【25-069】中国などの研究者、メンデルの三大形質変異の鍵となる遺伝子を解明(その1)
馬愛平(科技日報記者) 2025年08月01日
実をつけているエンドウ。(視覚中国)
中国農業科学院深圳農業ゲノム研究所(嶺南現代農業科学・技術広東省実験室深圳分室)の程時鋒研究員のチームが、英国ジョン・イネス・センターのチームなどと協力し、集団ゲノミクスや数量遺伝学、分子生物学などの技術手段を組み合わせて、高解像度のエンドウ単相型(ハプロタイプ)変異マップおよび形質変異マップを構築し、初めて分子レベルでメンデルのエンドウにおける七大形質変異の遺伝的基盤を解明した。
研究成果は、技術面でメンデルとの世紀を超えた科学的対話を実現したものであり、関連論文はこのほど『ネイチャー』誌に発表された。
現代版「メンデルのエンドウ園」を再現
1865年、メンデルはエンドウの七対の対立形質、すなわち種子の形(丸/しわ)、子葉の色、花の色、花の位置、さやの形、さやの色、草丈の交配実験を通じて、形質は遺伝因子によって制御されるとする理論を初めて提唱し、遺伝変異が世代間で独立分離し、自由に組み合わさる法則を導き出した。しかし、当時の時代背景や技術的条件により、メンデルはこれらの遺伝因子の分子的本質を明らかにすることができなかった。
その後の研究で、種子の形、子葉の色、花の色、草丈を制御する遺伝子は順次特定されたが、さやの色、さやの形、花の位置を制御する鍵となる遺伝子は依然として遺伝学における未解明の謎だった。
2019年、程氏はマメ科植物における根粒共生窒素固定の遺伝メカニズムを研究するため、理想的なマメ科モデル系を探していた。英国ジョン・イネス・センターの遺伝資源庫を訪れた際、歴史的背景と豊かな生物多様性を有する古い作物であるエンドウに強く惹かれた。
「当時メンデルが研究したエンドウは、主にヨーロッパ大陸で収集されたものだった。100年以上経った今でも、エンドウ七大形質のうち半数近くの謎が未解決のままだった」と程氏は語る。
程氏は、世界中からエンドウの遺伝資源を導入し、深圳に現代版「メンデルのエンドウ園」を再現する決意を固めた。現代科学技術を用いて、エンドウの七大形質に関する百年の謎の解明と、マメ科の根粒共生窒素固定研究を同時に進めることにした。
1年後、世界41カ国から集められた約700点のエンドウのコア遺伝資源が、長い旅を経て中国に到着。研究者たちはそれらを深圳、ハルビンなど複数の実験拠点で栽培し、並行して表現型データを記録した。
5年の歳月をかけて、研究チームは80種以上のエンドウ遺伝資源の農業形質を調査し、開花期、草型、器官の大きさ、さやの数などに関係する多くの重要な遺伝子変異を発掘した。
程氏は、「紫色の花、丸い種子、矮性の茎、しわのあるさやなどのエンドウが静かに園内で成長するのを見ていると、まるでメンデルの交配実験に登場したエンドウたちが時空を超えて目の前に蘇ったかのようだった。もしメンデルが1865年に発表した論文が未来への手紙であり、当時は一度忘れられ、誤解されていたとすれば、今、私たちは21世紀の科学技術を用いてメンデルに返信し、発見の喜びを共有していることになる」と語った。
エンドウ三大形質の遺伝暗号を解明
程氏のチームは長年にわたり、メンデルのエンドウの七大形質のうち未解明だった三大形質の謎に焦点を当ててきた。
程氏は、「100年以上の間、学界ではさまざまな候補遺伝子や仮説が提案されたが、いずれも確固たる分子的証拠がないため、次々と否定されてきた。これらの形質を司る遺伝子は、まるでゲノムの『幽霊』のようにその姿を隠しており、捉えがたいものだった」と語る。
程氏率いる研究チームは今年、複数の先端技術を統合し、ついに三大形質の遺伝的基盤を解明し、いくつかの歴史的な誤判断を修正した。
チームはさやの色について、緑色さやと黄色さやの違いを制御する要因は、従来のような単純な遺伝子変異ではなく、約100kbにも及ぶ大規模なゲノム領域の欠失であることを発見した。
論文の筆頭著者の一人で、中国農業科学院深圳農業ゲノム研究所(嶺南現代農業科学・技術広東省実験室深圳分センター)の博士課程生である奉聡氏は、「この欠失によって、葉緑素合成酵素遺伝子と、その上流にある病害抵抗性関連遺伝子の距離が縮まり、その結果、この領域の転写過程に異常な延長と融合が生じ、異常な転写産物が形成され、さやにおける葉緑素合成酵素遺伝子の正常な発現が妨げられる。注目すべき点は、黄色さやと緑色さやの間で葉緑素合成酵素遺伝子のコーディング配列自体に違いがないことだ。つまり形質の変化は、上流のゲノム構造の再編による転写調節の深層的な干渉に由来する。これは形質の背後にある遺伝メカニズムに対し、より深い洞察を提供するものだ」と語った。
(その2 へつづく)
※本稿は、科技日報「打开遗传"黑箱" 解开百年谜题」(2025年6月18日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。