用できないので、低温プロセスが必要である。カーボンナノチューブは表面接触すると蛍光性がなくなるが、モ ノレイヤー基盤上にうつすと光蛍光性が回復した。

 カーボンナノチューブの曲げ強度については、チューブを曲げていくと、ある時点からバックルができる。将来的には、カーボンナノチューブコンピューティングに応用できるのではないかと期待している。& amp; amp; lt; /p>

 この研究は、 973プロジェクト、 985プロジェクト、 211プロジェクトとNSFCから資金提供を受けた。< /div>

劉 忠範教授の論文が大きな話題になる

 劉教授は、東大に留学中の1990年にアゾベンゼン単分子膜の光異性体化反応を利用して、人工的に人間の脳の記憶系をシュミレーションできる可能性を示唆する実験成果を出し、「Nature」に 発表して学界で大きな話題となった。

 アゾベンゼン誘導体を単分子膜につけて電極とし、光化学反応を行うと安定した光メモリーとして使える現象を発見した。この光メモリーの容量は、通常の半導体デバイスと同様に利用できれば、1 平方センチメートルあたり10の8乗ビットが可能という試算結果になった。しかし、電気化学反応を選択的に行うとこの限界を超えて10の12乗ビットの記録系が実現する可能性もあるという。( CRCマンスリーレポート編集部)

顧忠沢教授の講演 バイオマテリアルの多角的な研究

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 顧忠沢教授 最初に東南大学を紹介したい。東南大学は南京市の真ん中にある。東南大学の前身になる中央大学が10数個の大学に分割したときに、中央大工学部が東南大学となった。生物医学分野では唯一、国 家重点実験室を持つ大学である。教授は14人、内、 長江教授が2人いる。

 バイオインスパイアードマテリアルが研究の基本コンセプトにある。これは生物システムをまねてセンサー等の機能性材料をつくり、これを生物/人間へ還元するという考え方である。例えば、モ ルフォ蝶の羽が鮮やかな青に見えるのは、繰り返し構造を持つためである。一つの機能は一つの構造から実現されるのではなく、構造の組み合わせにより実現されるものなのだ。

 研究テーマとしては、バイオチップ、ナノ創薬、バイオ模倣材料などに取り組んでいる。

 親水性材料の研究では、酸化チタンを利用した研究に取り組んでいる。自然と同じものだけでなく、自然を超えた機能を出していくことも目標としている。

 例えば、砂漠に生息する白い葉の植物の表面は撥水性であることが、SEMで表面観察するとわかる。酸化チタンは紫外光が当たらないと疎水性を示さないが、こ の白い植物の構造を適用してファイバーを使うと撥水機能の実現が期待できるのではないかと考える。

 また、目の機能を応用して光が入る量をコントロールしたり、ズーム機能ができないかと考えている。人工的につくるとカメラのレンズの様に大型となってしまうが、人間の目が小さいのは、こ れらの機能が一つのクリスタルでできているからだ。これを真似できないかと考えている。海洋生物は光のセンサーが目の様な働きをしている。こ れは色素が光の入る量をコントロールすることで同様の機能へと対応可能だ。ビーズをたくさん組み合わせれば、一つの文字を複数投影できる。これは光通信にとって重要だ。ビーズを横方向にふくらませれば、図 を拡大することができる。ビーズの中に高分子を導入し、温度でこれらの機能を変化させることもできる。

 ウィルスの凝集方法も研究対象にしている。菌と違って、ウィルスはサイズが小さいのでフィルタで分離できないから難しい。しかし、鼻の粘膜の機能をまねて、ウ ィルスを凝集できる液体システムをつくることができる。最近ではウィルスの凝集だけではなく、検出もできるシステムもつくった。

 更には、神経の伝達システムを研究している。背骨の神経が切れてしまうと手足が動かなくなるが、逆に必要な信号を伝達できれば、動かなくなった手足が動くようにすることもできる。これを実現すべく、マ イクロチップデバイスを植え付ける方法が考えられる。もちろん、神経には様々な信号があるので、それを見分けるシステムも研究している。

 高血圧治療にもマイクロチップを活用することを考えている。2007年には、日中光知能光材料と分子エレクトロニクスのカンファレンスを11月に南京で開く計画だ。

多彩なテーマに取り組む顧忠沢教授

 顧教授の結晶構造の研究発端は、見る角度によって違う色に見えるオパールの構造からきているようだ。オパールは、自然に生成された粒径のそろったシリカ粒子が自己集合化して結晶を作っている。粒 子間距離が波長と同じオーダーになっているので光の散乱や回折によってさまざまに発色する。地球上の生物の中には、この原理と同じ機能を持っているものが少なくない。

 顧教授はこの原理を解明し、それを工業的に応用する研究を続けている。熱帯雨林に生息するモルフォ蝶の魅力的な青い色は、羽 の鱗粉にある微細な周期構造から発する色であることから人工的に再現する製造方法を追及している。

 同じようにさんご礁に生息する鮮やかなコバルト色をしたルリスズメダイも、体表に長楕円状の虹色素胞が整列しており、素胞内に低屈折率の細胞質と高屈折率の反射小板が多層薄膜構造を形成している。こ の周期構造によって380ナノメートルの光が選択的に反射されて体表がコバルト色に見えると言う。

 この構造を模倣して次世代の光デバイスを開発し、直角曲がり光ファイバーや波長選択デバイスなどの開発の道を探っている。