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【08-004】医学にも応用できるナノマテリアルの最新情報―第7回CRCC研究会基調講演

顧 忠沢(東南大学生物科学・医学工程学院教授、 生物電子学国家重点実験室主任)  2008年4月20日

藤嶋昭:

 JST 中国総合研究センターは去る2月26日(火)第7回研究会を開催し、3人の中国の先生方に講演していただきました。その3人とも私の東大の時の留学生で す。3人全員が日本政府の国費留学生で来てくれて、素晴らしい研究成果をあげて、国に帰り今中国で大活躍しています。

 先月号では中国科学院理化技術研究所の只金芳教授の講演録「光触媒の中国での現状とダイヤモンド電極の新しい応用」をご紹介しましたが、今月号は東南大学の顧忠沢教授の講演録「医学にも応用できるナノマテリアルの最新情報」をお届けします。

 顧さんは5年前35歳の時に日本から帰って、南京にある一流大学・東南大学の教授、しかも全国で年間100人10万元の特別ボーナスがつく長江教授に就任 し、東南大学の特に医学部と薬学の先生と協力しながらいろんな新しいことを研究しているということです。国家重点実験室の主任教授ということです。東大で ドクターを取って、今も私がおります神奈川科学技術アカデミーで研究員をやっております。それでは、顧君、よろしくお願いします。

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顧忠沢:

 ただいま藤嶋先生よりご紹介いただきました中国東南大学の顧です。本題に入る前にまず現在私がおります東南大学と研究所について少し御紹介させていただきたいと思います。

 東南大学の名前をご存知でない方も多いと思いますが、実は中国では非常に有名な大学です。南京市の中心部に位置するこの大学は、60年前は中国で一番大き い大学で、中央大学という名前でした。その後中央大学は2つに分かれて、1つは理系と文系を受け継いだ南京大学になり、1つは工学部を受け継いだ東南大学になりました。中央大学当時の本部や学長執務室は東南大学に残っています。これは70年前につくられた建物ですが、現在も使われています。1400人も収 容できるホールとしては、当時中国で一番大きいホールではないかと思います。東南大学の近くに南京市政府庁舎があります。以前の中華民国の総統府は歩いて 10分程のところにあります。現在東南大学の校舎は国の重要文化財になり、増改築はできません。発展するスペースがないため、大学院、研究所以外の学部は 全て郊外に移ることを余儀なくされました。

 私が現在おります生物電子学国家重点実験室(State Key Laboratory of Bioelectronics)は、東南大学生物医学部(Biomedical engineering)に所属しています。中国では各分野において国家重点研究室が設置されており、共同利用施設としての役割を果たしています。その分 野の研究者はその分野の実験室に実験しに来ることができます。国から補助金をもらって、来る人の旅費、あるいは研究費の一部を賄っています。

 では、実験室はどうやって選ぶかと言いますと、たくさんの研究グループの中から、一番優れた実績を上げて、あるいは実力があると認められたところが国の重点研究室に選ばれています。そこをオープンにして皆が実験できるようにしています。

 うちの研究所が立ち上がったのは23年前の1985年でして、ちょうど私がこの大学に入った年でした。私はその年に設立された生物医学部の第1期卒業生です。

 私たちの研究室は92年から中国教育部(日本の文部省に相当)の管轄下に入り、教育部から補助金をもらいました。そして、2005年から国の研究所に変 わり、補助金も国からもらうことに変りました。所属している生物医学部は中国では非常に有名な学部です。中国では2年に1回、教育部が学部のランク付けを しています。うちの学部は毎回1位か2位に入っていますが、つい最近の06年では第1位にランクしています。

 現在研究所に助教授以上の研究者は38人います。皆が生物をやっている訳ではなく、メインは、電子工学、情報工学で18人、次いで化学が2番目で8人、 残りは生物、機械工学、物理となっています。いろんな背景を持つ先生がいて、協力しながら共同研究を行っているのが、うちの研究所の特徴の1つと言えま す。これがうちの研究員の集合写真です。

