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【25-071】ROBOMASTERのエコシステム 卒業生がスタートアップを立ち上げ、現役生が製品を活用

2025年08月15日

高須 正和

高須 正和: 株式会社スイッチサイエンス Global Business Development/ニコ技深圳コミュニティ発起人

略歴

略歴:コミュニティ運営、事業開発、リサーチャーの3分野で活動している。中国最大のオープンソースアライアンス「開源社」唯一の国際メンバー。『ニコ技深センコミュニティ』『分解のススメ』などの発起人。MakerFaire 深セン(中国)、MakerFaire シンガポールなどの運営に携わる。現在、Maker向けツールの開発/販売をしている株式会社スイッチサイエンスや、深圳市大公坊创客基地iMakerbase,MakerNet深圳等で事業開発を行っている。著書に『プロトタイプシティ』(角川書店)『メイカーズのエコシステム』(インプレスR&D)、訳書に『ハードウェアハッカー』(技術評論社)など
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 2015年にドローン大手の大疆創新科技(DJI)が始めたロボットコンテストROBOMASTERが、今年で10周年を迎えた。中国政府公式のロボットコンテストとして拡大を続け、今年は中国全土から700を超える大学が参加。複数の地区予選を突破したチームが7月25日〜8月3日に深圳で決勝大会を行った。筆者も日本で エンジニア選手権 The Championship of Robotics Engineers(CoRE)というロボット競技を主催する 一般社団法人・次世代ロボットエンジニア支援機構Scramble のメンバーとして大会を観戦し、いくつかのチームや運営メンバーと交流した。過去の大会に比べ、中国社会がよりROBOMASTERのようなロボット競技を必要としている様子が見られたので、レポートする。

DJIの始めた試みが、中国政府もサポートする公式のコンテストに

 中国政府が教育と科学技術開発の両面からロボットコンテストを強くサポートし、ロボットコンテストを統括する研究者がロボットコンテストから生まれたスタートアップについて誇らしく語り、ROBOMASTERも3大ロボット競技の一つとして中国のイノベーションエコシステムに組み込まれていることについては、以前にもレポートした。

中国のロボットコンテストから200以上のスタートアップが誕生

 このレポートでは、別のロボットコンテストを運営している教授がフェアに3つのロボット競技を評価し、オープンソース度でROBOMASTERに高い点数を与えていた。

 ROBOMASTERとして10周年の今年はイノベーションエコシステムとの連携がさらに緊密になり、研究開発や社会課題の解決とROBOMASTERが深く向き合っている。

中国のインターネット放送で中継されるROBOMASTERのゲーム(外部リンク)

 決勝大会では6種類7台のロボットをそれぞれ開発する必要があり、中には全自動のものも含まれる。全国大会に出場するようなチームはどこもカーボンフレームのボディ、AIによる自動照準、姿勢を保つためのジンバルやダンパーの技術、さらに残り弾丸数などの状況に配慮しての自動攻撃と手動の使い分け、アイテムをロボットアームで掴むためのコントローラの自作など、極めて広い範囲のソフトウェア・ハードウェア開発が求められた。

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左上の画面が操縦者からの視点。(筆者撮影)

 ロボットの操作は目視でなく、ロボットに取り付けられたカメラからの視点でリモートFPV(一人称視点)操作をしなければならない。映像伝送については、DJIが開発したシステムが各チームに供給されているが、画面内にどういう情報を盛り込むかは各チームが工夫を凝らしてインターフェースを開発している。そうしたソフトウェア部分やインターフェース、AIまで及ぶ広範囲の技術開発が、他のロボット競技と異なるROBOMASTERの特殊性と言える。

入学したばかりの学生が熟練エンジニアに

 チームごと、ロボットごとに、操縦者のほかに技術開発担当を紹介することが行われている。多くのチームでロボット開発は大学2年生が中心になっている。全自動ロボットを含む複雑なシステムを、普通科から進学した学生が2年間で行われるようになるのは驚くべきスピードだ。

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強豪校の一つ、華南理工大学のチーム紹介。(筆者撮影)

 かつて、例年ベスト4クラスの強豪、華南理工大学のチームを見学した時、新入生が各方面の技術に熟達するためのオンボーディングの仕組みが部員たちの手で完備され、かつ毎年修正が行われているのに舌を巻いた。同大学にも指導教官はいるが、部室管理など、学校に対するマネジメントが中心で、チームは学生が中心になって運営していると聞いた。

オープンソースの技術共有がチームの評価指標に

 技術は公開するだけでなく、その技術を使うように働きかけることが必要だ。オープンソースソフトウェアではCommunity Over Code(プログラムよりも、それを生み出し使うコミュニティが大事)と言われる。ROBOMASTERでも固有の技術情報共有プラットフォームを持ち、決勝戦の翌日に開かれる技術共有会でシェアすることが定例化している。

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決勝戦の翌日に開かれる技術交流会。ここで注目されることもROBOMASTER参加の大きな目的だ。(大会映像からのスクリーンショット)

