【25-021】マイクロ・ナノから原子スケールへと前進する世界の精密製造(その1)
張佳星(科技日報記者) 2025年03月03日
このほど開催された香山科学会議で、中国科学院の許寧生院士(アカデミー会員)は「空・宇宙・地上・海を一体化するネットワークの建設、情報世界の感知能力、通信力、及びスマートコンピューティング能力の構築などのためには、新型シリコンベースのチップが差し迫って求められている。しかし、『トップダウン』のフォトリソグラフィ製造法は既に物理的限界に近付いている。世界の精密製造の競争は既にマイクロ・ナノメートルスケールから原子スケールへと移行している。今後、シリコンベースのチップの発展は、大規模な原子製造技術の水準にかかっているだろう」との見解を述べた。
今回の香山科学会議では、原子製造という最先端の科学問題にスポットが当てられた。シリコンベースのチップの製造・加工技術において、1ナノメートルのノードは物理的な限界とされている。結晶体の隣接した原子間の距離は数オングストローム(1オングストローム=0.1ナノメートル)程度で、原子を直接操作してチップを製造できれば、既存のフォトリソグラフィを基礎とした製造法を覆すことになる。
石器時代から今に至るまで、人類はものづくりの技術を磨き続け、正確に操作することができる物質の基本単位は原子の時代に突入しつつある。香山科学会議に出席した専門家は、「この過程において、人間はものづくりの限界を何度も打破するほか、基礎理論の知識を一新できる」との見方を示した。
チップ製造の限界突破へ
現時点で、チップの製造には、薄膜堆積、フォトレジスト塗布、フォトリソグラフィ、エッチング、計測、洗浄、イオン注入といった段階を含む、ひとかたまりの材料から始めて、段階的に追加したり、除去したり、材料の性質を変えたりしながら、複雑な構造を作り出すという「トップダウン」の方法が採用されている。
単位面積内で、さらに多くのトランジスタを配置するべく、研究者は2011年、FinFET(フィン型電界効果トランジスタ)技術を採用し、集積回路の構造を変え、チップのノードサイズは22ナノメートルの壁を突破した。しかし、ノードサイズが5ナノメートルになると、エネルギー的に通常は超えることのできない領域を粒子が一定の確率で通り抜けてしまう「トンネル効果」が発生するため、チャネル部分をゲートが全方向から囲んでいるGAA構造や電流をチップの垂直方向に流して微細化と性能向上を両立させる構造VTFETといった新しい構造が生まれた。
しかし、加工の精度が高まるにつれて、マクロ的なアプローチでは製造上の限界が生じ、構造の巧みな設計だけでは、日増しに高まっているチップの演算能力に対するニーズを満たすことはできなくなっている。特に、生成人工知能(AI)が発展する上、各業界において、それが直接応用されるようになるにつれて、演算能力不足や計算コストが高いといった問題が次第に際立つようになっている。
許氏は「シリコンベースのチップを作るための大規模な原子スケール製造技術の発展が、計算とスマートテクノロジーの基礎的な変革をもたらす可能性がある。重要材料の研究開発や微細構造の集積、中核的加工・製造・検査といった分野における重要技術の研究を実施し、シリコンベースのチップを作るための原子スケール製造の実現を推進すべきだ」と指摘した。
では、どのような材料がチップなどの部品を原子スケールで作り上げるのに適しているのだろうか。復旦大学物理学学部の張遠波教授によると、世界的には、二次元半導体は、1ナノメートル以下のノードの重要な材料システムで、ムーアの法則に従い続けることができると公認されている唯一の材料と考えられている。
二次元材料は、独特な単分子層クリスタル構造を備えている。例えば、グラフェンは、炭素原子で構成されている二次元材料だ。張氏は「二次元材料、及び部品には、電子移動度が高く、電気学的性能が豊富といった特徴がある。1ナノメートルという条件下でも正常に作動し、従来的な半導体の部品の限界を突破する可能性がある。近年、二次元材料の欠陥制御や応力制御、電荷制御、コーナー積層制御といった面で、学界は大きな進歩を遂げている。例えば、ウエハーレベルの二次元材料の成長が既に実現し、二次元半導体に基づいた集積化技術も、大部分のシリコンベースの回路機能を既に実現している」と説明した。
(その2へつづく)
※本稿は、科技日報「精准制造:从微纳米迈向原子尺度」(2025年1月9日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。