【25-022】マイクロ・ナノから原子スケールへと前進する世界の精密製造(その2)
張佳星(科技日報記者) 2025年03月04日
石器時代から今に至るまで、人類はものづくりの技術を磨き続け、正確に操作することができる物質の基本単位は原子の時代に突入しつつある。香山科学会議に出席した専門家は、「この過程において、人間はものづくりの限界を何度も打破するほか、基礎理論の知識を一新できる」との見方を示した。
(その1 よりつづき)
高精度な制御可能な組み立てがカギ
多くの二次元材料の実験室における量産が既に実現しているにもかかわらず、必要に応じて、二次元材料の機能を自由自在に構築することはまだ難しい。香山科学会議に出席した専門家は、「二次元材料と構造を操作して、異質構造やデバイスを構築することで、その性質と機能を人工的に設計・制御することは、依然として、原子製造の中核をなす科学的問題だ」との見解を述べた。
中国科学院の劉雲圻院士(アカデミー会員)は、「自然から学び、先進製造技術を開発することで、原子クラスターまたは分子の精密で制御可能な組み立て・製造を実現することができる。情報技術の小型化の進展により、原子製造の分野が、構造や順序、傾向、積層方法といった面で、簡単、無秩序、経験型から、複雑、秩序正しく、スマートな方向へと発展することが求められている」と語る。
そして、「不思議なのは、ミクロレベルでは、原子または分子を私たちが望む方法で配置すると、千差万別の特性が得られることだ。こうした性能は、マクロな製造では得られにくい。ミクロ分子の反応と組み立ての法則を深く理解し、材料の基本的な物理的性質を把握することで、新型のフレキシブルマイクロ・ナノデバイスを構築し、今後の人工知能(AI)エージェントの開発のニーズを満たすようにする必要がある」と強調した。
二次元材料を製造する際のリアルタイムオンラインチェックは、その成長を確実にコントロールするうえで非常に重要だ。中国の国家ナノメートル科学センターの謝黎明研究員によると、二次元材料の成長メカニズムを解明するために、チームは高温原位置光学イメージング技術を確立し、化学気相堆積(CVD)システムに埋め込むことができる高温マイクロイメージングレンズを開発。950℃という条件下において、1マイクロメートル単位の空間的解像度で二次元材料の成長をリアルタイムでイメージングすることで、二次元材料の成長動力学・成長メカニズムを解明し、その成長の速度、拡散の速度といった重要パラメータを取得した。
良い仕事をするためには、まず道具を整えておくべきだ。高解像度のオンライン観測、及びオフラインの走査型透過電子顕微鏡イメージングデータに基づいて、チームは液相エピタキシャル法と設備を開発し、二硫化モリブデン(MoS2)の全単層成長を実現した。
中国科学院物理研究所の張広宇研究員率いるチームは、高品質の二次元二硫化モリブデンウエハーの成長を基にして、界面バッファ層の制御という新しいアプローチを通じ、工業的に互換性があるC面サファイア基板上で、2インチの単層二硫化モリブデン単結晶薄膜をエピタキシャル成長させることに成功した。シリコンと比べると、二硫化モリブデンは、電子制御能力が高く、次世代チップを製造するための理想的な素材と見られている。
機能に狙いを定めてターゲットを「カスタマイズ」
大規模に集積化された二次元材料で作られたトランジスタを使って、演算速度が速く、電力消費量が少ないチップを作り出すことができるのだろうか。また、このようなチップはどんな外見をしているのだろうか。
張広宇氏は「原子の操作から始まり、最終的に製品を作り出し、構造上における原子に正確に狙いを定め、機能の『カスタマイズ』を実現するというのが、マイクロ・ナノ製造に続く次世代製造技術となるだろう。現在、原子スケールの関連製品はまだ初期段階にあり、多くのテクノロジー・ロードマップが開発中だ」と説明した。
西安交通大学材料学院スピントロニクス材料・量子デバイス研究センターの潘毅教授は「『ムーアの法則』が終焉した後の、次世代コンピュータチップを完成させるためには、技術とアーキテクチャという面で、従来の枠組みを打破しなければならない。互換性のある半導体技術を駆使した固体量子コンピュータチップは、競争力が高いテクノロジー・ロードマップだ。高度に関係し合う等価な量子ドットで構成されている量子ビットは、固体量子チップを構成する基本単位だ」と訴えた。
等価な人工量子ドットを作り出すために、潘氏率いるチームは、ドイツのPDI研究所と提携し、走査型トンネル顕微鏡を利用して原子操作行い、ヒ化インジウムの表面に、複数の等価な人工量子ドットを構築することに成功した。この方法は将来、固体量子コンピューティングに必要な大規模カップリング量子ドットアレイの重要な製造法になる見込みだという。
香山科学会議に出席した専門家は「自己組織化誘導イメージング技術や超並列電子線直接描画エッチングデバイス技術、大規模走査型プローブデバイス技術、X線リソグラフィデバイス技術などをはじめとする加工技術が進歩し続けており、産業レベルの大規模な原子製造に下支えを提供している」と語った。
※本稿は、科技日報「精准制造:从微纳米迈向原子尺度」(2025年1月9日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。