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【25-054】量子テクノロジー産業の体系的な展開を(その1)

劉冬梅(中国科学技術発展戦略研究院研究員)、彭思凡(中国科学技術発展戦略研究院博士研究員) 
2025年06月19日

 量子テクノロジーは近年、破壊的なイノベーションとして、世界の産業発展の構造を再構築している。超伝導量子計算プロトタイプの進化から、1万キロメートル以上の衛星・地上間量子通信に至るまで、人類はすでに量子状態を能動的に制御する新たな時代に突入している。

 長年にわたる体系的かつ先進的な展開を経て、中国は量子テクノロジー分野で重要な成果を収めており、その技術と産業化は、全体として国際的にトップレベルにある。現在、量子テクノロジーのイノベーションは、量の蓄積から質の飛躍へと進展しており、新たなテクノロジー革命をけん引するには、戦略的計画と体系的な展開を強化し、量子産業で「先手」を打つ必要がある。

急速に産業化する量子テクノロジー

 21世紀に入り、量子テクノロジーは急速に発展し、各国で幅広く注目され、戦略的重要分野となった。中国では、量子テクノロジーの発展は、「追走」から「並走」へと進み、一部分野では「先行」する状況が生まれている。量子通信や量子計算では世界の上位水準に達し、量子精密測定の複数分野でも国際的レベルとなっている。革新的リソースが集積する中、量子テクノロジーは現在、実験室から産業応用への移行が加速している。

 量子計算のブレイクスルーが計算能力革命をけん引している。量子計算技術は原理的に、古典計算をはるかに上回る強力な計算能力を持つ。中国では現在、量子計算技術はプロトタイプ検証の段階から専用シミュレーターの開発段階へと移行している。中国科学技術大学の研究チームは、105量子ビットの超伝導量子プロセッサ「祖冲之三号」を発表し、「量子ランダム回路サンプリング」問題において、世界最速規模のスーパーコンピュータを数千兆倍上回る処理速度を実現した。清華大学の研究チームは、世界最大規模となる512個のイオンによる2次元配列の安定したトラップを実現した。中国電信量子信息科技集団が開発した量子計算クラウドプラットフォーム「天衍」は世界に開放され、50以上の国のユーザーにサービスを提供し、アクセス件数は2100万回を突破した。量子計算技術は、AIの計算能力のボトルネックを打破する究極のソリューションとなる可能性がある。

 量子通信は、情報セキュリティを強化する手段として注目されている。現時点で唯一、「情報理論的に証明可能な」安全性を実現できる通信方式とされており、中国ではその実用化と産業化が進んでいる。小型化された衛星・地上間の量子通信装置は、1万2900キロメートルを超えるリアルタイムの量子鍵配送に成功し、長距離かつ安全な通信の実現に一歩近づいた。中国電信は、通信事業者レベルの量子セキュリティプラットフォーム「量子密信」を発表し、量子鍵配送とポスト量子暗号技術を融合した分散型暗号システムを構築。広範な量子暗号インフラの整備により、ポスト量子時代の情報セキュリティにおいて二重の安全策を提供している。

 現在、中国では量子科学実験衛星「墨子号」と国家広域量子暗号通信基幹ネットワークを基盤として、独自の衛星・地上一体化量子通信ネットワークの雛形が構築され、金融や行政などの分野で大規模な応用が始まっており、デジタル時代における国家情報セキュリティの基盤となっている。

 量子精密測定が産業の転換と高度化を後押しする。量子精密測定技術は、産業分野におけるパラメータの測定精度と感度の上限を打破し、産業基準の再構築を可能にしている。近年、中国では量子精密測定技術は応用範囲が継続的に拡大している。冷却原子重力計は、量子による絶対重力のネットワーク観測を実現し、防災・減災のための新たな早期警報ツールを提供した。量子電流変成器や量子一体型直流電力計などの装置は実用化検証に合格し、送電網の各段階における測定精度を向上させている。光量子レーダーは、大気汚染の管理を「人による防御」から「技術による防御」へと推進した。ゼロヘリウム心・脳磁図センサは、心疾患および脳血管疾患の診断に新たな方法を切り開いた。世界の計量基準が全面的に量子化へ向かう中で、量子精密測定技術は、ハイエンド製造、エネルギー・電力、エコロジー・環境保護、医療・健康といった分野の変革を促進する重要な原動力となりつつある。

その2 へつづく)


※本稿は、科技日報「系统布局量子科技产业」(2025年4月28日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

 

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