【25-050】大規模言語モデルを企業はどう活用すべきか(その2)
葉 青(科技日報記者) 2025年06月10日
大規模言語モデルの産業応用が力強い成長を示す一方で、企業が大規模言語モデルを直接導入する際には、必ずしも順調ではないことも無視できない。大規模言語モデルと企業固有の知識の乖離、出力に時間がかかること、回答の範囲が広過ぎること、特定の業務における解決効果が低いことなどは、企業が直面する共通の課題だ。
(その1 よりつづき)
中国における大規模言語モデルの産業実装には主に2つのルートがある。一つは汎用大規模言語モデルで、特定分野に制限されず、さまざまなタスクを処理できるのに対し、もう一つは専門分野の大規模言語モデルで、医療、金融、教育などの専門分野の業務ニーズを満たすことができる。
雲従科技スマート政務業界総監の程飛氏は、「汎用モデルは主に一般的な課題を解決するものだが、それを専門業界にどう応用するかは、AI企業と業界の専門家が共に研究すべき方向だ」と述べた。程氏によると、業界ではすでに、分野特化型大規模言語モデルの開発に注力しており、さまざまなタイプの企業のDXニーズをより的確に解決することがコンセンサスとなっている。
金融、電力から中医薬の分野まで、大規模言語モデルの応用専門分野は絶えず細分化されている。ある国有製薬企業は、業務の急速な発展に伴い、知識管理の非標準化、知識継承の困難さ、イノベーション能力の不足、生産・管理効率の低さなどの課題に直面していた。発展のボトルネックを打破するべく、同社は雲従科技の大規模言語モデル「從容」を導入した。雲従科技はこのモデルをベースに、リーン管理協働システムを構築。製薬企業専用の医薬業界大規模言語モデルを開発し、AI、クラウドコンピューティング、ビッグデータ、ヒューマン・マシン・インタラクションなどのコア技術により、製造業のDX、ネットワーク協働、スマート改造、グリーン向上を支援している。
企業にとっては、大規模言語モデルを導入する前に、データガバナンスを完了させることが極めて重要だ。程氏は「大規模言語モデルが基盤やツールとなる。企業が初期の生産過程で蓄積した大量のデータは、整理、ガバナンス、ラベリングが必要で、高品質のデータを形成する必要がある。これらのデータと大規模言語モデルの基盤が融合することで、企業や業界に適した専用モデルが生み出される可能性が高まる」と訴えた。
「技術+エコシステム」で弱点を補強
大規模言語モデルは企業のDXの「新たな標準装備」になりつつあるが、その真の実装を推進するには、まだいくつかの関門を乗り越える必要がある。
第一に、コストの問題だ。大規模言語モデルは開発と応用の過程で、データ需要量が大きく、計算能力の要件が高く、研究開発コストが極めて高い。人工知能・デジタル経済広東省実験室(広州)の研究員で、華南理工大学教授の譚明奎氏は、「大規模言語モデルの導入コストが非常に高いため、多くの企業は大規模言語モデルの使用をQ&Aの初期段階にとどめており、その応用能力をまったく発揮できていない」と指摘した上で、企業と研究機関が緊密に協力し、それぞれの強みを組み合わせて、典型的な分野でデータ、モデル、アルゴリズムの共有と共同開発を行うことで、大規模言語モデルの応用と展開を促進するよう提案している。
譚氏はまた、大規模言語モデルのプラットフォームに基づくAIエージェントを開発し、さまざまな応用シーンで誰でも使えるよう提案している。譚氏のチームが間もなく発表する大規模言語モデル自動化ツールは、自然言語インタラクションを通じてユーザーのニーズを解析し、APIインターフェース、業界ソフトウェア、データ分析ツールと自動的に連携させることで、企業の導入ハードルを大幅に下げることができるとしている。
技術的なブレイクスルーもコスト削減の鍵だ。例えば、大規模言語モデル「從容」は技術的なブレイクスルーによ、「アウト・オブ・ザ・ボックス」を実現し、企業の使用コストを大幅に削減するとともに、メンテナンスコストも40%削減している。
第二に、セキュリティの問題だ。セキュリティは産業発展の重要な基盤だ。大規模言語モデルには、機密データの漏洩リスクとコンプライアンスリスクが存在する可能性がある。譚氏は、「これは企業が最も関心を持つ問題だ。現在、関係当局は関連制度や法律の整備を進めており、企業もこれに歩調を合わせ、開発プロセスが合法で、コンプライアンスに準拠していることを確認する必要がある」と述べた。
複数の専門家は、大規模言語モデル技術の急速な発展に伴い、危機意識を高め、コア技術のイノベーションを強化し、動的監視・早期警戒プラットフォームを整備し、完全なセキュリティ評価メカニズムを確立する必要があるとの見方を示している。
第三に、エコシステムの問題だ。程氏は「新たな産業の健全な発展は、政府の政策誘導と良好なエコシステム環境なしには実現できない」と訴え、関連政策の策定に加えて、政府レベルでモデルケースやデモンストレーションの構築を行い、大規模言語モデルの実装を推進するよう強調した。
※本稿は、科技日報「大模型成"新标配",企业如何用得好」(2025年4月14日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。