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【25-101】「スマートキー」が切り開く宇宙探査の新たな空間(その1)

「AI+科学研究」を読み解くシリーズ

華 凌(科技日報記者) 2025年11月06日

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人とAIが協力して天文研究を行う様子を描いたコンセプトアート。(AIによるイラスト)

 AI(人工知能)は今や、人類が宇宙の謎を解き明かすための「知恵のパートナー」となりつつある。スイス・ジュネーブでこのほど開催された「2025AIフォー・グッド世界サミット」において、之江実験室と中国科学院国家天文台が共同開発した天文分野の大規模言語モデル「OneAstronomy」が、「AIフォー・グッド・イノベーション実践事例集」に選出された。

「AI+天文学」の探究において、中国は成果を挙げつつも、発展の壁にも直面しており、データ・アルゴリズム・実験の協働による将来の道筋を模索している。中国科学院国家天文台の羅阿理研究員は、「AIによる天文研究を深化させるには、国際協力を一層強化し、天文に特化した大規模言語モデルのコミュニティや世界各地に分散する観測施設を共同構築し、天文データや基盤インフラを共有し、AIを活用した天文教育と市民天文学を共同で発展させる必要がある」と述べた。

天文研究にパラダイム革命が到来

 現代の天文観測はすでに「ビッグデータ時代」に突入しており、従来の研究モデルは大きな課題に直面している。大型サーベイ望遠鏡が毎年生成するデータ量はペタバイト(PB)級に達し、人が分析すると数年かかっても処理しきれない。AIの登場は、天文学にも「スマート革命」をもたらし、「スマートキー」が宇宙探査の新たな空間を開こうとしている。

 羅氏は、「AIによる天文研究の支援は、まず膨大なデータを効率的に処理できる点にある。複雑な宇宙データに対し、AIアルゴリズムは疲れを知らぬ『選別者』のように、高速で探索・分類・異常検出などの基礎作業をこなす。膨大なデータの中からブラックホールや中性子星などの特定天体を正確に識別したり、パルサーや高速電波バーストなどの稀少な宇宙信号を捉えたり、あるいは大量の観測データから物理パラメータを抽出したりする際にも、AIの処理速度は人間をはるかに上回り、科学者の作業時間を大幅に短縮できる。観測効率の向上という面でもAIの優位性は際立っており、まるで『スマートな調整係』のように、気象状況や科学目標の優先度など多次元情報を統合して望遠鏡の観測計画を動的に調整し、高価な観測装置を常に最も価値の高い研究対象に集中させ、科学的成果の最大化を実現する」と語った。

 さらに、「法則の発見や理論分析の分野でも、AIは大きな力を発揮できる。例えば、教師なし学習アルゴリズムは人間が気づきにくいデータの相関を掘り起こし、恒星の光度変化曲線と多波長データを統合的に分析することで、超新星爆発などの突発現象を高精度で予測できる。宇宙論シミュレーションでは、AIが複雑なモデル計算を大幅に高速化し、計算コストを削減しながら、シミュレーションデータから深層的な情報を抽出することで、宇宙の起源や銀河進化といった理論モデルの検証に強力な支援を提供する」と続けた。

 現在、中国の「AI+天文」分野での成果は多面的に広がっている。羅氏によると、OneAstronomyの大規模言語モデルは、複雑な天文問題の推論能力において汎用大規模言語モデルを上回っている。中国科学院国家天文台とアリババクラウド(阿里雲)が共同開発した世界初の太陽モデル「金烏」は、太陽活動の予報に特化している。また、中国科学院自動化研究所と国家天文台が共同開発したFLAREモデルは、恒星の物理特性や過去のフレア記録を統合することで、光度変化曲線からの特徴抽出能力を高め、予測精度は70%を超え、従来モデルを大きく上回っている。

発展と応用には多くの課題

 AIは天文研究に革命的な進展をもたらしているが、その道のりは平坦ではない。羅氏は、「データ処理から人材育成、アルゴリズム最適化から資源配分まで、複数の課題が絡み合い、天文AI技術のさらなる発展と応用を制約している」と指摘している。

その2 へつづく)


※本稿は、科技日報「"智能钥匙"开启宇宙探秘新空间」(2025年10月20日付)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

 

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