【24109】がんの診療モデルを再構築するAI(その1)
荊暁青(科技日報実習記者) 2024年12月04日
2024世界デジタル経済大会で、医師の画像診断支援に使われるAI医療装置を見る来場者。(撮影:陳暁根)
一度の単純CT検査で、医師が複数のがんを識別するのを支援したり、オンラインプラットフォーム上で必要な医療リソースのマッチングが数秒で完了する......。人工知能(AI)技術はここ数年、がん診療にさまざまな変革をもたらしている。
中国科学院深圳先進技術研究院生物医学・健康工程研究所医学AI研究センターの李志成執行主任は「AIはがん診療の全プロセスで活用できる。画像による初診、病巣の識別、患者の入院から、病理診断、手術計画の可視化、退院後の回復追跡に至るまで、AIの関与は医師と患者の双方が目に見えて実感できる形で表れている」と紹介した。
がんの早期発見をサポート
北京美中愛瑞腫瘤医院の徐仲煌院長によると、多くのがん患者はがんと診断された時点ですでに中期か末期段階になっており、最適な治療のタイミングを逃しているという。早期スクリーニングは無症状または前がん段階で医師が病状を発見するのに役立ち、早期介入により、罹患率と死亡率を効果的に下げることができる。がんの早期スクリーニング分野において、AIは巨大なポテンシャルを秘めている。
がんの早期スクリーニングでは通常、画像検査や血液マーカー検査、分子診断などの非侵襲的検査や低侵襲検査が使われる。この面でAIの関与は既に大きな進展を遂げている。李氏は「画像のディープラーニング技術の支援により、AIは一部のがんのスクリーニングにおいて、人間の専門家を超える能力を発揮している」と説明した。
ここ数年、「ネイチャー」などの国際ジャーナルにはAIを活用したがんスクリーニング関連の研究が複数回掲載されている。ハーバード大学の医学チームが研究開発したAIツール「CHIEF」は、19種類のがんを診断できるほか、がん微小環境の特定、治療戦略の導入、生存率の予測などのタスクも実行できる。阿里巴巴(アリババ)達摩院(DAMOアカデミー)が研究開発した膵臓がん早期検出モデル「PANDA」は、病変の有無を判断する精度が92.9%に達する。こうした成果は、AIが診断を補助するだけでなく、プレシジョン・メディシンにおいても重要な役割を果たすことを示している。
関連する実践は、AIががんスクリーニングで役割を果たすことを示している。阿里巴巴は今年2月、AIを使ったがんの早期スクリーニング公益プロジェクトを、浙江省麗水市中心医院などで実施し、達摩院の革新的な医療AI技術が保険・医療分野に応用された。達摩院の医療AIチームの責任者である呂楽氏は「このプロジェクトでは、4カ月で5万人以上のスクリーニングを実施した。対象は膵臓がんや食道がん、胃がん、大腸がんで、発見された145の病変が臨床でがんと診断された。大量の過去のデータと複雑なアルゴリズムを組み合わせることで、AIは画像の中から、肉眼では発見が難しい微小な病変の情報を見つけることができる。複雑な画像分析作業では、AIは大量のデータを迅速に処理し、医師のプレッシャーを軽減することができる」と説明した。
徐氏は「複数の学科が連携して初めて、がんの最適な治療法を決めることができる。一方、AIはそのプロセスにおけるスペシャリストの不足や高い経済的コストといった問題を解決してくれる」と強調した。
呂氏は「PANDA」モデルを例に挙げ「このモデルは、専門が異なる医師数十人の知識を集約したナレッジベースに相当する。画像診断学の資料やゲノミクスの情報、病理学データといったマルチモーダルデータを統合することで、診療科や部門の枠を超えたデータの融合を実現している。この基礎に立ち、AIモデルは、重要な病巣情報や潜在的な病理的特徴を抽出し、部門横断的な包括的分析を可能にする」と語った。
(その2 へつづく)
※本稿は、科技日報「AI如何助力重塑肿瘤诊疗模式」(2024年10月28日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。