和中清の日中論壇
トップ  > コラム&リポート 和中清の日中論壇 >  【21-002】中国での隔離を体験して

【21-002】中国での隔離を体験して

2021年08月30日

和中 清

和中 清: 株式会社インフォーム代表取締役

1946年生まれ。同志社大学卒業後、監査法人や経営コンサルティング会社などを経て1985年、株式会社インフォーム設立、代表取締役。1991年から上海に事務所を置いて日本企業への中国事業協力に取り組むとともに、多くの著作を発表して経済成長の初期から日本企業に市場の中国を訴え、自らも中国で販売会社をつくり日本製品の直接販売事業を進めた。また1994年に「上海ビジネス研究会」を設立するなど、長く日本の企業への中国ビジネス教育を進めた。
中国で出版された「奇跡 発展背後的中国経験」は2019年の国家シルクロード書香工程の"外国人が書く中国"プロジェクトで傑出創作奨を受賞。
また現在、"感動中国100"(kando-chugoku.net)にて中国の秘境、自然の100カ所紹介に取り組んでいる。

主な著書

  • 『上海投資戦略』(インフォーム、1992年)
  • 『中国市場の読み方』(明日香出版、2001年)
  • 『中国マーケットに日本を売り込め』(明日香出版社、2004年)
  • 『中国が日本を救う』(長崎出版、2009年)
  • 『仕組まれた中国との対立』(クロスメディア・パブリッシング、2015年)
  • 『中国はなぜ成長し、どこに向かうか、そして日本は』(クロスメディア・パブリッシング、2019年)他

 筆者は、4月下旬に日本から中国青島に入り指定ホテルでの隔離を経験した。

 中国への出発前の48時間内に指定病院でPCRと抗体検査を受け、W陰性証明をもらい中国版LINEの微信を通じて中国領事館に健康状況を申告し、グリーン健康QRコードを入手した。空港チェックイン時にグリーン健康コードを提示しなければ中国行きの飛行機に乗れない。同時に中国入国時に必要なAPP(アプリ)登録(健康状況申告)をして健康QRコードを取得して飛行機に搭乗した。機内では2種類の健康登録書類を渡され、その書類と健康QRコードを提示して入国手続きをした。青島空港ではPCR検査も実施されたが対応は迅速で待ち時間も少なかった。入国審査を終え隔離ホテルへのバスに乗り指定のホテルに着いた。

 指定ホテルで2週間の隔離後に各々の目的地に向かい、目的地で現地の隔離政策に従うことになる。通常は目的地に自宅がある人は自宅で、無い人は指定ホテルで1週間の健康観察隔離が行われる。健康観察隔離も地域で進め方が異なり、北京に行く人は青島で3週間の隔離後に北京に向える。そして北京の自宅等で1週間の健康観察隔離となる。筆者は青島で2週間の隔離後、煙台開発区に向かったが、そこで指定ホテルで1日の完全隔離、他のホテルで1週間の健康観察の比較的自由な隔離を経験した。

 青島での2週間はホテルの部屋から1歩も外に出ることが出来なかった。しかし海辺のリゾートホテルで窓から海が見え、食事も美味しく快適な隔離生活だった。

 毎日、朝8時、12時、夕方6時に弁当がドア前のテーブルに置かれ、午前10時と午後3時に体温測定があり、14日の隔離中に3回のPCR検査と2回の抗体検査が行われた。検査費用は無料である。食事は弁当で、食事後のゴミは所定のゴミ袋に入れてドアの外に出すと担当者が片づけてくれる。筆者は弁当箱では味気ないと思い、部屋にあるカップや皿を使い食事を盛り付けて楽しんだ。隔離期間中、日本人への対応に青島市政府の外資投資部門から派遣された日本語ができるスタッフがつき、グループチャットを通じて宿泊者の注文に親身に対応してくれた。

 だが都市により隔離環境は異なり、中には窓から隣のビルの壁しか見えないホテル、コロナ対策で施設の空調を止めているので暑く、蚊が入り窓も開けられなかったなどの話も聞く。21日に及ぶ隔離生活はやはり大変である。狭い部屋に閉じこもり鬱症状になった知人もいる。隔離生活を楽しむ方法を見つけ準備することが大切と思う。

 隔離中、誰も部屋に入れず部屋の清掃もなく、期間中の必要量として配備されたタオルや紙、石鹸、洗剤を使って日々を過ごす。部屋にはベランダがあったが、ベランダに出る扉は15cmほど開くだけで外に出ることはできない。ゴミは決められた袋で出せるがタオルなど部屋で使用したものは一切外に出せない。トイレでは毎回、殺菌剤を一緒に流すように指導された。体温検査や弁当配達、ゴミ回収を担当する人は完全防備で白い服を頭までかぶり眼鏡もつけている。

 2週間の隔離が終われば政府がバスで駅や空港、省内の目的地に送ってくれる。中国入国時に目的地を記入し、もし事実と合わなければ問題になる。筆者が申告した目的地には政府のコロナ対策班から確認の問い合わせがあった。

