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【24-110】がんの診療モデルを再構築するAI(その2)

荊暁青(科技日報実習記者) 2024年12月05日

AIはがん診療の全プロセスで活用できる。画像による初診、病巣の識別、患者の入院から、病理診断、手術計画の可視化、退院後の回復追跡に至るまで、AIの関与は医師と患者の双方が目に見えて実感できる形で表れている。

その1 よりつづき)

がん認識レベルの向上

 医学分野の科学的認識を深めることは、AIががん診療を支援する上でより高い次元の目標となる。

 中国科学院深圳先進技術研究院生物医学・健康工程研究所医学AI研究センターの李志成執行主任率いるチームは数十年にわたり、神経膠腫の研究に取り組んできた。神経膠腫の診療の現状について李氏は「この疾患に対する科学的認識には限界があり、医師らはまだ神経膠腫の発生、進行、再発に関するメカニズムを完全には理解しておらず、確実で効果的なプレシジョン・メディシンの手段も見つかっていない」と説明した。

 これに対し、北京美中愛瑞腫瘤医院の徐仲煌院長も「がんに対する認識不足が診療手段を制約している。難病の場合、臨床現場では手探りで慎重に進めるしかないことが多い」と感じている。

 既存のAI診療モデルにも限界がある。李氏は「多くのAIモデルは、大規模なラベル付きデータセットを使ってトレーニングされており、画像の特徴と臨床結果の関連性を探る。この方法は、精度という面では顕著な成果を上げているが、『ブラックボックス』的な操作は、説明できる根拠に欠け、医師がAIの診断結果を完全に信頼することはできない。そのため、医学の原点に立ち返った認識が特に重要だ」と見解を述べた。

 この面では、AIが能力を発揮できる可能性は大きい。李氏は「AIは画像や病理、遺伝子といったマルチモーダルデータを統合し、マルチスケールの総合分析を提供することで、より完全ながんの『全体像』を描出するようサポートすることができる。がんは複雑ながん細胞が作り出す『生態系』で、その画像をより正確に描出することができれば、これまで見過ごされてきたがんの動きや潜在的な治療ターゲットを発見できる可能性が高まり、治療に新たなアプローチを提供することができる。ゲノムやプロテオームといった分子レベルのデータの充実に伴い、AIが現在の認識の壁を打破し、複雑ながんに対する科学的認識の向上をサポートするのを期待している」と語った。

 徐氏は「未知のがんに直面した場合、AIがそれに対する認識を前進させることができれば、それが例え小さな一歩であったとしても、がん診療に新たな方法論の指針を提供し、がんに対応する方法を根本的に変える可能性がある」と付け加えた。

AIが能力を発揮するために必要な「データ」

 AIががん診療の全プロセスをサポートするためには、良質かつ網羅的で膨大なデータの提供が重要な鍵となる。

 AIモデルのトレーニングは、医師によるデータのラベリングに依存するだけでなく、臨床の全過程のデータも必要だ。呂氏は「PANDAモデルのトレーニングでは、医師が病理画像や病理レポート、CT画像といったマルチモーダルデータを提供するだけでなく、病変部位を手作業で確認し、造影CT画像に正確に描き出す必要がある。その後、エンジニアが3D画像のレジストレーション技術を用いて、病巣の3D描画を単純CT画像にマッピングし、最終的にAIが単純CT画像で早期膵臓がんの特徴を識別できるようにトレーニングする」と説明する。

 この過程において、医師とAIチームが密接に連携することで、モデルに高品質なトレーニングデータを提供することが可能になる。呂氏は「最先端の医療AIアルゴリズム開発チームは、複数の提携病院が提供する多様なデータに依存している。これは、AIモデルの汎化能力を高めるうえで非常に重要だ。さまざまな病院からのデータは、AIモデルに豊富な病理背景を提供し、各種臨床状況に正確に対応できるよう支援している」と語った。

 しかし、データの量や関係する部門が多く、データが分散しているなどの問題が原因で、現時点ではデータの取得ががん関連AI研究の主なボトルネックとなっている。李氏は「単一的な画像データや病理データを取得するのは難しくないが、同じ患者の画像、病理、遺伝子といったフルモーダルのデータを取得するのは非常に難しい。それには複数の診療科・部門が密接に連携する必要があり膨大な時間もかかる。現在、がん研究はさまざまな学科に分散している。例えば、画像診断は画像診断科や技術者が担当しているが、遺伝子データは分子病理学科やバイオインフォマティクスのスタッフが処理している。学科間の壁を打破し、データを統合することは、かなり大きな課題となっている」と指摘した。

 徐氏は「データはAIが医療分野で能力を十分発揮できるかどうかを決める『栄養素』だ。データの拡張性、標準化、安全性は、病院が医療AIを導入する際に検討すべき重要な要素だ。病院はAIの導入を計画する際に、現在の段階から準備に着手し、データ入力、アーカイブ、管理の標準化を確保する必要がある。また、合理的なデータ管理の枠組みを事前に制定するとともに、将来のデータ処理に対応できるインターフェースを設計しておかなければならない。AIの強みは新しいデータを継続的に吸収し、自動で最適化できることだ。そのため、病院のデータ保存システムは、日々増えるマルチモーダルデータのニーズに対応できるよう拡張性を備える必要がある」と強調した。

 データセキュリティについて徐氏は「病院がデータの暗号化、プライバシー保護の厳格なメカニズムを構築する必要がある。これにより、技術の応用が、法律・法規や社会倫理に合致する前提の下で、臨床診療業務に信頼性のあるサポートを提供できるようになる」と語った。


※本稿は、科技日報「AI如何助力重塑肿瘤诊疗模式」(2024年10月28日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

 

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