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【25-065】「低空経済」の離陸を支えるAI(その2)

裴宸緯(科技日報記者) 2025年07月23日

ここ100年間の航空交通管制システムのルール体系は、大型飛行機、有人航空、航空輸送を中心に構築されてきた。低空産業を発展させるには、既存の技術パラダイムのブレイクスルーが必要で、低空の安全生産に向けた次世代のスマート技術体系を構築すべきである。

その1 よりつづき)

管理可能で開放的な安全管理へと転換

 低空経済を発展させるためには、低空資源の安全な開発・利用を推進することが重要になる。

 中国工程院院士(アカデミー会員)で、清華大学公共安全研究院の范維澄院長は、「低空の安全は、国家の全体的な安全観を確立するための重要な新興分野で、社会の安定、経済発展、国防建設などと関係している。低空の安全に関する科学的課題は多次元かつ学際的な特性を持ち、複数の分野にまたがる技術の統合が必要だ」と述べ、「低空安全ガバナンスをめぐる共通の科学的課題の研究を強化し、低空安全防護システムのキーテクノロジーの研究開発に取り組み、低空安全ガバナンスが『地上で制御して離陸しない』という警備・安全保障モデルから、『管理可能で開放的』という低空経済発展の大局に寄与するモデルへの転換を推進する」と提案した。

 中国国家減災委員会の史培軍元主任は、「低空資源と地表資源の統合的な開発・利用を推進し、国家利益の最大化を実現しなければならない。また、低空経済の発展における災害リスクと輸送機の安全対策問題に大きく注目しなければならない」と述べた。

 中関村大成智慧連盟(銭学森学派研究センター)の白雲帆理事長は、「システム思考を徹底し、システム工学の手法を用いて、技術的ブレイクスルーと産業連携の問題を統合的に解決し、生産安全、防災・減災、災害救助、緊急救援、戦略的輸送といった重要ニーズに対応し、低空AIにおけるコアキーテクノロジーを優先して発展させなければならない」と語った。

システム的展開の実現を加速

 低空AIの発展を推進するために、中国では関連措置が講じられている。

 中国教育部(省)は、低空経済分野を切り口として、先手を打って戦略的な学科整備を進めている。北京航空航天大学、北京理工大学、北京郵電大学、南京航空航天大学、華南理工大学、西北工業大学の6大学は、「低空技術と工学」という新たな専攻の設置を申請した。この学部専攻はその後、「一般大学学部専攻目録(2025年)」に登録され、関連大学で新しい専攻の学生募集が開始される。

 白氏は、「低空AI技術のさらなる発展を推進するためには、科学技術政策と支援メカニズムのシステム設計とイノベーションが必要だ。国家低空システム工学院を設置し、『工学院-分院-低空国家(開放)実験室』の3段階研究開発体制を構築することで、中国全土のイノベーション資源を統合し、分野横断的な連携とチーム協力により、低空産業発展におけるシステム的な難題を解決すべきだ。また、低空スマートシステムの技術標準と安全規範の策定、国家レベルの産業インフラ整備、低空デジタルインフラの構築模索を加速させるべきだ」と提案した。

 中国国務院の緊急時管理専門家グループの元グループ長で、国家減災委員会専門家委員会元副主任の閃淳昌氏は、「低空経済管理体制・メカニズムを構築・健全化し、空域管理改革を強化し、柔軟で効率的な空域使用メカニズムを模索し、より合理的な監督・管理システムを構築すべきだ」との見方を示した。

 中国工程院院士の劉大響氏は、「低空交通の遅れが、中国の低空経済発展におけるウィークポイントだ。国民皆保険型の緊急医療航空保険メカニズムを構築し、緊急医療航空基金を設立し、低空産業の発展を牽引すべきだ」と訴えた。

 清華大学人工知能研究院の孫茂松常務副院長は、「AIコンテンツ生成技術の急速な発展は、低空AI技術の進歩に大きく寄与しており、スマート生成、デジタルツイン、エッジコンピューティング、マルチエージェント強化学習といった技術の低空経済分野への応用を推進すべきだ」と分析した。

 白氏は、「低空AI技術のブレイクスルーは、これまでの"大型航空機の縮小モデル"あるいは"ラジコン模型的発想"という固定観念を打ち破り、消費者向け電子機器から本格的な"スマート工業装備"への本質的転換をもたらす」とした上で、「トップレベルによる設計と政策の連携を強化し、部門横断・地域横断の協調によって発展の力を結集すべきだ」と呼びかけた。


※本稿は、科技日報「人工智能托举低空经济腾飞」(2025年6月9日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

 

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