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【25-089】「水素陰イオン電池」の試作に成功 中国科学院のチーム

陸成寛(科技日報記者) 2025年10月14日

 国際学術誌「ネイチャー」は9月17日、中国科学院大連化学物理研究所の研究チームによる最新研究成果をオンラインで発表した。チームは、新しいタイプの水素陰イオン電解質を開発し、それをベースに、世界初となる水素陰イオン電池のプロトタイプの試作に成功した。これにより、水素陰イオン電池は、概念段階から実験・検証段階へと大きく前進した。

 水素は将来のクリーンエネルギー体系を構成する重要な要素であり、通常は、水素陽イオン、水素原子、水素陰イオンの三つの形態で存在する。うち、水素陰イオンは反応性が高く、電子密度も高いため、極めて有望なエネルギーキャリアとされている。現在広く使われているリチウムイオン電池と同様に、水素陰イオン電池も正極と負極の間をイオンが移動することで充放電を行うが、その「運搬役」がリチウムイオンではなく水素陰イオンである点が異なる。

 論文の責任著者である中国科学院大連化学物理研究所の研究員である陳萍氏は、「高いイオン伝導性と高い熱的および電気化学的安定性を兼ね備え、電極との適合性が高い電解質材料がずっと見つかっていなかったため、水素陰イオン電池は長年、『概念』の段階でとどまっていた」と説明した。

 今回の研究において、研究チームは「コアシェル構造」という革新的なアプローチを採用し、水素化バリウムで三水素化セリウムを包み込むことで、水素陰イオンの電気伝導率が高く、電子伝導度が低く、安定性の高い水素陰イオン電解質を開発した。それを用いて、チームは、水素陰イオン電池のプロトタイプの組み立てに成功した。

 実験データによると、この電池の正極の初回放電容量は984mAh/gに達し、20回の充放電後でも402mAh/gの容量を維持した。さらに、積層型セルを作成して出力電圧を1.9Vに高め、LEDライトの点灯にも成功。このことで、水素陰イオン電池が電子デバイスに電力を供給することが可能であると証明された。

 陳氏は、「水素陰イオン電池は、全く新しい蓄電技術のロードマップであり、大規模蓄電、水素貯蔵、モバイル電源などの分野で重要な役割を果たすことが期待されている。チームは今後、水素陰イオン電池のコア材料の開発と性能の最適化に注力し、応用シーンを積極的に開拓することで、中国のグリーンエネルギー発展を力強く支えていきたい」と述べた。


※本稿は、科技日報「首块氢负离子原型电池研制成功」(2025年9月19日付)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

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大連化学物理研究所(中国科学院傘下の研究所)

 

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