【25-103】「スマートキー」が切り開く宇宙探査の新たな空間(その2)
「AI+科学研究」を読み解くシリーズ
華 凌(科技日報記者) 2025年11月10日
AIは天文研究に革命的な進展をもたらしているが、その道のりは平坦ではない。「データ処理から人材育成、アルゴリズム最適化から資源配分まで、複数の課題が絡み合い、天文AI技術のさらなる発展と応用を制約している」との指摘もある。
(その1 よりつづき)
AIの発展と応用にはデータ面での課題が顕著だ。次世代大型観測装置であるSKA(平方キロメートルアレイ電波望遠鏡)やLSST(大口径パノラマサーベイ望遠鏡)が稼働すれば、宇宙データはペタバイト(PB)級からエクサバイト(EB)級時代に突入する。これにより、データの保存・伝送・処理・融合能力に、これまでにない要求が突きつけられる。さらに深刻なのは、AIモデル自体の学習と更新に膨大な計算資源を必要とすることであり、データ量の爆発的増加と計算需要の拡大が二重の圧力となって、研究機関に重い負担をもたらしている。
また、アルゴリズムとモデルの説明可能性の困難さは、AIの深層応用を阻む中核的な障害となっている。中国科学院国家天文台の羅阿理研究員は、「天文学は物理法則の発見を目的とする基礎科学であり、『何か』を知るだけでなく、『なぜそうなるのか』を明らかにすることが求められる。しかし、現在主流となっているエンド・ツー・エンド型深層学習モデルはしばしば『ブラックボックス』とみなされ、AIが奇妙な天体や異常現象を発見しても、その判断の根拠を科学者が追跡することは難しい。さらに、モデルの出力がエネルギー保存則などの基本的物理法則に反する可能性もあり、物理的な事前知識をモデルに効果的に組み込めなければ、結果の科学性と信頼性が大きく損なわれ、科学理論としての一般的な認知を得るのが難しくなる」と説明した。
インフラと資源の不均衡は発展の格差をさらに拡大させている。最先端の天文AI大規模言語モデルを訓練するには、大規模なGPU(グラフィックス処理ユニット)クラスターのサポートが必要で、その初期投資と維持費は数億元(1元=約21円)にも上る。多くの中小研究機関にとっては到底負担できない額だ。さらに、一部の天文モデルが非オープンソースであるため、技術共有や協調的なイノベーションが制限され、限られた資源では研究の協力体制が形成されにくく、業界全体の発展が阻害されている。
羅氏は、「人的資源の不足と研究パラダイムの衝突がより深層的な課題になっている」と指摘する。天文学とAIの両方に精通した複合型人材は極めて希少であり、天文学者はプログラミングや機械学習の知識に乏しく、AI専門家は天体物理の理解が不足しているため、学際的な協力は「話がかみ合わない」窮地に陥ることが多いという。また、従来の天文学が「仮説-観測-モデル化-検証」というパラダイムに基づいているのに対し、AIは「データ駆動型」の探索モデルを採用している。このパラダイムの違いが一部の学者にAIの結果に対する懐疑的態度をもたらしており、分野全体の共通認識が形成されにくい。さらに、現行の学術評価システムは天文AI基礎研究の価値を十分に評価しておらず、関連する研究成果の学術的な重みが従来の論文と同等と見なされにくいことが多く、研究者がこの分野の基礎的作業に取り組む意欲を削ぐ一因にもなっている。
スマートな科学研究エコシステムの構築へ
羅氏は、「AIによる天文研究の多重課題を解決するには、データ・アルゴリズム・モデル・観測の深い連携を推進し、動的な閉ループ、自己最適型のスマートな科学研究エコシステムを構築することが重要だ」と述べた。
さらに、「協調的なエコシステムを構築するには、まず世界的に統合された観測・データシステムを構築する必要がある。観測施設の建設面では、国際協力のもとで地上観測所と宇宙探査機を連携させた『宇宙・地上一体型』のエンボディドAI望遠鏡ネットワークの共同構築を推進し、宇宙を全方位・全天候で観測できる体制を整えるべきだ。大規模AIモデルと観測エージェントを活用し、世界の観測施設を統一的にスケジューリングし、研究ニーズに応じて観測資源を動的に配分する。また、オープンで共有可能なデータプラットフォームを構築し、国や機関のデータの壁を打ち破り、多波長・多次元の天文データの相互接続を推進し、AIモデルに高品質かつ包括的な学習素材を提供するべきだ」と強調した。
中国科学院国家天文台の李楠研究員は、「科学研究の主要なプロセスにおいては、AI駆動型の閉ループイノベーションシステムを構築し、大規模AIモデルを研究の『頭脳』として、データ分析から実験観測検証まで全過程に深く関与させる必要がある。膨大なデータのインテリジェントな解釈を通じて科学的仮説を生成し、過去のデータと照らし合わせて高価値な観測対象を予測し、観測施設をスケジューリングしてスマートな観測を行い、その結果を再びモデルにフィードバックして最適化を続ける。こうした『仮説生成-観測処理-推論検証』の自動循環を実現させるべきだ。この閉ループモデルにより、科学者は煩雑なデータ処理から完全に解放され、理論構築などの高度な科学的思考に集中でき、研究効率が大幅に向上する」と提案した。
資源と人材の制約を突破するには、分野と国境を越えた協力と共有の強化も不可欠だ。羅氏は、「資源配分の面では、専門的な天文機関がトップレベルのテック企業や多分野の研究機関と利益共有メカニズムを構築し、共同研究や資源共用などによって演算能力の課題を解決すべきだ。同時に、天文AIモデルのオープンソース化を加速させ、世界的に共有できるモデルコミュニティを構築して、中小機関の参入ハードルを下げる必要がある。人材育成の面では、学際的な教育システムを構築し、大学で天文学とAIの融合専攻を設置し、専門知識と技術能力を兼ね備えた複合型人材を育成する。また、国際的な学術交流や共同研究などを通じて、世界的な人材資源の流動と協力を促進すべきだ」との見解を述べた。
※本稿は、科技日報「"智能钥匙"开启宇宙探秘新空间」(2025年10月20日付)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。