【23-26】青海省、「海南州モデル」の持続可能な開発を構築

張　蘊（科技日報記者）　2023年06月16日

　中国青海省海南チベット族自治州は開発モデルの根本的転換により、生態環境の全面的改善に取り組み、同自治州を河川源流域生態保護・管理の牽引エリア、高原生態・産業の調和発展モデルエリア、民族団結・進歩の模範エリア、豊かな自然を実際価値に転換する実践イノベーション拠点にするよう努めている。

　青海湖の南に位置することからその名が付けられた同自治州は中国の「持続可能な開発アジェンダ・イノベーションモデルエリア」という新しいアイデンティティを持つようになった。青海省で初めて認められた同モデルエリアであり、中国で唯一、イノベーションモデルエリアの承認を受けた民族自治州でもある。

　世界の持続可能な開発の推進は、すでに人類の共通認識になっている。同自治州国家持続可能な開発アジェンダ・イノベーションモデルエリア建設推進会が4月7、8両日に開かれた。同エリアの建設は、中国政府が国連「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を全面的に推進し、イノベーション駆動発展戦略を深める重要措置であり、開放・協力、協調発展、民生保障、生態修復などの面で重要な支援的・牽引的役割を果たすものとなる。

　青蔵高原（チベット高原）の東の玄関口である同自治州は、国の生態安全保障の重要な一翼を担っている。イノベーションモデルエリア建設の「4つの任務」と「5つの行動」に取り組むことで、生態文明の建設と新エネルギー産業「4地」（世界レベルの塩湖産業基地、国家クリーンエネルギー産業先進地、国際エコツーリズム目的地、グリーン有機農産・畜産物輸出地）建設を重要な鍵として位置づけ、世界の同様な地域の持続可能な開発に対し、持続可能かつ推進可能で参考可能な「中国の経験」「海南州モデル」を提供することを目指している。

「事業の立ち上げ」から「無限の可能性」へ

　世界のクリーンエネルギーを中国がリードし、中国のクリーンエネルギーを青海省がリードしている。

　海南チベット族自治州の塔拉灘では「世界最大設備容量の太陽光発電パーク」や「世界最大設備容量の水力・太陽光相互補完発電所」と書かれた巨大なポスターが目立つ。

　ここには中国初の1000万キロワット（kW）級太陽光エコ発電パークの海南州「1000万kW級エコ太陽光発電プロジェクト」がある。計画面積4609.6平方キロで、世界最大の一括投資額と単体設備容量、集中発電規模を持つ太陽光発電所クラスタでもある。

　太陽光発電所クラスタの中には巨大な太陽光発電パネルが並び、羊の群れがソーラーパネルの下を悠然と歩いていた。

　国家電投集団黄河上流水力発電開発有限責任公司党委員会書記・董事長の姚小彦氏は、「当社は太陽光発電産業パーク、単体太陽光発電所、水力・太陽光相互補完発電所、太陽光発電実証実験拠点、新エネ分散型調相機クラスタという5つの『世界最大』を創出した」と語った。

　海南チベット族自治州の太陽光資源と砂漠化土地資源により、同社は拠点型計画、規模化開発、パーク建設という発展戦略を打ち出し、世界クラスの太陽光発電産業パークを建設。塔拉灘に敷地面積160平方キロの太陽光発電施設を完成させた。

　同自治州1000万kW級新エネ拠点の実行投資額は累計1375億元（1元＝約20円）。水力・風力・太陽光・エネルギー貯蔵を中心とする産業クラスタをほぼ形成した。クリーンエネルギー設備容量は4314万kW、系統接続設備容量は2094万kWで、省全体の51.39％を占めている。すでに太陽光発電、光熱、風力発電、設備製造、電力インフラスマート化運用・保守を一体化させた統一的な開発総合モデルパークとなっている。

　同自治州は建設と保護を並行して進めており、パーク内での砂漠生態ガバナンスと生産の実践を通じ、太陽光発電と砂漠化対策が補完し合い協同発展するイノベーションモデルを形成しつつある。パーク内の土壌水分蒸発量が30％減少するとともに、植生被覆率が80％に回復し、水源涵養量が大幅に増加。岩石砂漠化土地と砂漠化土地がいずれも減少傾向を示している。このように、同自治州では新エネルギー発展が「事業の立ち上げ」から「無限の可能性」へと向かっている。

クラウド化されたデジタル経済

　海南チベット族自治州共和県にある同自治州チベット語情報技術研究センターでは、センター副主任の官却多傑氏が「雲蔵」チベット語スマート情報ネットワークプラットフォームについて、次のように説明した。「雲蔵は2016年8月に運用を開始してから、国内34省・直轄市・自治区、世界70以上の国・地域のユーザーに利用されている。実名登録ユーザー数は8万人を超え、アクセス数は56億回を超えた」。

