【26-009】世界最大の家電見本市から見る現在の中国企業の方針と背景
2026年01月30日

山谷 剛史(やまや たけし):ライター
略歴
1976年生まれ。東京都出身。東京電機大学卒業後、SEとなるも、2002年より2020年まで中国雲南省昆明市を拠点とし、中国のIT事情(製品・WEBサービス・海賊版問題・独自技術・ネット検閲・コンテンツなど)をテーマに執筆する。日本のIT系メディア、経済系メディア、トレンド系メディアなどで連載記事や単発記事を執筆。著書に「中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか?中国式災害対策技術読本」「中国のインターネット史:ワールドワイドウェブからの独立」(いずれも星海社新書)など。
最新の世界中のハイテク機器が一同に展示される世界最大級の家電見本市CES(Consumer Electronics Show)が年始に米国ラスベガスで開催された。その全出展社数はおよそ4000社で、うち約1000社が中国本土の企業で、さらにいえば、その652社が深圳の企業だった。深圳を含めた華南地域の中小規模のハードウェアメーカーや部品サプライヤー、OEM/ODMメーカーが多く出展した。
今年の展示会前には、CESの主催者が「長年CESでは、AIやその搭載製品が紹介されてきたが、今年はAIが無視できない絶対的な焦点となる」とのメッセージを発し、AIイヤーになると予告。実際、情報機器や家電、ロボットなどAI搭載製品が多く展示され、中国企業からも多数関連製品が登場して存在感を出した。
出展した中国企業は、パソコンやスマートフォン、テレビ、白物家電だけでなく、ヒューマノイド(人型ロボット)や掃除ロボット、さらには自動車まで、各社が磨き上げたAIを強みに展示を行った。またメガネ型の製品では、AIを活用して会話したり、目の前にあるものを分析できるスマートグラスも中国各社から発表された。例えば、ヒューマノイドの出展社数は中国企業が20社で、米国の5社を大きく上回った。スマートグラスも、アリババやシャオミをはじめ、多数の中国企業が展示を行った。
10年前、つまり2016年のCESでの中国メーカーの出展報道を振り返ると、その印象は大きく違っていた。当時は一部の中国の出展社が、サムスンやLGをはじめとした先行する企業の製品にそっくりな製品を展示し、低価格でアピールするのが目立っていた。また、大企業こそ会場内で展示したが、中小企業は会場ではなく、周辺の展示ホールやホテルに出展し、OEM/ODM企業として海外パートナーを見つけることに躍起になっていた。多くの中国企業が同じような戦略だったので、均質化した競争となっており、しかも出展目的も在庫処分的な側面があり、売れたらそれで終わりという感覚も珍しくなかった。シャオミやDJIがそうであるように、今は軌道に乗ったブランドが長期的なブランドマネジメントを行っているが、昔はブランドすらも使い捨て感覚で次のブランドを立ち上げる起業家が実に多かった。10年前と比較すれば、ODM/OEMの受注を狙う中国企業もあるものの、一方で海外向けに製品を開発し、自社ブランドとして展示する中国企業が増えた。しかも以前のような横並びの製品ばかりではなく、技術による差別化が進み、模倣ではない製品を出す企業が目立つようになった。
この10年で変わったのは何かと言われれば、技術的には、AIが進歩したので魅力的なAI搭載製品が出てきたというのはもちろんあるが、中国のモノづくりが大きく進歩し、長い期間をかけて海外向けブランドとしてやっていくための出展が当たり前になった。これこそが最も大きな変化といえる。そこで、CESで垣間見られる中国のモノづくり企業の国際化は何がトリガーだったのか、という疑問が思い浮かぶ。これについて解説していきたい。
まず売れるルートが広く知られるようになり、海外に売る手段ができた、ということが挙げられる。この期間に海外のクラウドファンディングサービスでの成功した事例が多く登場し、それ以上にAliExpressやTemu、Shein、TikTok Shopといった越境ECサービスが力をつけた。加えて世界のAmazonや東南アジアのLazadaやShopeeに展開するブランドが増え、日本の楽天にも中国のブランドがショップを構えるようになった。越境ECサービスの人気に乗るように、決済や倉庫などの越境ECサポートビジネスを行う業者が増え、中国からの海外展開が大幅に楽になった。TikTokは世界各地でインフルエンサーを作り、インフルエンサーを活用した動画で商品の紹介や販売ができるようになり、新ブランドの商品を若者に伝えやすくなった。中国企業にとっては慣れた手段だ。
ドローン分野でのリーダー的企業の成功体験を受けて、新しい製品ジャンルで唯一無二の企業を目指す企業が増えた。CESに出店した企業が多くある深圳では、DJIの深圳本社で働いていた社員が会社を辞めて創業し、ニッチな製品ジャンルで世界的トップを目指そうとする動きも増えている。またEVやロボットなどが各社で開発され、量産されるにつれ、品質が高く、海外製より安い部品が流通されるようになってきた。そうした部品を採用することにより、今までは部品がなくて開発できなかった製品を、低価格でリリースすることができるようになった。これらの点については、「テック系ベンチャーにおける北京・上海・深圳・杭州の違いとは?」という記事に詳しく書いたので、興味がある方は読んで欲しい。