【25-095】「患者のリスクを見守る」AI診療、病院内外で変革を起こす(その2)
陳 曦(科技日報記者) 2025年10月23日
患者にAIネイティブ型病院システムを説明する看護師。(画像は取材先提供)
「天河ソリューション」は、国家スーパーコンピューティング天津センターと智臨天河科技有限公司が共同で開発したもので、8月初めに公開され、現在は天津海河医院の一部で導入が始まっている。関連機関は北京市、天津市、河北省などの複数の病院と連携し、このソリューションの体系的な導入と多分野への応用を進めており、医療モデルのスマート化転換を促している。
(その1 よりつづき)
病棟の「リスク監視員」
午前3時、天津市海河医院の内科病棟ナースステーションのモニターに、「3番ベッドの患者、Dダイマーが2時間前より30%上昇。呼吸数の変動が基準値を15%超過」という警告が表示された。当直の主任医師である白墨青氏が警告ウィンドウをクリックすると、システムが20項目のリスク評価指標を時系列グラフで呼び出した。術後1日目から8時間ごとのモニタリングデータが連続的に表示され、現在、患者の深部静脈血栓(DVT)リスクスコアが「低リスク」から「中リスク」に上昇していることが示された。白氏が画面をスワイプすると、システムが自動生成した「抗凝固薬の投与量を調整」「下肢への間欠的圧迫治療の頻度を増加」との介入提案が表示された。さらに、システムはベッドサイドモニターのデータとも連携し、「心拍数が1分間に100回を超えた場合、自動的に再評価を実施」というルールを設定し、リスク管理の閉ループ体制を構築していた。
白氏がシステム上で介入内容を確認すると、3番ベッドのスマート輸液ポンプが新しい投与量に基づいて自動的に注入速度を調整し、ナースステーションのタスク欄には「2時間後に凝固機能を再検査」というリマインダーが自動で生成された。白氏は、「まるで各ベッドに、眠らずに働く『リスク監視員』がいるようだ」と語った。AIネイティブ型病院システムを活用したこのスマートモニタリングの導入により、医師は「合併症に受動的に対応する立場」から「リスクを先回りして防ぐ立場」へと変わりつつある。
ソリューションの開発責任者である、天津智臨天河科技有限公司の康波総経理は、「AI病状モニタリングは、従来の医療におけるデータ管理や演算処理能力の制約という課題を克服し、病棟に『インテリジェント防御ライン』を構築した」と説明した。この仕組みの中核には、損失を伴わないデータ融合技術があるという。
病院が従来から運用しているHIS(病院情報システム)やLIS(検査情報システム)などの構造を変更することなく、共通のインターフェースを介してベッドサイドモニターやスマート輸液ポンプなどの機器からリアルタイムデータを横断的に連携させることで、1000床分の20項目以上の指標を一括で収集・分析できるようにした。これにより、「データサイロ(データの孤立)」状態を解消したという。
また、「三層連携型(エッジ・ローカル・クラウド)」による演算処理体制が、高頻度の評価を可能にしている。エッジ側の演算処理は、リアルタイムデータの収集を担当し、心拍数の異常などがあった場合には即座に再評価を実行する。ローカル側は1日3回、全病床のリスクモデルを総合的に推論して評価効率を確保する。クラウド側ではモデルのパラメータを継続的に最適化し、リスク検知の精度を高めている。
さらに、AIネイティブ型病院システムの自律的な意思決定機能により、システム自体がリスクレベルを自動判定し、警告や介入提案を発動できるようになった。これにより、医療現場は「異常を待って対応する」段階から「リスクを先回りして防ぐ」段階へと質的に進化している。
同医院の楊万傑院長は、「リスク評価の例を挙げると、AIネイティブ型病院システムは1000床を対象に、1日3回、各回20項目以上の指標についてリアルタイムで精密なリスク評価を行うことができる。これは従来ではほとんど不可能だった」と述べた。
病院外にも広がる「健康監視員」
AIネイティブ型病院システムによる変革は、院内の医療現場だけにとどまらず、物理的な壁を越えて地域や家庭へと広がっている。
夕方6時、退院した患者のスマートフォンに「血糖変動のデータに基づき、今夜のインスリン投与量は8単位を推奨します。あわせて食事内容の提案もご確認ください」との通知が届いた。
このメッセージはAIネイティブ型病院システムから送信されたもので、患者が自宅で使用している血糖測定器のデータがシステムの継続的モニタリング対象に組み込まれている。
楊氏はこう説明する。「従来のAI医療システムでは、患者が退院するとデータ監視の範囲外になり、症状の変化を早期に把握することが難しかった。しかし現在は、『AI+』ウェアラブル端末や家庭用モニタリング機器を通じて、病院の医療サービスが地域や家庭まで拡張できるようになった」
同院では現在、約1万人のハイリスク慢性疾患患者をこの"境界のない"管理モデルに組み込み、再入院率は前年より約20%低下したという。
楊氏は、「AIネイティブ型病院システムは、『退院』という概念そのものを再定義しつつある」と語った。この仕組みにより、患者が退院した後も、診療データや地域でのフォローアップ記録、家庭用機器からのデータが「人」を中心に自由に連携し、これまでのように診療科や場所ごとに分断されることがなくなったという。
AIネイティブ型病院システムに組み込まれたインタラクティブなAIエージェントは、スマートフォンや地域端末を「健康アシスタント」として機能させ、医師と患者の間でシームレスな連携を実現し、日常生活の中で健康を見守る役割を果たしている。
康氏は、「AIネイティブ型病院ソリューションの最終目標は、インテリジェンスを医療の全過程に融合させ、質の高いサービスを誰もが手にできるようにし、すべての人の健康に貢献することだ」と語った。
※本稿は、科技日報「读懂"医生需求、监测病人风险......AI诊疗掀起医院内外变革」(2025年8月27日付)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。