【25-006】中国大陸で初のROSCon、上海で開催
2025年01月15日

高須 正和: 株式会社スイッチサイエンス Global Business Development/ニコ技深圳コミュニティ発起人
略歴
略歴:コミュニティ運営、事業開発、リサーチャーの3分野で活動している。中国最大のオープンソースアライアンス「開源社」唯一の国際メンバー。『ニコ技深センコミュニティ』『分解のススメ』などの発起人。MakerFaire 深セン(中国)、MakerFaire シンガポールなどの運営に携わる。現在、Maker向けツールの開発/販売をしている株式会社スイッチサイエンスや、深圳市大公坊创客基地iMakerbase,MakerNet深圳等で事業開発を行っている。著書に『プロトタイプシティ』(角川書店)『メイカーズのエコシステム』(インプレスR&D)、訳書に『ハードウェアハッカー』(技術評論社)など
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中国大陸初のROSConが開催
昨年の12月7、8日、中国大陸で最初のROSConとなる「ROSCon China 2024」が上海市宝山区で開催された。ROS(Robot OS)はオープンソースのロボット制御ソフトウェアの集合体で、世界的な非営利団体のOpen Robotics Foundationが開発コミュニティをまとめている。世界各国の持ち回りによる年に一度の開発者大会(年号をつけてROSCon 2024などと呼ばれる。2024年はデンマークで開催)や、日本やドイツなどROSの開発が盛んな地域でROSCon Japanといった国名や都市名を冠したイベントが開催されている。ROSCon 2019はマカオで開催されたが、中国大陸ではこれまでROSConが開催されたことはなかった。
中国はロボット開発大国だ。前回紹介したGuYueHomeなど、ROSのコミュニティも活発に活動している。そのGuYueHomeが中心となって、今回のROSCon China 2024が開催された。(公式サイト)
【24-111】会員260万人以上、オープンソースのロボットOSによる開発を助けるコミュニティ
イベントは多くのロボット企業がスポンサーとして集まった。参加費1000元のイベントにも関わらず、500人規模の参加者を集め、2日間とも会場は人で溢れていた。主催の一人Robin Fuは大成功だったと語る。

第1回にもかかわらず、多くのスポンサーが集まった。(筆者撮影)
大成功のイベント、開発者コミュニティの統合はまだ課題
上海や蘇州には外資系が中心になって開発した製造業のエコシステムがある。会場を提供した宝山区は日本企業ファナックの現地法人など、産業ロボット企業の多い地域だ。上海にはDJIのロボット競技ROBOMASTERで何度も優勝している上海交通大学など、ロボット開発に長けている大学・研究機関も多い。一方でROSは新興のソフトウェアなので、長く開発されている産業用ロボットとは別のコミュニティとなっている面もある。
ROSCon China 2024の内容はそうした上海の土地柄を反映した、ROSConとしてはバラエティに富んだ、別の見方をすればROS以外の内容を多く含んだイベントとなった。プログラム(リンク )にあるとおり、Emboded AI(身体性を持ったAI)やAIGCとロボット開発、自社の人型ロボット開発についての発表など、ロボットではあるがROSそのものではないものも多い。9月25日に行われたROSCon JP 2024や、Chinaとたまたま同日程だったROSCon Indiaのプログラムが基本的に「ROSを活用してこのようなロボットを開発している」という内容なのに比べると違いがある。
日本、中国、インドのROSConプログラム
これは、ROS以外のロボット産業も盛り上がっていて、開発の総量が多い中国の姿を表しているとも言えるし、海外のROSCon情報をそれほど参照しない中国/上海の現状を素直に反映しているとも言える。有名な自動運転プラットフォームであるBaiduのAppoloは、ROS1ベースで開発され、いったん自社開発のフレームワークに舵を切った後、ROS2ベースに戻ってくるなど、中国ではROS以外のロボット技術も多く開発され、独自のコミュニティを作っているものも多い。

コミュニティベースで開発されているオープンソースの人型ロボット OpenLoong 。(筆者撮影)
ハードウェア技術と情報技術の融合、自動車産業がロボット化していく中国
2日目の12月8日に登壇した、上海交通大学で智能汽車研究所副所長として自動運転全般を研究している黄宏成教授の講演は、自動車産業ほか中国のさまざまな産業がロボット化していく様子を明らかにした。
黄教授の資料によると、2021年の中国自動車業界では、9万人ほどの研究開発人員がいる。これは労働者全体の10%にあたる。その9万人の中で、インテリジェントカーの研究に携わっているのは8.1%、7000人にすぎない。2022年度はこの分野で2967人の新卒採用が行われ、ここ数年で急速に増員している。
増員は既存の自動車会社が最も多いが、EVや知能ロボット専門の新興自動車メーカー、自動車部品メーカー、新たに自動車業界に乗り出した他分野のテック企業などでも、知能ロボット分野のエンジニアは増員されている。
これまで自動車業界では製造管理や機械など、フィジカルでメカニカルな分野の要求が多かったが、コンピュータサイエンスや通信、ソフトウェアマネージメントなど、これまでの自動車業界と距離があった分野のエンジニアが大量に採用されるようになりつつある。
黄教授が上海交通大学で自ら行っているエンジニア教育でも、前回紹介したGuYueHomeのROS教材を用いて、ROSの学習を行っている。

前回紹介したGuYueHomeと連携してROSロボット教材を販売しているD-Robotics。上海交通大学でも同社のROS教材が使われている。(筆者撮影)
こうした伝統的な製造業と、ROSをはじめとする新興のオープンなソフトウェア産業の融合は中国の、ひいては世界のハードウェアビジネスを左右すると見られ、今後が注目される。