【25-025】量子コンピュータ完成の「扉」を開ける「カギ」はどれか(その1)
胡定坤(科技日報記者) 2025年03月13日

量子コンピュータのイメージ画像。(画像:視覚中国)
量子コンピューティングは、次世代情報処理技術の重要な方向性として、世界各国から高い注目を集めている。量子チップは、量子コンピュータのデータプロセッサで、量子コンピューティングの中核的存在だ。近年、さまざまな物理原理に基づいた量子チップが次々と登場している。
2024年12月上旬、米グーグル(Google)は最新の量子チップ「Willow」を発表し、国際世論の大きな注目を集めた。それは、量子コンピューティングの完成にたどり着く道筋を探るうえで、一定のブレイクスルーを実現しているかもしれないが、最終的にどの「カギ」が量子コンピューティングの「扉」を本当の意味で開けるのかは、まだわかっていない。
多様なテクノロジー・ロードマップ
上海交通大学教授で中国初の光量子コンピュータ企業、図霊量子(Turingo)の創業者である金賢敏氏は「チップ化や集積化は、量子コンピュータを実験装置の状態から実用化へと移行させるうえで、必ず通る道だ。量子チップは、それに使われている量子ビットのタイプによって分類できる。現時点で、超伝導、光量子、イオントラップという主流となっている3つのテクノロジー・ロードマップがある。近年、中性原子を利用する量子ビットの技術が発展しており、4番目のテクノロジー・ロードマップとなる可能性がある」と説明する。
米国のIBMやグーグルなどの企業は、超伝導方式を採用した量子チップを主な研究開発の方向性としている。IBMは2019年1月に、世界初の汎用近似量子コンピューティング統合システム「IBM Q System One」を発表した。そのチップに含まれている超伝導量子ビットの数は20個だった。同年、グーグルが発表した53個の超伝導量子ビットを含む量子プロセッサ「Sycamore」は、「量子超越性」をいち早く実証した。最近、大きな話題となっている「Willow」も超伝導方式を採用した量子チップだ。
カナダの量子コンピューティング企業Xanaduは21年に8ビットのX8光量子チップを打ち出し、光量子コンピューティング商用化の序幕を告げた。22年6月にはプログラム可能な光量子チップ「Borealis」を使って、量子コンピューティングの優位性を実証した。
15年にはイオントラップ量子コンピュータの研究開発に注力する米国のIonQが誕生した。同社は2020年、11量子ビットの量子チップを発表し、「グーグルよりも量子超越性が高い」と主張した。IonQはその後も、20量子ビット、32量子ビットのチップを相次いで発表。IonQに続いて、米国のHoneywell(ハネウェル)の子会社Quantinuumなども、イオントラップ量子チップの研究開発の仲間入りしている。
中性原子を利用するテクノロジー・ロードマップも近年、台頭し、米国やフランスなどの研究チームは、その分野で相次いで進展を遂げている。
金氏は「シリコン量子ビットやトポロジカル量子ビットなどの技術も発展途上だが、超伝導や光量子といった主要なテクノロジー・ロードマップと比べると、依然として初期段階にある」と語った。
科大国盾量子技術股份有限公司の量子コンピューティングラウドプラットフォームの責任者である儲文皓氏は「同じタイプのテクノロジー・ロードマップであったとしても、チームによっては、その実現方式が異なる。例えば、同じ超伝導方式を採用した量子チップでも、グーグルは、量子ビットを四角形に配列しているのに対して、IBMは、ハチの巣状の六角形に配列している」と語った。
解決すべき重要課題
金氏は「成功も失敗も、量子チップ次第だ。異なるタイプの量子ビットが異なる量子チップのテクノロジー・ロードマップを生み出してきたが、これらはテクノロジー・ロードマップが生来持つ固有の問題をもたらしてもいる」と指摘する。
儲氏は「量子のビット数、忠実度(計算のエラー率)、可干渉時間(量子ビットの量子状態維持時間、量子コンピューティングは量子状態でしか作動しない)などの指標を使って量子チップを評価することができる」と述べた。
儲氏によると、超伝導方式を採用した量子チップは、「ジョセフソン接合」をベースにした超伝導回路を用いて量子ビットを設計しており、既存の成熟した集積回路の技術を使って作れるというのがその最大の強みで、拡張性が高く、ビット数が多い量子チップの構築が容易だという。
金氏は「だが、超伝導量子ビットは環境の影響を受けやすく、相互に干渉しやすく、計算エラー率が高くなってしまうため、超伝導方式を採用した量子チップは特に量子の誤り訂正をめぐる問題を解決する必要がある。このほか、超伝導回路は絶対零度に近い超低温下で稼働する必要があり、必然的に量子コンピュータの製造コストが高まり、使用時の制限も多くなる」と強調する。
さらに「光量子チップは、光子を量子ビットにしている。光子は電磁ノイズの影響を受けず、可干渉時間が極めて長く、長時間の量子コンピューティングに適している。また、光量子チップは常温下でも稼働でき、超低温冷却設備を必要としないため、稼働コストと配置の難度を大幅に下げることができる。さらに重要なこととして、光量子チップの製造はそれほど高い技術を必要としておらず、既存の半導体技術を徐々にアップデート・最適化することができる」と説明した。
(その2へつづく)
※本稿は、科技日報「哪把"钥匙"能打开未来"大门"」(2025年1月9日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。