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【24105】廃プラを分解する昆虫と細菌で「白色汚染」がなくなるのか(その1)

張 曄(科技日報記者) 陳 茜(科技日報実習生) 2024年11月13日

 プラスチックを美味しく食べる昆虫が存在することが研究で明らかになった。研究者はプラスチックが好きな昆虫を活用して「白色汚染」(プラスチック廃棄物などによる環境問題)の解決に期待を寄せているという。

 江蘇大学環境・安全工程学院の孫建中教授率いるチームは、昆虫とその腸内共生細菌が持つプラスチック生分解における独特の役割を体系的に説明するとともに、同分野の研究の現状、直面している課題、発展のルートについて模索した。関連研究成果は国際昆虫学誌「Insect Science」に掲載された。

 では、これらの昆虫はなぜプラスチックを「食べる」という特殊能力を持つようになったのだろうか。また、それらを活用して「白色汚染」の問題を解決することは可能なのだろうか。

プラスチックを分解できる昆虫・細菌は複数存在

 孫氏によると、昆虫は世界で最も種類が多い生物だ。研究者はノシメマダラメイガやツマジロクサヨトウ、ミールワーム、ハチノスツヅリガといった昆虫に、ポリエチレンやポリスチレンなどのよくあるプラスチックを消化する能力があることを発見している。その裏では、昆虫の腸内共生細菌が極めて重要な役割を果たしている。

 現在、プラスチックを分解することが確認されている昆虫の腸内共生細菌には、シュードモナス属やバシラス属、エンテロコッカス属、クレブシエラ属、アシネトバクターなどがある。

 孫氏は「プラスチックが昆虫の腸内共生細菌に接触する前に、昆虫の咀嚼によりプラスチックの構造が破壊され、その後の分解に必要な条件が整えられる。続いて、昆虫の腸内共生細菌が一連のバイオ酵素を分泌し、プラスチック分子の化学結合切断と変換を促進し、複雑なプラスチック高分子化合物を、より小さくて、腸内共生細菌や宿主の昆虫が分解できる分子に変換する」と説明した。

 昆虫の腸内共生細菌は、エステラーゼやリパーゼ、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼなどの酵素を分泌し、プラスチック分子の化学結合に特異的な影響を与え、化学結合の切断、変換を促進する。例えば、ラッカーゼとペルオキシダーゼは、プラスチック表面の炭素-水素結合を酸化し、エステラーゼとリパーゼはエステル結合の加水分解に参加する。プラスチックが分解して産出した化合物は、昆虫の腸内共生細菌の生長に必要な炭素源として利用することができる。

 また、昆虫の腸内共生細菌のほか、汚染している水と土壌に存在する一部の細菌や真菌、藻類もプラスチックを分解することができる。研究では、一部の真菌と細菌には、ポリエチレンやポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレンなどの複数種類の合成プラスチックを分解する能力があることが分かっている。プラスチックの高分子化合物が分解される過程で藻類が果たす役割についても、科学者の間で日に日に注目が高まっている。

人工酵素を活用して分解速度を向上

 廃プラスチックによる環境汚染という問題が日々深刻化し、世界的な問題となっている。海外メディアの報道によると、世界では年間3億3000万トン以上のプラスチックが生産されており、2050年にはさらに倍増すると予想されている。

 昆虫の腸内共生細菌がプラスチックを分解することができるなら、それを活用して、大量のプラスチックごみを処理することはできないのだろうか。

 この問題について孫氏は「昆虫の腸内共生細菌がプラスチックを分解できることと、大量のプラスチックを分解することは全く別問題だ。自然環境においては、分解に数十年さらには100年もかかる。これと比べると、昆虫の腸内共生細菌がプラスチックを分解する速度は確かに速いものの、実際のニーズを満たすにはまだほど遠い。昆虫の腸内共生細菌が産出する酵素だけでは限界があり、人工酵素を合成し、プラスチックの分解過程を最適化するなどして、分解の速度を上げる必要がある」との見解を述べた。

その2 へつづく)


※本稿は、科技日報「靠昆虫和细菌能"吃掉"白色污染吗」(2024年10月8日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

 

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