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【24-35】AIの活用で電力業界が高効率、低炭素に(その1)

張 曄(科技日報記者) 黄 蕾(科技日報通信員) 2024年04月23日

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声紋認証アルゴリズムの研究を行う国網江蘇省電力有限公司電力科学研究院の専門家。(画像提供:国網江蘇電力公司)

 中国江蘇省で今年2月、寒波の影響により広い範囲で雨や雪が降り、省内全域の電力需要が急激に高まった。その際、南瑞集団有限公司が開発した人工知能(AI)負荷予測システムが大きな役割を果たした。翌日の負荷予測の正確率は97.8%に達し、気候に変化があった際における安定した電力供給確保を実現した。

 これは、電力系統におけるAI技術応用の一つの縮図に過ぎない。中国では近年、新型電力システムと新型エネルギー体系の建設推進に伴い、エネルギー・電力業界でAI応用ニーズが急速に高まり、AI開発企業が競争を繰り広げる新たなブルーオーシャンとなっている。AI技術は今後、電力業界の発展をどのように活性化させていくのだろうか? また、どのようにすれば「AI+電力」におけるリスクを回避し、AIが人々の生産や生活、経済・社会の質の高い発展にさらに役立つのだろうか?

企業が電力用大規模言語モデルの開発に参入

 AI技術は現在、人間を単純作業から解放するだけでなく、より多くのクリエイティブな作業や意思決定に関わる作業にも参加するようになっている。

 国網江蘇電力デジタル部安全運営処の蔣承伶副処長は「AI技術は、新型電力システムと新型エネルギー体系建設を推進させる上で、重要な役割を果たす」と述べた。AIは電力業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)支える重要な要素であり、データ業務の融合促進や膨大なデータ価値の掘り起こし、業務の最適化・高度化促進といった面で、他にはできない役割を果たしており、これにより、発電、送電、変電、配電、電気使用、安全管理、インフラ、管理などのスマート化トランスフォーメーションを活性化している。

 大規模言語モデルは産業のホットな発展方向性として、AIの開発と応用のハードルを下げることができる。現在、華為(ファーウェイ)や阿里巴巴(アリババ)、騰訊(テンセント)、百度(バイドゥ)などの企業が、電力を大規模言語モデルの重点的な垂直応用分野にすると発表している。例えば、華為雲(ファーウェイクラウド)は2023年7月に大規模言語モデル「盤古」3.0を業界に向けて発表した。これを使えば、企業は専用の大規模言語モデルをカスタマイズすることができる。その中には電力のスマート点検への活用が含まれている。百度の生成AI「文心一言」が作成した電力業界向けの大規模言語モデルは、電力知識に関するQ&Aシステムや電力ファイルのスマート分析などさまざまなエネルギー業界の応用シーンをカバーしている。

 中国の電力企業もAIに力を入れている。例えば、国家電網は本社と各省にある27社をカバーする「AIサンプル・モデルバンク+AIプラットフォーム」を建設し、一般的なコンポーネントの基盤サポート能力を形成している。また、南方電網は大規模言語モデル「大瓦特(MegaWatt V1.0)」を構築し、効率的で便利なデジタル基盤プラットフォームを作成した。近年、中国ではドローンやロボットが電力システム設備の点検・検査に幅広く活用されているが、その効率的な作業の背景には、AIプラットフォームのサポートがある。

AIで「スマート」になる電力システム

 AIと既存の業界が現在深く融合し、経済形態の革命を牽引している。電力企業もAIによる発展のチャンスをしっかりと掴み、新型電力システムの建設を推し進め、エネルギー電力業界のDXを後押ししている。

 蔣氏は「これまでは、データ取得の難易度や計算分析能力の不足、意思決定・予測の人手依存といった要素が足かせとなり、電力業界には『電力の需給マッチングの難易度が高い』『設備の運用・点検効率が低い』『新エネルギーの利用効率が低い』という課題が存在していた。しかし、コンピュータビジョンやディープラーニング、ニューラルネットワークといったAI技術の強力なデータ処理能力と学習能力を活用することで、こうした問題を解決する新たな道筋が提供されるようになっている」と説明した。

 江蘇省南京市の鼓楼変電所(電圧110キロボルト=kV)の一体型軽量化声紋感知設備は、変圧器の稼働状態を昼夜問わずモニタリングしている。この設備は「聞こえてくる」声紋データ9万件について、ディープラーニング技術を活用し、局所放電や機械の異音といった問題ある声紋の特徴を学習することで、さまざまな故障を10分以内に正確に識別して早期警報を出すことができる。

 蔣氏によると、AI技術をデータモニタリングと故障識別などの部分に融合させ、分析・意思決定の正確度を高めるというのが、電力網会社のAI技術応用の重要な方向性となっている。既存のエネルギー分野や新エネルギー分野でも、AI技術が従来のエコシステムに変化をもたらし、電力システムがよりスマートで強固なものになっている。

その2 へつづく)


※本稿は、科技日報「AI让电力行业更高效、低碳、安全」(2024年2月19日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

 

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