　独自の気候環境、クリーンエネルギー、地理的位置、チベット文化の深い基盤が、同自治州によるチベット語検索エンジンの研究開発における強みとなっている。

「雲蔵」構築は数年間で段階的な成果を上げ、チベット語検索エンジン、マルチターミナル応用、国家標準チベット語自動分詞・言語スマート分析システム、高効率クローラーを一体化させた大型チベット語ネットワークシステムを形成した。「雲蔵」ニュースや百科、文庫などのチャンネルを通じ、権威ある情報を伝えるチベット語主流メディアプラットフォームを構築している。

　官却多傑氏によると、「雲蔵」プラットフォームは政治や文化、科学技術、歴史などの30以上の分野の情報・コンテンツを扱っており、国内のチベット語ネットワーク情報サービス資源が限定的で情報供給が不足しているという苦境を打破した。中国内外のユーザーに対し、全面的かつ正確で客観的な多元的情報を提供している。

　チベット語情報処理と応用分野の先端問題の研究ペースを加速させ、科学研究を強化するため、チベット語スマート情報処理・応用国家重点実験室雲蔵拠点、青海省チベット語情報化科学研究科学教育拠点が3月24日、同州チベット語情報技術研究センターに設立された。

　同実験室はチベット語情報化分野の重要技術の研究開発、科学研究成果の実用化、技術による民間へのサービスなどを行い、互恵・ウインウイン・協同イノベーションの発展構造を積極的に構築し、地域の質の高い発展を推進することを目的としている。

　モデルエリア建設のテーマと目標に基づき、同自治州はビッグデータと生態経済を深く融合させ、ビッグデータ産業発展計画を制定。クリーンエネルギーを100％利用したビッグデータ産業パークの建設を急いでいる。

大きな可能性を秘める科学技術の活力

　黄河上流の65％の水量と主要洪水源を管理している竜羊峡水力発電所では、モデル転換と高度化が実現した。海南チベット族自治州は、ダムエリアの恵まれた水資源の優位性を利用してサーモン養殖拠点を建設。2022年の生産高は5億6000万元に達した。

　透き通った川の水、グリーンで将来性の高い産業、住みやすい環境、多元的で深い文化。これらによって、竜羊峡では生態、産業、文化観光が相乗効果を生んでいる。生態保護ガバナンス、グリーン農業・牧畜業、高原文化観光、科学技術イノベーションの有機的な融合は、持続可能な開発理念を実践する同自治州の典型的な縮図となっている。

　科学技術イノベーションはイノベーションモデルエリア発展の「キーワード」だ。大学や研究機関がなく、科学技術力が比較的低いという課題に向き合いながら、科学技術をどのように活用してイノベーションモデルエリアの建設を支えるのか。そのためには「外部ブレーン」を利用し、国内から知恵を集めることで同自治州の問題を解決する必要がある。

　自治州科学技術局の謝康勇局長は「イノベーションモデルエリアの建設では現在、院士（アカデミー会員）・専門家計60人からなる専門家諮問委員会を設立している。7人の院士が6つの分野を担当し、5つの行動を中心とした科学研究チームをつくり、技術サービスと政策決定の助言を提供している。専門家諮問委員会と大学・研究機関の科学技術研究力を集め、自治州の経済・社会発展とイノベーションモデルエリアのボトルネックを解消することを目指している」と語った。

　謝氏は「中国科学院西北高原生物研究所と実験拠点を共同建設し、産学研一体化を推進し、生態ガバナンスや農業・牧畜業の成果実用化などの科学技術チェーンを構築している」と説明した。同自治州の科学技術部門は、青海省青蔵科学調査サービスセンターと提携し、第2回青蔵科学調査の成果を同自治州で実用化することを目指している。

　青海省科技庁の蘇海紅副庁長は「イノベーションモデルエリアの建設は、青海省の科学技術事業発展に重要な戦略的チャンスをもたらした。当庁は河川源流部エリアの生態保護と質の高い発展というテーマに焦点を当て、科学技術イノベーション支援、生態保護・ガバナンス向上などに取り組み、グリーン・低炭素などの技術をモデルエリアで応用させていく。太陽光産業・生態保護・生態農業・牧畜業の融合発展、クリーンエネルギー発展、グリーン有機農業・牧畜製品の価値の転化、青蔵高原デジタル・文化観光融合発展など、の8つの模範的な新モデルを積極的に構築し、イノベーションチェーンと産業チェーンの融合発展を推進していく」と語った。

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※本稿は、科技日報「青海：打造可持续发展的"海南州样板"」（2023年4月17日付7面）を科技日報の許諾を得て日本語訳／転載したものである。