 今年からはその技術シェアがさらに注目されるようになった。ROBOMASTERでは会場内の巨大ディスプレイに戦況がリアルタイムに、残りヒットポイントやチームへの強化アイテムなどのゲーム情報を含めて表示されるが、巨大ディスプレイでのチーム紹介に、オープンソースの技術開発と、他のチームからの引用数について表示されるようになった。

 Research & Developmentというように、先行事例をきっちりResearchしてReferし、新しいものを開発して公開するのは研究活動そのものである。ROBOMASTERのロボット開発に特化したプラットフォームに情報を集約するほうが探しやすくなるし、多くは大学2~3年生で構成されるROBOMASTERチームの学生たちが研究者としての基本であるリサーチと開発を、ロボットコンテストを通じて行えるのは、将来ロボット研究者を増やす上で大きな意味がある。

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華南理工大学の2025年シーズン技術引用データ。(筆者撮影)

 上の写真は、前述の華南理工大学の紹介から、技術引用の部分を拡大したものだ。2025年大会オープンソース引用についてのデータとして、以下のように紹介されている。

  - 技術が引用されたレポート数 11(1レポートで複数引用していることもある)
- 技術が引用された総数25

その中の核心技術として、

  - エンジニアロボットのメカ機構部分 9
- エンジニアロボットのビジョン部分 5
- 歩兵ロボットメカ機構部分 5

と紹介されている。

 もちろん技術開発だけでロボット競技は成り立たず、チームの中には技術開発は目覚ましいが試合になるとうまく戦えないチームや、論文引用数は少ないが見事な戦いぶりを見せるチームもあった。

 とはいえ、強豪校になるとどこも、多く引用される技術開発をしている。強豪校の技術がうまく伝播している形が見られ、この試みはうまくいっているといえよう。

ROBOMASTERロボットの教科書も出版される。内容は自動制御が中心

 同じく強豪の東北大学(中国)は、指導教官がROBOMASTERロボットを開発するための専門書を精華大学出版局から出版した。主著者の陸志国教授は日本の名古屋大学に留学して福田敏男先生に学び、博士号を取得したロボットの専門家だ。

 内容は機械・制御・システム構成だけでなく、ビジョンAIに多くのページが割かれている。自動運転車やサービスロボット開発につながる、近代的なロボット教科書と言える。

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ROBOMASTER競技ロボット開発の教科書。(筆者撮影)

 ROBOMASTERは毎年細かいルール変更があり、書籍としての寿命は短くならざるを得ない中、出版が成立したのは興味深いが、これも近年の規模拡大によると筆者は考える。

 ROBOMASTER参加チームのうち、トップ100のチームは大会公式アカウントから部員数を見ることができる。20名程度のチームも散見されるが、上位校は100名を超える部員を抱えているところも多い。筆者は2023年に華南理工大学を訪問したが、当時のチームは40~50名と聞いた。それが2025年のデータでは108名となっている。

 ROBOMASTERへの注目がここ数年でさらに高まり、書籍が成立するボリュームになっているのではなかろうか。

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大会公式wechatアカウントに掲載されている参加大学ランキング。(スクリーンショット)

卒業生がスタートアップを立ち上げ、製品が現役のチームに使われる

 今回、主催者のご好意で、前述した東北大学のチームを見学することができた。使っている部品や「なぜそういう構造になっているのか」などの質問には全て快く答えてくれた。

 東北大学のロボットでアーム部分に使っているモーターは深圳のDAMIAO(達妙科技)製で、他のチームでも多く使われているという。DAMIAOは2019年創業のスタートアップで、ROBOMASTER参加者が起業した会社である。同社の主力製品は柔軟な制御により新しいことを行うのに特徴的なモーターで、工業用品としての耐久性とは別の視点に特徴がある、まさにロボット競技、新しいロボットの開発に最適なものだ。

 DAMIAOはROBOMASTER大会のスポンサーでもある。卒業生がスタートアップを立ち上げ、その製品が現役のチームによって過酷な状況でテストされるエコシステムができている。

ロボットコンテストは起業と研究開発のエコシステムの中心になりえる

 今年のROBOMASTERでは、研究引用により強豪校の開発した仕組みが全チームに敷衍していく仕組みや、卒業生がスタートアップ企業を起こし、その部品が現役チームに使われる様子は、ロボットコンテストが学会やインキュベーション施設同様、研究開発や起業のエコシステムにおいて中心となっている様子が窺えた。

 参加者間で技術を共有することは大前提となっており、試合では激しく闘うチーム同士が、ロボット開発という大きなテーマに取り組むコミュニティの一員同士であるというコミュニティとしての文化も見られた。複数年にわたって日本からROBOMASTER大会に参加している新潟Phoenix Roboticsのメンバーも同じ感想を伝えてくれた。彼らはさらに、ロボット加工に向いた業者なども他のチームから教えてもらうなど、チーム間の情報共有が文化になっているようだ。ここでもCommunity Over Codeが見られる。

 ロボット開発者、ロボット競技者の視点で、技術開発と共有を中心に置きながら制度全体を設計し、パブリックなものとしたことに、ROBOMASTERの大きな価値がある。日本でも近年、さまざまな新しいロボット競技が計画されている。競技者・開発者を重視する姿勢は大いに参考にすべきだ。


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