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【25-032】BMIで肥満を定義するのは時代遅れ?(その1)

代小佩(科技日報記者) 2025年04月07日

 ある最新の報告書を見れば、「肥満かどうか」の答えが変わるかもしれない。

 学術誌「ランセット糖尿病・内分泌学」は1月15日、非常に重要な報告書を発表した。世界の75の医療機関がこの報告書の主張を支持しており、報告書の執筆に参加した世界の専門家56人は、「ボディマス指数(BMI)だけに頼る方法をやめて、どのような場合に『肥満』を一種の疾患とみなすかについて、定義し直すべきだ」と世界に呼び掛けている。

 同報告書はこれまでの固定概念を打ち破り、「肥満」が疾患であるかを判断するには、従来のようにBMIを計算するだけではなく、体脂肪やウエストサイズといった指標もベースにして、個人の客観的兆候と症状に対する評価も行うべきだとした。報告書の執筆に参加した専門家の一人である華中科技大学同済医学院公共衛生学院の潘安教授は、「これは斬新かつ精細な肥満診断方法で、報告書の最大の注目ポイントでもある」と述べた。

曖昧だった「肥満」の定義に新しい概念が登場

 ご存じの通り、肥満は全世界が直面している重大な公衆衛生問題の一つだ。

 現時点で、世界の肥満人口は10億人以上と試算されている。「中国住民栄養・慢性疾患状況報告(2020年)」によると、2018年における中国の成人の過体重率は34.3%、肥満率は16.4%だった。2002年の過体重率22.8%、肥満率7.1%と比べると、大幅に上昇したことになる。6~17歳の児童・青少年の過体重率は11.1%、肥満率は7.9%で、年々上昇している。

 近年、「肥満」や「ダイエット」が大きな話題となり続けている。ケトジェニック(糖質制限)ダイエットや地中海式ダイエットが流行し、芸能人が太ったり痩せたりしたことがニュースになって議論を巻き起こし、肥満症の新治療薬の研究開発が注目を集めるなど、肥満に関するさまざまな話題が人々の注目を集めている。

 潘氏は「巷で大きな話題になっているものの、肥満をどう定義するかという重要かつ基本的な問題が見過ごされてきた」と指摘する。

 現時点で、肥満の定義に用いられる主な指標はBMIで、一部の国や地域ではそれが唯一の指標となっている。BMIは、体重(kg)を身長(m)の二乗で割って算出される。中国国家衛生健康委員会が発表した「肥満症診療ガイドライン(2024年版)」は、BMIが24以上28未満は過体重、28以上が肥満としている。

 北京大学人民医院内分泌科の紀立農主任は「BMIだけを頼りに肥満かどうかを判断する方法には問題があるかもしれない。体脂肪率が高くてもそれをBMIで判断することができず、肥満であることが見過ごされてしまう人もいる。一方で、臓器の機能や体の機能は正常であるにもかかわらず、BMIが高く『病気』と診断される人もいる」と指摘した。

 そして「肥満が原因で、体の機能に異常が発生したり、臓器の機能に障害が発生したりしない限り、肥満を『疾患』と見なすことはできない」との見方を示した。

 中国では、肥満はまだ「疾患」の範囲に入れられていない。その大きな理由の一つは、現時点で、肥満の定義が疾患の定義基準に適合していないからだ。そのため、肥満の治療を医療体系や医療保険体系に組み込むことも難しくなってしまっている。

 潘氏は「肥満の概念がきちんと定義されていないため、いろんな問題が起こってしまう。例えば、一般レベルで考えると、肥満に対して間違った見方を持つ人が多くなり、肥満に対するスティグマが起きる可能性がある。また、医療システムというレベルで考えると、肥満の科学的分類や的確な治療に影響を及ぼしてしまう。社会というレベルで考えると、公衆衛生政策の策定に影響を及ぼす可能性がある」と指摘する。

 では、肥満を定義し直す必要があるのだろうか。潘氏は「肥満の概念は既に多くの人の脳内に刻み込まれ、それはBMIとしっかりと結び付いている。肥満を定義し直すことは固定観念に対する挑戦であり、時間とエネルギーが非常にかかる作業になる。そのため、私たちは『臨床性肥満』という新しい概念を打ち出した」と説明した。

全く新しい基準が登場

「臨床性肥満」という概念と診断基準を明確にするべく、2023年、世界の専門家56人で構成されたランセット糖尿病・内分泌学臨床性肥満症委員会(以下「委員会」)は、臨床において肥満を疾患と見なす条件について確定した。

 内分泌学や内科、外科、生物学、栄養学、公衆衛生といった医療分野から集まった専門家らは「『臨床性肥満』と診断するためには、体脂肪率をチェックするほか、医学的指標について評価する必要がある」との見方で一致した。

その2 へつづく)


※本稿は、科技日報「用BMI定义肥胖过时了?」(2025年1月20日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

 

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