 青島で2週間の隔離を終えて煙台開発区の隔離ホテルに入ったが、そこでもすぐにPCR検査と抗体検査が行われた。煙台で1週間、実際は隔離終了翌日にPCR検査を受け、結果が出るまで煙台を離れられず結局、煙台から移動できたのは9日目だった。

 筆者は煙台から雲南省に向かったが、飛行機は西安乗り換えで、西安では飛行機のドアの外にコロナ対策班が待機しており、質問とチェック、さらに空港外に出ないように乗り換えの飛行機搭乗口まで係りが見届けた。

 雲南省から広東省に戻り、さらに四川省や北京、再び煙台や上海にも移動したが、コロナ対策は地域でかなり違った。雲南省ではホテルで中国入国後の行動や青島で取得した隔離終了証の提示を求められたが、省内でのPCR検査の必要はなかった。しかし四川省では行く先々でPCR検査を受けた。広東省を出発する時に検査を受けて陰性証明を入手したが、四川省では外国人には1週間以内の陰性証明、中には48時間内の証明を要求するところも数カ所あった。田舎町には検査可能な診療所がなく、何時間もかけて大きな街に戻り検査を受けたこともあった。検査結果は24時間以内にメールでスマホに通知された。

 四川省では地元の衛生局の人が宿泊するホテルまで来て中国入国後の行動を確認したところもあった。検査料金は15~20元、日本円で300円ほどだった。因みに筆者が日本を出る時に受けた検査料金は35,000円、高い病院は40,000円で、その殆どは翌日か翌々日に検査結果が通知され、搭乗48時間内の検査証明が必要なため、かなり厳しい出発前スケジュールとなった。

 中国各地を移動するとコロナ対策にスマホが武器になっていることが実感でわかる。コロナ対策の個人記録は健康碼、行程卡と呼ばれる二つの通信データで管理されている。健康碼は検査で陰性の場合、グリーンコードが表示され、求められた時、グリーンコードを提示すればよい。ワクチンの接種状況もそこに表示される。

 行程卡は過去14日間の滞在先(都市名)が表示され、危険地域の滞在歴が無ければグリーンの矢印マークが現れる。

 最近、南京空港で清掃スタッフのクラスターが発生した。南京空港で飛行機を乗り換え湖南省の観光地、張家界に向かった大連の団体客が張家界で民族舞踊を観劇し、そこで二次クラスターが起きた。すぐに湖南省政府は張家界を訪れていた観光客、およそ1.1万人の隔離を実行した。厳しい対応であるが、隔離しなくても1.1万人の行程卡の色は危険地域を表わす赤色になって他の地域への移動に支障が出る。

 南京空港クラスターの関連で、南京からの飛行機で珠海市に戻った家族に陽性者が出た。すると珠海市はすぐに全住民対象のPCR検査を実施した。会場はショッピングモールや団地の広場に特設テントを張り実施された。筆者が住むアパートの真下も会場になり、数百メートルの列ができたが、スピードが速く1時間ほどで人の列はかなり減った。珠海市に隣接する江門市でも訪問を予定した先から会議キャンセルの連絡が来た。理由は珠海市の陽性者の濃厚接触者のそのまた接触者が同じビルに勤めているのでということだった。どこまでが接触者になるのか、ふとそんなことも思った。

 筆者の関係する煙台の会社では社員の居住地で陽性者が出たため団地が封鎖され、多くの社員が出勤出来なくなった。また筆者は7月中旬に煙台から高速鉄道を済南で乗り換えて上海に行った。済南では駅待合室で30分滞在したが、一月を経過しても煙台や済南のコロナ対策班からその後、どこに行ったたかの問い合わせが来る。

 このように中国のコロナ対応は厳格である。だがそれが今の感染封じ込めに繋がっているのだろう。日本人には中国の対応は厳し過ぎると思う人も多い。このコラム でも述べたが昨年3月、日本から珠海のアパートに入った時、玄関ドアが封印された。筆者が日本に帰る時には珠海の香港空港行高速船の出国ゲート入口まで市政府役人が見届けた。

 しかし、対応に慣れていない日本人には中国のやり方は強権と受け取られる。

 だがコロナへの対応は感染病への対応である。中国の人口は14億人、非常時に規則に従わない人が多ければ大変である。南京クラスターに関連し、ある60歳代女性が省を超えて友人のところに麻雀に出かけ、そこで症状が現れた。危険地域から安全な他省への移動で、女性の行程卡は赤色か準危険地域を表わす黄色で移動が難しいはずだったが、友人の行程卡を自分のスマホに取り込み移動していた。

 筆者も空港や駅でいちいちスマホへの入力が面倒くさいので、古い健康碼や行程卡を見せて通り過ぎようとするが、厳しくチェックされて呼び止められることもある。

 中国の対策について周囲の中国人に反応を聞くと、感染症では仕方ない、または当然と受け止める人が大半である。

 個人の自覚にまかせ、お願いでの対応がいいのか、早期の終結を考え厳しい対応がいいのか、それぞれの考え方があると思う。折しも日本は夏の帰省シーズンである。帰省を控えるお願いだけでなく、48時間内の陰性証明がなければ飛行機も新幹線も乗れない。そう対応すれば多くの人から反発が出るだろうか。4万円の検査料では反発もさらに強くなるだろうか。