【25-070】中国などの研究者、メンデルの三大形質変異の鍵となる遺伝子を解明(その2)
馬愛平(科技日報記者) 2025年08月04日
花が咲いているエンドウ。(視覚中国)
中国農業科学院深圳農業ゲノム研究所の程時鋒氏のチームは長年にわたり、メンデルのエンドウの七大形質のうち未解明だった三大形質の謎に焦点を当ててきた。チームは、緑色さやと黄色さやの違いを制御する要因について、従来のような単純な遺伝子変異ではなく、約100kbにも及ぶ大規模なゲノム領域の欠失であることを発見した。
(その1 よりつづき)
チームは、エンドウのさやがふくらむかしぼむかを制御するのは、互いに独立しているが機能的に関連する2つの果皮発育調節遺伝子であることを発見した。中国農業科学院深圳農業ゲノム研究所(嶺南現代農業科学・技術広東省実験室深圳分センター)の博士課程生である奉聡氏は、「これら2つの遺伝子はそれぞれ、植物で高度に保存された発育調節ネットワークであるCLEペプチドシグナル経路とMYB-NAC転写調節経路を代表しており、それぞれが単独でしわさやを引き起こす場合もあれば、共同で作用することもある」と説明した。
チームは花の位置について、メンデルの七大形質の中でも最も複雑で神秘的な形質であり、茎の帯化、花序の乱れ、花の塊状配列により、頂生花に似た構造が形成されることを突き止めた。エンドウにおけるこの形質の違いはFa遺伝子によって制御されている。
さやの色、さやの形、花の位置という三大形質の「世紀の謎」が次々と解明されたことで、研究チームは分子レベルでメンデルが160年前に研究したエンドウの七大形質すべての遺伝的基盤を体系的に解析した。
予想外の遺伝現象の発見
七大形質の謎を解析する過程で、研究チームは一連の驚くべき発見も得た。
程氏は、「まず、植物の色の美しさについて、より深く理解することができた。植物の色の裏には精巧な遺伝的代謝の暗号が存在する」と語る。
たとえば、エンドウ種子の黄色(優性)と緑色(劣性)の違いは、葉緑素分解経路の第一段階における機能変異による。一方、さやの黄色(劣性)と緑色(優性)の違いは、葉緑素合成経路の最終段階が制御干渉を受けたために生じたものだ。
花の色における紫(優性)と白(劣性)の差を研究する中で、bHLH転写因子の早期終止変異によって白い花を咲かせる「運命にあった」エンドウが、なんとイントロン内で「運命を逆転させる」新たな変異が起こった。
程氏は、「この新たな変異は元の早期終止を阻止し、祖先型タンパク質の機能を回復させ、再び紫の花を咲かせた例が確認された。同じ遺伝子内で、新しい変異が古い変異を抑制するという『変異による変異の抑制』『自己修復』の奇跡という大自然の神秘に驚嘆させられる」と述べた。
最も魅力的だったのは、花の位置に関する研究の中で、Mfaという新たな遺伝子改変部位が偶然発見されたことだ。
この部位は、静かに弦を弾く調律師やブレーキを踏む副操縦士のような存在であり、たとえ植物が二重劣性変異fa/faを持っていても、Mfa/Mfaのホモ接合型を同時に持っていることで、通常ならば帯状の頂生花型となる表現型が完全または部分的に抑えられ、野生型の側生花の外観を回復させる。
これによって、花の位置において表現型と遺伝型が一致しない現象の説明がついた。このような現象は、遺伝学において「不完全浸透率」と「可変表現性」と呼ばれている。
程氏は、「Mfaは主効果遺伝子Faのコード機能を変えるのではなく、その変異効果を遅らせたり、弱めたり、あるいは覆い隠したりすることで、最終的な表現型を変える。『必然』の表現が『偶然』の選択へと変わる」と解説した。
このような遺伝的背景が主効果変異を修飾するメカニズムは、複雑形質の背後にある表現型の可塑性と遺伝調節の階層性を理解するための生きた事例を提供している。
程氏は、「今の私たちは、メンデルが肉眼では見えない秘密を見抜いたということに驚嘆せざるを得ない。彼が慎重に選んだ七つの理想的な形質は、単なる好みでも偶然でもなく、厳密な実験設計と深い洞察力、卓越した科学的先見性に基づいていた」と語った。
研究チームは中国の南北で700近くの主要なエンドウ品種を栽培し、メンデルの七大形質の分子的本質を解明した。これにより、160年前に閉ざされた遺伝因子の「ブラックボックス」を開き、明確な分子的証拠と因果メカニズムによって、メンデルが残した百年の謎に答えを出したのだった。
※本稿は、科技日報「打开遗传"黑箱" 解开百年谜题」(2025年6月18日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。