【25-094】「患者のリスクを見守る」AI診療、病院内外で変革を起こす(その1)
陳 曦(科技日報記者) 2025年10月22日
AIネイティブ型病院システムの画面。(画像は取材先提供)
天津市海河医院の案内カウンターに設置されたスマート端末に、高齢の患者が「最近、胸が苦しくて夜も眠れないし、よく咳が出るんです」と話しかけた。すると画面に、「推奨診療科:循環器内科」「推奨検査:心電図、胸部CT」と即座に表示された。
一見すると、シンプルなやり取りのようだが、その背後には、AIネイティブ型病院システム「天河ソリューション」が稼働している。これは、従来の「患者が医療サービスを探す」形から「医療サービスが患者を見つける」形へ――つまり「受け身の対応」から「能動的な協調」へと転換させる仕組みである。
この「天河ソリューション」は、国家スーパーコンピューティング天津センターと智臨天河科技有限公司が共同で開発したもので、8月初めに天津市で開かれた「天河-天開スマート医療イノベーション発展大会」で発表された。現在は天津海河医院の一部で導入が始まっている。関連機関は北京市、天津市、河北省などの複数の病院と連携し、このソリューションの体系的な導入と多分野への応用を進めており、医療モデルのスマート化転換を促している。
診察室の「見えないアシスタント」
同医院の呼吸器内科では、副主任医師の王合栄氏が2週間続く咳に悩む患者を診察していた。王氏がパソコンに「咳、発熱」と入力すると、画面右側のスマート分析パネルに3か月前のCTレポートが呼び出され、右肺下葉に軽度の肺線維化病変があることが示されていた。さらに、最近の血液検査の結果から、C反応性タンパクの上昇や白血球数の異常といった指標がハイライト表示されていた。構造化された診療カルテの下書きには、「市中肺炎」「慢性閉塞性肺疾患(COPD)の急性増悪」などの鑑別診断が優先度順に並び、検査や投薬の参考情報も添えられていた。
王氏は、「これまでは画像を確認するためにPACSシステムの3階層の操作を覚え、病歴を調べるにはEMRシステムで手動検索し、処方前にはLISシステムに切り替えて薬剤感受性の情報を確認しなければならなかった。今はAIが診療シーンに基づき必要な情報を自動で提示してくれるので、少なくとも5分は短縮できる」と話した。
この「5分の短縮」には、「天河ソリューション」の高度な技術が生かされている。
ソリューションの開発責任者である、天津智臨天河科技有限公司の康波総経理は、「医師が『咳』や『発熱』などのキーワードを入力すると、AIネイティブ型病院システムの自然言語処理エンジンが、その背後にある臨床的意図を解析し、医師が言葉にしないニーズを『読み取る』ように動作する。さらに、マルチモーダルデータ融合技術によって、画像、検査、電子カルテなどの分散したデータをリアルタイムで連携し、患者に関する情報を一元化することで、医師が個別データを探す必要がなくなった」と説明した。
従来の医療現場では、データは手動で検索する「静的な記録」にすぎなかったが、AIが「頭脳」として機能することで、診療の流れに応じてデータが動的に連携するようになった。康氏は、「AIネイティブ型病院システムを活用した診療支援の場面では、医師が抗生物質の変更を検討すると、システムが自動的に3つの情報を関連付ける。それは、今回の喀痰培養の薬剤感受性結果、過去の薬剤アレルギー歴、病院の抗菌薬管理ガイドラインだ。これらを照合した上で、適切な投薬提案を生成し、医療現場におけるAI活用の断片化や連携不足といった課題を根本から解消する」と例を挙げて語った。
このほか、エッジコンピューティングがキーワード入力後のミリ秒単位の応答を担い、スマート分析パネルを即座に表示できるようにしている。また、ローカル計算処理がマルチモーダルデータの高度な統合と推論を支え、診断提案の精度を確保している。
同医院によると、AIを活用した診療支援システムの導入から3カ月後には、外来医師の1日あたりの診察件数が顕著に増加し、カルテの記録内容の完全性も大幅に向上したという。
同医院の楊万傑院長は、「特に医師が疲れやすい昼の時間帯には、AIによるリアルタイムの注意喚起によって、重要な病歴の記載漏れが大幅に減り、見落とし診断のリスクも明らかに低下した」と述べた。
(その2 へつづく)
※本稿は、科技日報「读懂"医生需求、监测病人风险......AI诊疗掀起医院内外变革」(2025年8月27日付)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。