【25-116】AIフォー・グッド:アルゴリズムで人々の暮らしを守る(その2)
張蓋倫(科技日報記者) 2025年12月22日
AIフォー・グッドは技術が成熟へ向かうための「試練の場」であり、企業が持続可能な発展を実現するための内生的原動力であると同時に、社会的信頼を築く上で重要な役割も担う。
(その1 よりつづき)
社会的課題の解決を通じて発展する
障害者・弱者支援、医療の普及、教育の公平性向上、気象予測......こうした複雑な社会的課題こそが、AI技術にとって理想的な「試練の場」となり、AIのさらなる進化を推進する。
アリババ(阿里巴巴)グループ公益総裁で、アリババ公益基金会理事長の孫利軍氏は、「AIの発展は究極的には人に奉仕するためだ。医療・教育・緊急対応といった分野において、現実的で難易度の高い課題をどれほど効果的に解決できるかが、AIがフォー・グッドであるかどうかを測る価値の試金石になる」と語った。
アリババ達摩院が開発した膵がんAI検出モデルにより、患者は最もシンプルな単純CT検査だけで、膵がんを含む複数のがんのスクリーニングを受けられるようになった。検出率を高めつつ、患者に余分な健康的・経済的負担を与えないことが特徴だ。浙江省嘉興市第二医院では、前向き研究の試行事業として9万例以上のCT画像スクリーニングを実施。膵がん27例、他の膵病変109例を発見し、これまでに16人の患者が手術を受けている。これはAIが医療にもたらした現実的な変化の一例だ。
教育分野では、アリババが提供する検索・学習支援系アプリ/サービス「夸克(Quark)」が大学入試出願用の大規模言語モデルを開発し、「志望出願レポート」機能を提供した。前年比100倍に当たる計算能力を投入したことにより、学生の志望出願の手続きや判断に伴う負担を軽減し、農村部の受験生にも新たな視野を与え、進学先を選ぶ際の自信を高めたという。開発チームは「出願で悩む人をなくしたい」としている。
よりマクロな視点では、AIは気候変動対応やカーボンニュートラル推進における重要なイネーブリング技術となっている。膨大なデータ分析により再生可能エネルギーの発電量を予測し、電力網の安定性と効率を高め、農業生産を向上させ、交通・産業過程での排出を追跡・削減することが可能になるという。AIはまた早期警戒システムを構築し、自然災害を予測し、救援活動に最新情報を提供することもできる。
未尽研究の創業者で、第一財経前CEOの周健工氏は、「AIは誕生当初から社会問題を解決することを使命としており、公益はこのAI発展サイクルの本質的要求だ。国内の主要テクノロジー企業は公益分野でAIの革新的な実践を進めており、重要なイノベーションを牽引する『リーダー』になりつつある」と述べた。
多元的な主体による協調的なガバナンスが必要
南方週末研究院副秘書長で中国企業社会責任研究センター主任の孫孝文氏によると、今年調査した60社のインターネットテクノロジー企業のうち、半数近くが「テクノロジーフォー・グッド」や「テクノロジー倫理」に注目していた。グループレベルでテクノロジー倫理委員会を設置した企業もあれば、「AIフォー・グッド」の理念を商品開発に取り入れた企業もあるが、大半の取り組みはまだ散発的で体系化されていない。
国務院が今年8月に通達した「『AI+』行動の実施深化に関する意見」は、AIフォー・グッドの理論体系の構築を模索すると提起した。孫氏は、「これを実現するには、理念のコンセンサスだけでなく、実践面での模索と行動が必要であり、特に企業の主体的な模索と取り組みが必要だ」と述べた。
中国情報通信研究院人工知能研究所の宋平上級エンジニアは、「AIの大規模応用がAIフォー・グッドを議論するための前提となる。まずAIをより大規模な応用へと推進することが第一歩だ。広く応用されてはじめて、フォー・グッドの議論がより深まる。また、スマート化による改造や高度化で一定の雇用代替が生じる可能性がある場合、事前に十分な注意喚起と誘導を行い、代替による影響を受け得る人々については、雇用面での移行を支える取り組みが求められる。これもまた企業が担うべき社会的責任だ」と語った。
清華大学公共管理学院の陳玲教授はアルゴリズム差別の研究に取り組んでいる。陳氏のチームは、アルゴリズム差別はデータ収集の偏り、アルゴリズムに内在する認知の偏り、人間社会自体の認知の偏りという3つの面から生じることを発見した。前者の二つの差別は比較的解決しやすいが、人間社会由来の偏りはAIによって増幅される可能性が高い。では、どうすべきなのか。陳氏は、「人間社会の組織のあり方、教育のあり方、研究のあり方自体が変わらねばならない。創造力があり、人間中心で、豊かな感情認識能力を持つ人材を育てる必要がある。研究と教育の観点から言えば大きな課題だ」との見方を示した。
阿里研究院の袁媛院長は、最近、中国国内のAI企業や大学の研究者が、学術誌「Science」にAIガバナンスについて共同で論文を発表したことに触れ、「多元的な主体による協調的なガバナンスという理念の重要性が示された。産学官の協調的なガバナンスによってこそ、全体の福祉を最大化できる」と指摘。さらに、「AIフォー・グッドは書き終えることのない書物であり、同時に開放的でオープンソースな書物でもある。私たち全員でこの物語を書き続けていきたい」と語った。
※本稿は、科技日報「AI向善:让算法守护人间烟火」(2025年12月1日付)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。