【25-062】アルツハイマー病、「対症療法」から「根治療法」へ(その1)
代小佩(科技日報記者) 2025年07月16日
(画像提供:視覚中国)
アルツハイマー病の新薬「レカネマブ」が中国で初めて処方されたのに続き、もう一つの新薬である「ドナネマブ点滴静注液」も最近、首都医科大学宣武医院で初めて使用された。これら2種類の薬剤の登場は、アルツハイマー病患者に新たな希望をもたらしている。
では、この2種類の薬はどのようなメカニズムでアルツハイマー病を治療するのだろうか。また、アルツハイマー病の薬物治療は現在、どのような課題に直面しているのだろうか。これらについて、神経内科の専門家に聞いた。
原因治療の実現
脳には、精密な「ゴミ回収システム」が備わっている。このシステムは、細胞の代謝によって生じた老廃物を定期的に除去する機能を担っている。しかし、このシステムが壊れると、アミロイドβタンパク質のような「有毒なゴミ」が速やかに処理されずに徐々に蓄積され、最終的には「記憶の通路」を完全に塞いでしまう。中国微循環学会神経変性病専門委員会の副主任委員兼秘書長で、航空総医院・神経内一科主任の邢岩氏によると、脳内に堆積したこれらの「ゴミ」は、ニューロンを破壊するだけでなく、炎症反応も引き起こし、脳の記憶力を次第に低下させ、アルツハイマー病を誘発するという。
アルツハイマー病は現在のところ、完全に治すことはできていない。過去数十年にわたり、医師は主にコリンエステラーゼ阻害薬や、NMDA受容体拮抗薬といった従来の治療薬を使って、患者の症状を改善してきた。北京大学第一医院神経内科の孫永安主任医師は、「これらの従来の治療薬は主に、神経伝達物質を調節して症状の緩和を図るもので、『ゴミの蓄積』によって引き起こされる一部の不快症状を改善することはできるが、『ゴミ』の蓄積速度を遅らせることはできず、病因そのものに対する根本的な治療もできない」と説明した。
レカネマブとドナネマブという2つの分子標的薬が登場したことで、アルツハイマー病の治療は新たな局面を迎えた。これらの治療薬は「ゴミを処理する特殊清掃チーム」のような役割を担い、脳内のアミロイドβタンパク質を正確に認識して除去する能力を持つ。ただし、レカネマブは主にアミロイドβタンパク質の単体およびアミロイドβタンパク質オリゴマー(可溶性アミロイドβタンパク質)に作用するのに対し、ドナネマブは主に、脳実質に蓄積したアミロイド斑(不溶性アミロイドβタンパク質)に作用する。孫氏は「両者は作用する段階が異なる。レカネマブが上流の治療であるとすれば、ドナネマブは下流の治療だ」と述べた。
ドナネマブ点滴静注液の大きなメリットは、月に1回の注射で済むことだ。孫氏は「これは同薬が比較的大きなグロブリン抗体構造を有していることによるものだ。この分子構造は血液に入ると、半減期が長く、静脈内で比較的安定した血中濃度を保つことができ、脳実質に蓄積したβアミロイドタンパク質プラークを持続的に除去できる」と語った。
邢氏は、「レカネマブとドナネマブは、いずれも疾患の病理学的要因に直接作用するもので、アルツハイマー病の進行を遅らせることが期待されている。この2つの治療薬の使用が開始されたことは画期的で、アルツハイマー病の治療が疾患修飾療法という新たな段階に突入したことを意味している」と述べた。
臨床応用には制約も
しかし、レカネマブとドナネマブが万能な治療薬というわけではない。例えば、臨床試験において、ドナネマブに副作用があることが判明した。孫氏は、「ドナネマブの主な副作用には脳浮腫と微小出血がある。公開されている研究データによると、アルツハイマー病患者の約24%に脳浮腫が確認され、31.4%に脳の微小出血が確認された。プラセボ群ではそれぞれ6.1%と13.6%だった。ただし、こうした副作用は主に画像診断の段階で確認できるものだ」と説明した。
副作用の発現は、患者の遺伝子型と密接な関係があり、特定の遺伝子型(例えばAPOE4)を持つ患者では、リスクがより高くなる。孫氏は「そのため、投与前には通常、医師が患者の遺伝子型を検査し、高リスクと判定された患者に対しては脳の画像診断によるモニタリングを強化し、異常があれば速やかに対応する体制を取る」と述べた。
(その2 へつづく)
※本稿は、科技日報「阿尔茨海默病从"治标"走向"治本"」(2025年5月13日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。