 うちの研究所は現在5つの研究テーマに取組んでおります。1つ目は先ほど江雷先生の話にもあったバイオミメティックス材料とデバイスです。バイオミメ ティックスにはいろいろな機能がありますが、人体にとって非常に重要だと言えます。バイオセンサーや移植用機材などは常にバイオミメティックスの観点から 設計しないといけません。バイオセンサー、免疫センサーというのは、人体の免疫システムをまねして作られたものです。抗原抗体反応は、まさに人間がそうい う機能を利用して外部のものに抵抗するようにできたものです。

 逆に生体移植、臓器移植の場合は体の免疫反応を抑えなければなりません。その設計もバイオミメティックスの観点からしなければいけないということです。応用例は沢山ありますが、2つだけご紹介します。

 1つはバイオセンサーの例です。空中に浮遊する菌などを検出するには、ろ過方法を使えば簡単にできます。菌のサイズは大よそミクロオーダーなので、プラス電荷のマテリアルを以てろ過すると大体吸着します。

 しかし、ウイルスの場合は難しい。何故ならば、ウイルスのサイズは数ナノから十数ナノオーダーであり、ろ過方法ではウイルスを捕らえることができません。

 ちょうど私が留学から帰国した2003年頃に中国でSARSが流行し、ウイルスについての関心が非常に高かったです。当時、うちの研究所の陸先生のグループがウイルスの研究を一所懸命にして、成果を上げました。

 人間の鼻が非常によくできていて、この問題を既に解決していることを、後の研究で解明しました。人間の鼻に細い毛があり、毛の上に粘膜があります。呼吸 するとき、菌やウイルスが粘膜の上に吸着されます。吸着された菌やウイルスは鼻水と一緒に流されます。つまり、人間は要らないものを外に排出するという単 純な仕組みで自分の体を守っているわけです。

 陸先生のグループは、この鼻の仕組みをまねしてウイルス吸着用のチャンネルを作りまして、ウイルスを捕らえることに成功しました。このシステムは非常に 有効であり、特にデパートとかホテルなど多数の人が集まるような公共の場所での空気中のウイルスの検出に役立っています。

 もう1つは再生医学に使うチップの例です。体の不自由な方、たとえば歩けない方の場合、病気の原因は主に脳神経の一部が壊れて、信号が伝達できなくなるこ とにあります。それを回復させるには神経の移植や再生などいろんな方法がありますが、うちの研究所の先生たちはどうしているかといいますと、神経伝達用バ イオチップを開発して、脳からの信号を電気信号に変えて、神経に伝えます。そうしますと、脳からの信号が手足に伝達するようになります。

 2つ目の研究テーマは、ナノメディスンであります。もちろん世の中に沢山の研究が既になされています。たとえば水に溶けにくい薬や体に吸収されにくい薬 は、有機物で包むと溶けやすくなり、吸収されやすくなります。これらは世の中の主な研究テーマですが、当研究所はそれ以外に中国の漢方にも着目し、1つの 研究テーマとして取り上げています。1つの例として、火傷の場合は、ナノ漢方を使うと、回復が非常に早くなります。また、ナノパーティクルが治療薬に使わ れていますが、当研究室では最近ナノファイバーとナノ粒子を組み合わせて使用することによってより高い効果が得られることを究明しました。研究の初期段階 ではありますが、非常に有効であることが分かりました。

 3つ目の研究テーマは細胞および分子についての研究ですが、主にAFMを用いて1個の細胞または1個の分子を操作するテクニックについての研究を行ってい ます。私はAFMについて全然分かりませんが、知っているのがAFMを用いて細胞膜に刺激を与え、穴をあける操作くらいです。操作がうまく行けば細胞は穴 が開いたままで自動的に回復することができますが、一定の閾値を超えると細胞が壊れ、死んでしまいます。細胞や生体組織が非常に強い回復力を持っていると いうことが彼らの研究で分かりました。

 4つ目のテーマはバイオチップです。当研究所の半数以上の研究者がこのテーマに関わっています。バイオチップの研究は、日本を含め世界の多くの国で行われ ています。一つのチップで多種の分子を同時に検出する技術はそれなりに材料、装置、検出法およびソフトの開発も進めなければなりません。

