【24-36】AIの活用で電力業界が高効率、低炭素に(その2)
張 曄(科技日報記者) 黄 蕾(科技日報通信員) 2024年04月24日
中国では近年、新型電力システムと新型エネルギー体系の建設推進に伴い、エネルギー・電力業界でAI応用ニーズが急速に高まり、AI開発企業が競争を繰り広げる新たなブルーオーシャンとなっている。AI技術は今後、電力業界の発展をどのように活性化させていくのだろうか? また、どのようにすれば「AI+電力」におけるリスクを回避し、AIが人々の生産や生活、経済・社会の質の高い発展にさらに役立つのだろうか?
(その1 よりつづき)
新エネルギー分野では、発電設備資源や出力を正確かつ迅速に予測することが、エネルギーの管理と利用におけるカギとなっている。国網江蘇省電力有限公司電力科学研究院(以下「国網江蘇電科院」)は、コンピュータビジョンの画像分析能力と長・短期記憶ニューラルネットワークの時系列分析能力を利用し、屋根に設置された太陽光発電資源とそのリアルタイム出力を予測し、新エネルギーの効率的な利用を実現している。
AI技術のサポートの下、国網江蘇電科院が開発した識別技術は「スーパー探偵」と言えるもので、衛星マップを通じて、中国全土のソーラーパネルの設置に適したすべての屋根を見つけ出すことができる。スタッフは現在、この技術を利用して、江蘇省でソーラーパネルが設置可能な屋根の面積を算出している。また、長・短期記憶ニューラルネットワークを利用した、ソーラーパネルの出力曲線の法則の分析では、国網江蘇電科院は気象画像データを分析し、江蘇省の50万カ所以上、2300万キロワット(kW)以上の低圧・分散型太陽光発電設備の稼働状態をリアルタイムでモニタリングし、正確に予測できるようになった。省全域の分散型太陽光発電設備のリアルタイム出力推計の正確度は96%以上に達している。
国網江蘇電力設備部技術処の付慧処長によると、同社が構築した送電・変電アルゴリズム評価プラットフォームでは、各種電力設備が利用しているAIアルゴリズムを比較し、実際の応用の準備をしている。
AIの電力への応用発展に必要なセキュリティリスクへの対応
AIが電力分野で応用されるようになり、セキュリティ問題が業界の関心を集めている。一方で、複雑で多様な作業環境や応用ニーズに直面し、AIの識別率や誤報率、報告漏れ率といった性能指標が応用水準に達しているか、そしてAIの計算能力が現場の要求を満たしているかなどが、テストされている。他方では、AI技術が悪意のある者に対し新たな攻撃手段を提供することにもなっている。AI技術に基づくデータへのウイルス混入、アルゴリズムのバックドア、敵対的な攻撃サンプルなどが、電力システムの情報セキュリティに新たな課題をもたらしている。
南京大学人工智能学院の李宇峰教授は「AIは利便性をもたらすと同時に、一定のセキュリティリスクももたらしている。網羅的で効果的なガバナンス・メカニズムを構築し、安定したマシンラーニングの理論・方法体系を発展させ、AI技術を電力分野に安全に適用すべきだ」との見解を述べた。
AI技術を利用した新たな攻撃手段に対しては、電力網も同様にAIアルゴリズムを利用して悪意ある行動を検出し、それによる被害が生じる前に、オペレーターに注意を促し、電力網をサイバー攻撃や他の脅威から保護している。例えば、国網江蘇電科院は、AI技術に基づくプログラミングのスマートセマンティック分析モデルやソフトウェアサプライチェーンのオープンソースコンポネントナレッジグラフなどのサイバーセキュリティ監視・検査ツールを開発し、それを江蘇省の情報システムネットワークセキュリティ検査に応用している。これらの成果により、セキュリティホール検出の正確率と効率が大幅に高まった。セキュリティホールの自動識別の正確率は98%を超え、検出確認時間が60%短縮した。2023年にはこれらの成果のサポートにより、サイバーセキュリティの技術者が発見、処理したセキュリティホールの数が累計10万個以上に達し、江蘇省の電力システムの安全リスク管理を効果的に支えた。
国網江蘇電科院・デジタル化センターの趙新冬主任は「AIのセキュリティ保証は長期間にわたって困難な課題となっている」と述べ、「持続的な関心と努力を通じて、AI技術の健全な発展を推進し、それを新型電力システムや新型エネルギー体系の構築に役立てることが重要だ、人類の脅威にならないようにすべきだ」と強調した。
※本稿は、科技日報「AI让电力行业更高效、低碳、安全」(2024年2月19日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。