【24-46】未来を予感させる量子インターネット(その1)
劉 霞(科技日報記者) 2024年05月30日
中国の量子通信関連企業「国盾量子」の量子トラステッド中継局。
(画像提供:視覚中国)
科学誌「ネイチャー」のパートナージャーナル「Quantum Information」に掲載された米ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校の科学者、エデン・フィゲロア氏らの論文によると、「2つの独立した光子を気体のルビジウムに保存することで、室温下において量子メモリーネットワークの構築に成功した」という。量子メモリーは量子インターネットの基礎的技術であるため、この研究成果により、量子インターネットの実現がまた一歩近づいたことになる。
中山大学電子・通信工程学院の孫仕海教授は「従来型インターネットと比べ、量子インターネットのほうが、より高い情報取得能力があり、より安全でより速い情報処理能力を持つ」と説明した。
量子インターネットには上記のようなメリットがあるため、米国や欧州連合(EU)加盟国の複数の研究機関と大手企業が量子インターネットの構築を競うように開始している。ただ、孫氏は「量子インターネット構築は一気呵成にできるものではなく、多くの重要技術のブレイクスルーが急務だ」と強調した。
情報処理がより速く、より安全に
量子インターネットとは一体何か?
孫氏の説明によると「広義的な量子インターネットとは、量子通信によって量子センサーと量子コンピューターを連結して形成した次世代インターネットのことで、量子通信ネットワーク、量子センシングネットワーク、量子コンピューティングネットワークの総称」である。
量子コンピューターや量子センサーといった量子デバイスは、量子の「重ね合わせ」と「もつれ」という2つの特性を利用している。従来のコンピューターは、0と1からなる2進数の「ビット」を基本単位として情報が処理されるが、量子情報は0と1だけでなく、0と1を重ね合わせ状態になることもでき、それを基本単位としているため、量子コンピューターは従来のビットをはるかに上回る密度を利用でき、より多くの情報を保存したり、伝送することができる。量子ビットはもつれを発生させる、つまり、2つ以上の粒子がその量子状態において離れることができないほど、密接に関連し合うことが可能だ。アインシュタインは量子もつれを「『幽霊』による遠隔作用だ」と表現した。
上記2つの特性により、膨大な量子ビットを有する量子コンピューターの機能は、現時点で最も速いスーパーコンピューターを大きく上回ると期待されている。なぜなら、量子のもつれという特性を利用すると、同時並行的により多くの計算ができるからだ。
フィゲロア氏も「量子インターネットには固有の安全性がある。従来型インターネット通信は遮断や操作ができるのに対し、量子もつれは理論的に、一つの粒子に対するいかなる『観測』も、一瞬でもう一つの粒子の状態に影響を与え、量子ネットワークから送信される情報を遮断、傍受しようとするいかなる試みも『観測』と見なされるため、ゲートを通して移動する量子ビットの重ね合わせの崩壊を招いて『馬脚を現す』ことになる。そのため、いかなる潜在的盗聴行為も検出することができる」と説明している。
米エネルギー省も以前、「量子インターネットは量子力学の法則を利用しており、従来型ネットワークと比べると、より安全に情報を伝送できる。それを『解読することはほぼ不可能』で、将来、科学や工業、および国家の安全といった重要分野に深い影響を及ぼすだろう」との見方を示している。また、米シカゴ大学量子研究チームの責任者デイビッド・オーシャロム氏は、量子インターネットを「第二次量子革命」と呼んでいる。
量子インターネットが提供する安全な通信方式は、さらに幅広い応用分野を開拓し、その範囲は従来型インターネットをはるかに上回る可能性がある。オランダのデルフト工科大学のステファニー・ヴェーナー量子情報学教授は、欧州のウェブサイト「Modern Diplomacy」の取材に対し、「量子インターネットが完成すれば、天文学は恩恵を受ける分野の一つになり得る。例えば、遠距離観測に用いられる望遠鏡の場合、量子インターネットを利用して、センサー同士を量子もつれ状態にすることで、より高画質の画像を生成できるようになる」との見方を示している。
ボストン・コンサルティング・グループは、2030年までにポスト量子暗号学や量子通信の市場規模が100億ドル(1ドル=約157円)となり、60億~120億ドル規模の量子コンピューティング市場に肩を並べると予測している。
(その2 へつづく)
※本稿は、科技日報「量子互联网:小荷已露尖尖角」(2024年3月22日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。