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【25-055】量子テクノロジー産業の体系的な展開を(その2)

劉冬梅(中国科学技術発展戦略研究院研究員)、彭思凡(中国科学技術発展戦略研究院博士研究員) 
2025年06月20日

現在、量子テクノロジーのイノベーションは、量の蓄積から質の飛躍へと進展しており、新たなテクノロジー革命をけん引するには、戦略的計画と体系的な展開を強化し、量子産業で「先手」を打つ必要がある。

その1よりつづき)

課題に直面する中国の量子テクノロジー発展

 中国の量子テクノロジーと産業は現在、「量から質への転換、蓄積から勢いへ」という重要な段階にある。今後、ますます激化する国際競争に直面し、人材・資金供給、産業チェーンの安全保障、企業のイノベーション主体としての地位強化などにおいて、一連の課題に直面しており、以下の点が際立っている。

 一つ目は人材と資金の需給ギャップが顕著だ。中国の量子分野の人材供給能力は業界の需要と乖離している。量子を専門とする人材は主に、物理学専攻の出身で、過半数が大学院の学歴を有している。今後、量子テクノロジーの工学的応用が進むと、分野横断型人材や、応用開発、エンジニアリング構築、テクノロジーサービスなどに従事する複合型人材が、数千人規模で不足する可能性がある。また、中国の量子分野における民間(社会)資金の投入も不足している。2024年、世界の量子分野における社会的投融資額は25億ドル(1ドル=約145円)だったが、中国はわずか1億400万ドルにとどまり、世界全体の4.14%に過ぎなかった。米国は量子分野への民間投融資額が中国の15倍に達している。今後、中国の量子産業の発展には、引き続き民間資金による大規模な支援が必要だ。

 二つ目は産業チェーンにおける安全リスク対策が不足している。量子テクノロジーの特徴の一つは、その発展が最先端の科学研究の基礎条件に強く依存していることだ。しかし、中国では、コア材料や先端機器などの面で、まだ完全な自立ができていない。例えば、高性能単一光子源や単一光子検出器、超高出力希釈冷凍器、100キロボルト(kV)以上の高圧電子ビーム露光装置、フリップチップボンダーといった機器の大半は輸入に依存している。今後、量子産業チェーンの各部分の需要が急増すれば、市場競争は一層激化するだろう。もし、コア材料や機器などを輸入に依存したままであれば、中国の量子テクノロジーと関連産業の安全で安定した発展に影響が及ぶ可能性がある。

 三つ目は企業がイノベーション主体として役割を十分果たしていないことがある。現在、グーグルやマイクロソフト、IBMといったテクノロジー分野のリーディング企業は、世界の量子テクノロジーイノベーションの中心的存在となっている。一方、中国には量子分野に深く取り組むリーディング企業がまだ存在せず、一部のスタートアップ企業は、コア技術の蓄積や工学能力の育成、産業チェーンの連携などの面で、基礎をさらに固める必要がある。中国では量子関連企業の「孤軍奮闘」が際立っており、分野内のジェネリックテクノロジーに対する注目度が低いため、国家技術イノベーションセンターの共同建設や技術イノベーションアライアンスといったハイレベルの協力や協同イノベーションなどが不足している。

制度と市場の強みを有機的に結合する

 以上のような課題に直面する中で、中国は超大規模の市場という強みと、重点事業に力を集中させる制度的な強みを、資源配分における市場の決定的な役割と有機的に結合させることで、量子テクノロジーイノベーションや関連産業の発展のために強力な原動力を注入していくべきである。

 第一に、重要プロジェクトを実施し、協同イノベーションを強化する。国家の戦略的技術力を中核とし、国内のイノベーション要素や優れた資源を集め、汎用量子コンピューターや衛星・地上一体化量子通信ネットワークといった投資額100億元(1元=約20円)規模の重要プロジェクトを重点的に展開する。リーディング企業を中心としたイノベーション連合体の設立を支援し、重要テクノロジーの開発を担当させたり、参加させたりする。また、こうした重要プロジェクトを媒介として、各主体、各チーム間の有機的な連携と効果的な協力を強化する。

 第二に、発展の基礎を固め、要素の自主供給を確保する。条件が整った大学が量子テクノロジー学院を設立するようサポートし、大学の量子情報学科の設置を整備し、量子テクノロジーの応用シーンを対象とした学際的カリキュラムを新設する。重要課題を媒介として、研究の最前線で量子テクノロジー人材を育成し、「実践を通じて学ぶ」方式で、需要と供給の緊密な連携を促進する。産業のニーズを見据え、大学と企業による「オーダーメイド型」の人材育成を支援する。国家レベルの量子産業基金を設立し、民間資金の呼び込みを図る。資金調達ルートを拡大し、税制優遇措置やミスを許容するメカニズムなどにより、リスクに対する許容度を高める。条件を満たす量子関連企業には、株式および債券による資金調達のための優先ルートを開設する。保険機関による量子テクノロジー専用保険も奨励する。

 第三に、イノベーションエコシステムを構築し、産業発展の肥沃な土壌を育成する。量子テクノロジーイノベーションセンターや検査測定センター、中間試験検証プラットフォームを整備し、量子テクノロジーの産業化応用への道筋を円滑にする。データセンターや計算能力センター、衛星インターネットなどのデジタル新インフラと量子テクノロジーの異種融合的な発展を模索する。量子テクノロジーに関する科学教育・広報を強化し、量子テクノロジー関連分野のフェイクニュースや虚偽報道を取り締まり、量子テクノロジーに対する理解の客観性・正確性・寛容性を高める。ソフトウェア開発のプラットフォームであるGitHubやオープンソースソフトウェアコミュニティであるSourceForgeなどを参考に、量子テクノロジーのオープンソースコミュニティを構築し、必要な資金支援を行う。研究者や技術者、学生らが業界、学科の枠を超えて、自由に交流するよう働きかけ、量子テクノロジーの潜在的応用価値を掘り起こす。

 第四に、応用モデルを強化し、テクノロジーと産業の融合イノベーションを推進する。電気通信や金融、国防、医療、エネルギー、物流、生態環境保護、資源探査など、量子テクノロジーが応用価値を発揮し得る重要分野においては、中央企業(中央政府直属の国有企業)や国有企業が持つ、技術力の高さ、応用シーンの広さ、需要規模の大きさ、産業支援体制の整備力といった強みを生かし、これら企業に対して産業チェーンの中核的役割を果たすよう促す。中央企業・国有企業を軸として、量子テクノロジーの応用実証モデルを作り出し、技術応用や製品供給を促進することで、量子分野における標準策定、ブランド化、産業エコシステム構築の各能力を高め、量子製品の実用化、小型化、高コストパフォーマンスを推進し、産業チェーンの円滑な循環を支援する。


※本稿は、科技日報「系统布局量子科技产业」(2025年4月28日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

 

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