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【25-007】AIが化学の「不可能」を「可能」にする(その1)

張佳星(科技日報記者) 2025年01月16日

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中国科学技術大学の実験室でロボット化学者システム「小来」を調整する博士課程生。(撮影:張端)

 8日間で688回の化学実験、7日間で1000種類の触媒を調合するなど、人間なら何年もかけてしなければならない作業を、人工知能(AI)は短時間で終わらせることができる。

 中国科学院院士(アカデミー会員)の白春礼氏は、2024年12月9、10両日に開かれた「香山科学会議第768回学術シンポジウム」で、「AIは研究分野から活性化技術へと変化している。化学分野ではAIの応用により、化学反応予測や新たな化学物質の発見、化学実験の自動・スマート化などで大きな成果を上げている」と語った。

 AIは化学研究にどんな変化をもたらしているのだろうか。AIと化学の融合をどのようにして推進できるのだろうか。フォーラムに参加した専門家や学者がこれらの問題について、熱い議論を交わした。

人間なら2000年かかる作業をAIが2カ月で完了

「単調」かつ「危険」で「何度も同じことを繰り返す」。そんなイメージを持たれていた化学実験だが、AIによって「大変革」がもたらされ、ロボットが化学合成プラットフォームを自動操作したり、実験結果を観察・分析する能力を備えるようになっている。

 中国科学技術大学が開発したロボット化学者システム「小来」は、文献読み取り、合成、描写、性能測定、マシンラーニングのモデル構築・最適化など全プロセスの任務を行うことができる。同大学の羅毅教授によると、「小来」を活用することで、チームは新材料発見のプロセスを加速させ、人間なら2000年を要する複雑な最適化作業を2カ月以内で終わらせ、火星の隕石を利用して実用的な酸素生成電極触媒を作製したという。

「遠く」に目を向けると、AIは人類が地球外天体で現地調達を行い、化学物質を製造する新たな道を模索する助けとなる。「近く」を見ると、ある研究機関が高精度のプレトレーニングモデルを活用し、わずか1年の間に6000万個の有機小分子の構造から冷却水の性質と要求に合致するターゲット分子を選定し、これらの分子の合成と実際の製品のテストを実施することに成功した。

 中国科学院院士の鄂維南氏は「科学研究の基本的なツールは、理論、実験、科学文献の3つで構成される。ツールの制約から、過去の化学研究は経験に依存し、試行錯誤を繰り返す方法が採用され、組織形態も作業場のようなものが多かった。それに対し、AIは効果的な理論、実験、文献ツールプラットフォームを構築するのを助け、科学研究をプラットフォーム型のスタイルへと進化させている」と語った。

 中国科学院院士の張錦氏も「AIやビッグデータ、バーチャルリアリティなどのツールを活用することで、人間は思考を広げ、理解力を高め、認知の限界を突破し続けることができる。研究開発の全プロセスをカバーするAIエージェントを構築することで、ウィークポイントを補い、科学者が工学的思考を、エンジニアがプロダクト思考をそれぞれ持つようになり、研究と産業化ニーズの不一致というジレンマを打破することができる」と述べた。

複雑なミクロの世界を効率的に表現

 AIはミクロレベルになると、化学研究における強みをさらに発揮し、電子スピンや電荷密度、分子位置エネルギーといった化学的特性と密接に関連するパラメータを予測し、問題を解決できるようになった。

 Google DeepMindのAIモデル「AlphaFold 3」はなぜ、タンパク質やDNA、RNA、リガンドなどの分子の構造と相互作用を正確に予測することができるのか。白氏によると、同モデルは大量の入出力データを分析することでパターンを探して、分子間の相互作用の力や角度などのパラメータを把握し、実際の状況をシミュレーションして可能性のある状況を予測するという。

 現象を理解し、規則性を把握し、複雑なミクロの世界を効率的に表現する。そんなAIは、化学の分野において「不可能」な模索を「可能」にしている。

その2 へつづく)


※本稿は、科技日報「AI遇上化学:"不可能"变为"可能"」(2024年12月23日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

 

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