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【25-064】「低空経済」の離陸を支えるAI(その1)

裴宸緯(科技日報記者) 2025年07月22日

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第15回中国国際航空宇宙博覧会で展示された「空飛ぶクルマ」。(撮影:盧漢訢)

 中国では今年、「低空経済」(低空域飛行活動による経済形態)が発展のチャンスを迎えている。中商産業研究院が発表した「2025--30年中国低空経済分析および発展動向の研究予測報告」によると、今年、中国の低空経済の市場規模は1兆5000億元(1元=約20円)に達すると見込まれている。

 先日開催された香山科学会議第784回学術討論会で、中国災害防御協会会長を務める中国応急管理部(省)元副部長の鄭国光氏は、「低空産業の発展は、低空AIの重要コア技術の支援が不可欠だ。低空AI技術の応用は見通しが明るく、その研究開発および応用促進を加速させ、低空経済の質の高い発展を促進すべきだ」と述べた。

産業の飛躍的発展を推進

 北京工商大学の韓力群教授は、「低空システムは、複雑なシステムだ。これは、航空機やインフラといった異質な要素で動的に構成されており、各要素は物理的、通信的、行動論理的に顕著な違いがあり、高効率な連携を通じて、システムの安定運営を保証する必要がある。システム間の関連性は、単純な線形関係では捉えられず、システム内の要素は、一つが変化すれば全体に波及するような特徴を持ち、外部からの干渉による影響も大きく受ける」と説明した。

 韓氏は、「現在、低空システムは、外部環境認識能力の不足、複雑な調整、データ処理と意思決定の迅速性の課題、そして複数機体の協調と自律制御能力の強化が必要といった課題に直面しているが、AI技術がこうした課題を解決してくれる可能性がある。例えば、知的センシングにおいて、マルチセンサー融合技術と軽量化された物体検出アルゴリズムを組み合わせることで、物体認識の精度を高める。単一センサーでは、照明の環境が複雑だったり、照明が遮られる場合においては、判断を誤る可能性があるという問題を解決することができる。空域管理においては、分布型強化学習とゲーム理論最適化の融合により、一般航空機と物流用ドローンシステムの効率的な連携を実現し、管制官の負担を軽減することができる」と説明した。

 中国国務院の緊急時管理専門家グループの元グループ長で、国家減災委員会専門家委員会元副主任の閃淳昌氏は、「低空AI技術は、安全生産や防災・減災のレベルを高める面でも独特の優位性がある。低空AI技術を採用した航空機は、停電・通信断・ネットワーク断といった極限状況でも『千里眼』や『順風耳』として機能し、被災現場ではまるで『天兵天将(天から舞い降りる戦士)』のように救援に貢献する。発展の見通しが明るい」との見解を述べた。

 低空AI技術が搭載された航空機は、災害救援などの分野に応用され、大きな成果が上がっている。例えば、2022年に台風12号(ムイファー)が浙江省に上陸した際、「ドローン+AI」システムが12時間以内に電線500キロの損傷状況評価を行い、災害救助の効率を大幅に高めた。

 低空AIには、エンボディドAIやデジタルツインといった複数の先端分野の技術が集積されている。これらのイノベーションは、低空への応用に寄与するだけでなく、その他の業界も活性化する。低空スマートプラットフォームは、都市管理や環境モニタリングなどにも、革新的な手段を提供することができる。

 中関村大成智慧連盟(銭学森学派研究センター)の白雲帆理事長は、「低空AI技術は、中国の低空経済が飛躍的発展を実現するための中核エンジンで、これまでにない深度で低空産業の論理を再構築している。その価値は技術のブレイクスルー自体だけでなく、従来型産業のパラダイムシフトをもたらす体系的なイノベーションにもある」と強調した。

既存技術のブレイクスルーが必要

 低空AIは、低空経済の発展に新たな成長源を提供しているものの、その発展は、簡単に成し遂げられるものではない。香山科学会議第784回学術討論会に参加した専門家は、低空AIは3つの主要な課題に直面していると指摘する。

 まず、キーテクノロジーのブレイクスルーが必要だ。現在、低空AIは多くの分野で応用されているとはいえ、低空スマートデバイスの不安定性やシステム情報融合のさらなる向上が必要といった課題にも直面している。

 白氏の分析によると、無人システムなどの低空スマートデバイスは、都市の高層ビルや送電網点検、炭鉱・化学工業などで応用されているケースが多い。都市の高層ビルが立ち並んでいる場所は、GNSS(衛星測位システム)の電波が遮断される可能性があるだけでなく、反射によるマルチパス効果が発生し、測位システムの精度に影響を及ぼす可能性もある。また送電網点検の過程では、高圧線路から発生する電磁干渉が低空スマートデバイスに影響を与え、飛行制御システムのセンサーデータ異常を引き起こす可能性がある。炭鉱・化学工業などの過酷な環境では、空気力学的構造や動力駆動、熱管理などのシステムを革新し、極端な環境に対応する必要がある。さらに、都市部の内水氾濫監視といった特定の分野において、低空システムは、視覚とレーダーの融合情報を同時に処理しなければならず、この面の構築を加速させる必要がある。

 白氏は、「複雑な環境下における感知-意思決定-制御からなるトータルチェーンのスマート化をいかに実現するかというのが、これら課題の本質だ。ここ100年間の航空交通管制システムのルール体系は、大型飛行機、有人航空、航空輸送を中心に構築されてきた。低空産業を発展させるには、既存の技術パラダイムのブレイクスルーが必要だ。低空の安全生産に向けた次世代のスマート技術体系を構築する必要がある」と分析する。

 次に、人材育成の強化が必要だ。白氏は、「低空AIは学際的学科で、この分野の専門型・複合型の人材不足を早急に補う必要がある」と訴えた。

 最後に、産業エコシステムの整備が求められる。香山科学会議第784回学術討論会に参加した多くの専門家は、「低空AIの発展は、体系的なプロジェクトだ。しかし、現在、一部の地域では、重複建設や低水準の建設という現象が依然として存在し、低空AI技術レベルのさらなる向上を阻害している」との見解で一致した。

その2 へつづく)


※本稿は、科技日報「人工智能托举低空经济腾飞」(2025年6月9日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

 

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