【26-006】宇宙X線を捉えるために-衛星「天関」の広視野集光イメージング開発記録(その2)
陸成寛(科技日報記者) 2026年01月16日
広大な宇宙空間において、遠く、暗く、しかも瞬時に消え去る宇宙X線は、人類が宇宙の謎を探るための重要な手掛かりとされる。これらを捉えるには、広く、遠く、しかも鮮明に観測できる「目」が必要であり、衛星「天関」はまさにその役割を担うのが特徴だ。
(その1 よりつづき)
「網膜」を特注
ロブスターアイ望遠鏡を人の目に例えるなら、前部レンズは水晶体のように焦点を結ぶ役割を担い、後部の検出器は網膜のように像を結成する。両者が連携して初めて、宇宙X線の鮮明な像が得られる。
集光レンズが完成した後の課題は、どの検出器を使うかだった。
中国科学院国家天文台研究員の凌志興氏は、「当初はガス検出器を選び、2年かけて技術を成熟させたが、致命的な問題が解決できなかった。衝撃を受けるとガス漏れで容易に故障してしまうのだ。これは絶対に許されない事態で、この案は断念せざるを得なかった」と述べた。
議論を重ねた結果、チームは背面照射型CMOS(相補型金属酸化膜半導体)検出器に目を向けた。CMOSは光信号を高効率で電気信号に変換でき、スマートフォンやカメラで広く使われているが、天文観測への本格応用には前例がなかった。
2017年、チームは天文グレードのCMOS検出器をゼロから開発した。凌氏は、「設計から試作まで、パラメータ調整とイテレーションを繰り返し、4年を要した。当時、代替案はなく、失敗すれば計画全体が停滞しかねない状況だった。その重圧と責任を背負い、2021年に初の試作品が完成した」と明かす。
集光レンズ同様、CMOSの天文応用も国内外で軌道上の実績がなかった。信頼性を確保するため、チームは2022年、ロブスターアイX線天文イメージャーの実験機を宇宙に打ち上げ、軌道上での試験を行った。
ところが半年後、2基のCMOS検出器に故障が発生した。中国科学院上海技術物理研究所副研究員の孫小進氏は、「その瞬間は皆が緊張し、衛星『天関』が予定通り打ち上げられるのかと不安が広がった」と振り返る。
チームは直ちに専門家を集め、徹底的な検討と大量の実験で原因究明に当たった。孫氏は、「解決できなければ、打ち上げはいつになるか全くわからなかった」と語った。
幸いなことに、綿密な解析の結果、故障は地球極域軌道に関連する特殊事象と部品の偶発的欠陥によるもので、CMOS検出器自体の信頼性には問題がないと結論づけられた。これにより、チームは胸をなで下ろし、「天関」は打ち上げへとまた一歩近づいた。
「台座」を築く
ロブスターアイの開発がほぼ完了し、最後の関門は、それを「天関」に搭載してその性能を最大限に引き出すことだった。実際には、望遠鏡開発と並行して、搭載用の衛星プラットフォーム設計も進められていた。
中国科学院微小衛星革新研究院研究員の蔡志鳴氏は、「衛星プラットフォームの開発で、まず克服すべき課題は高速通信だ。『天関』が捉えるX線信号は一瞬で消えるもので、他の観測機器による追観測を導くためには、即座に地上へ送信しなければならない。しかし従来の通信方式は地上局に依存し、その位置に制約されるため、分単位での情報伝送は難しかった」と話す。
膨大な検証を経て、チームは北斗のショートメッセージ通信システムを基盤とする、全球対応の低軌道科学衛星リアルタイム通信網を構想した。この構想はシンプルに見えるが、実現には多くの困難が伴った。
チームはまず、姿勢や速度が急激に変化する状況下で衛星がいかに信号を安定させるかという課題を解決しなければならなかった。さらに、姿勢変更後に瞬時に北斗信号へ再接続する賢い「反射神経」を衛星に持たせる必要があった。蔡氏は、「古い問題を解決したと思ったら、また新たな問題が現れた」と苦労を語る。
2年に及ぶ研究開発の末、衛星プラットフォームと地上間の高速通信の課題は克服された。しかし休む間もなく、新たな難題がチームの前に立ちはだかった。ロブスターアイ望遠鏡12基と追尾型のX線望遠鏡2基を限られた空間でどのように最適な配置すれば、最大の観測効率を得られるのか。
プロジェクト開始当初から、視野、力学、放熱などの重要課題について検討が重ねられ、構成設計だけでも10回以上の反復改良を行った。蔡氏は、「ホワイトボードのスケッチを何度消して描き直したか分からない」と振り返った。
試行錯誤の末、チームは三次元トラスと支持構造を組み合わせたまったく新しい構造を採用することを決定した。これは強靱で柔軟な骨格を衛星に与え、14基の望遠鏡配置と視野の接続という難題を一挙に解決した。全体構成では、ロブスターアイ望遠鏡12基が12弁の蓮の花のように並び、追尾型の望遠鏡2基は蓮の雄しべのように配置され、宇宙空間で優雅に開花している。
運用開始から1年以上が経過し、「天関」は複数の重要成果を挙げてきた。これまでに160例以上の新天体を検出し、世界中の主要な宇宙・地上望遠鏡による追観測を導いている。中国科学院国家天文台研究員で、衛星「天関」の首席科学者を務める袁為民氏は、「『天関』は、新たな天体や現象を発見する卓越した能力をすでに示している。今後も動的宇宙に関する新発見をもたらし、人類の動的宇宙に対する認識を刷新し続けるだろう」と語った。
※本稿は、科技日報「为了捕捉宇宙X射线----"天关"卫星大视场聚焦成像技术攻坚纪实」(2025年12月17日付)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。