 呼吸に関係するウイルスの検出実験は、サンプルを大気中に出すわけにはいきません。サンプルの容器を開けないままウイルスを検出するのが非常に重要で す。陸先生のグループはあるプラスチックチューブの蓋にチップをつけて、蓋をしたままで9種類のウイルスをチューブから検出することに成功しました。この 方法を使って、検出の確率を高めました。今企業と共同で製品化に向けた研究を進めています。

 最後の研究テーマは、バイオインフォマティックス研究です。情報分析手法を用いて、検出データを分析し、新薬や機能性DNAの研究開発に取組んでおりま す。現在当研究所のホームページはこの研究に関するソフトを無料で提供しています。興味のある方がご覧になってください。以上は当研究所の概略です。

 私が行っている研究は、先ほど藤嶋先生よりご紹介いただきましたフォトニック結晶です。すなわち、光応答性のある構造性発色材料の研究です。情報工学やデバイス、ディスプレイなどにも応用できますが、当研究所では、バイオの応用に着目しています。

 いくつかの研究が進んでいますが、今日はバイオチップの応用についてご紹介させていただきます。バイオチップは皆様ご存知でしょうが、1つは英語で Planar arrayと呼ばれるものです。ガラスの上に配列している数千、数万個のプローブにサンプルを垂らして反応させものです。もう1つはSuspended arrayと呼ばれるもので、基板の上に固定するのではなく、溶液に浮遊するビーズに固定するものです。それぞれにメリットとデメリットがあります。 Planar arrayは、今の半導体技術で簡単に作れることに大きなメリットがありますが、問題もあります。1つは反応速度が遅いことです。液体と固体との間で行わ れている反応の速度の問題を解決しなければなりません。もう1つは再現性の問題であります。英語ではUniformityといいます。バイオチップという ものは、ターゲットを捕らえるために、反応するポイントを作る必要があります。例えば1個のチップに100個のポイントを作るとしますと、100個のチッ プには1万個のポイントを作らなければなりません。1万個のポイントに大きなばらつきが生じます。どうやってこのばらつきを小さく抑えることがもう1つの 問題であります。

 また使い勝手の問題もあります。例えば100個のプローブを固定しているチップがありますが、実際の検査では5つのプローブしか必要としないケースがあ ります。そうなると95個のターゲットが無駄になってしまいます。逆のケースもあります。5つのプローブしか固定していないチップに対し、6つの検証項目 がある場合、2つ目のチップが必要になります。2つ目のチップは実際1個のターゲットしか使っていませんので、残った4つのターゲットが無駄になります。

 実は、上記問題が解決されつつあります。Suspended arrayというのはパイプであります。化学合成をやっておられる方はご存知かと思いますが、ビ−カーの中に数万個のプローブを同時に合成すれば、数万個 のもが同一なものになります。この方法で再現性の問題を簡単に解決しました。

 つぎに反応速度の問題です。ご存知のように、常に溶液をかき混ぜれば反応速度が速くなります。生活上でもよく利用する方法です。たとえば、塩を水の中に 入れた後、かき混ぜないと溶けにくい。かき混ぜれば溶けやすく、反応速度が速くなります。原理は同じです。

 また、使い勝手について、非常に簡単な方法を考えました。ビーズは別々に用意し必要な数だけを取り出して使えば節約になります。しかし「言うは易く行なうは難し」実現するのはなかなか難しいです。

 1つの難点は、基板自身のコード化です。基板の上に個々のプローブが決まった場所に配置されています。ターゲットはその位置関係で判別できます。しか し、ターゲット a、b、c、dを基板から切り出して混ぜると、肉眼ではターゲットを区別できなくなります。区別するために、基板の位置を個々にコード化しなければいけま せん。一番簡単な方法はバーコード方式、スーパーマーケットでもよく使われているバーコードです。基板の個々の箇所にバーコードを付ければいいわけです。 実際にこの方法を利用する人がいます。ビーズを作って、ビーズの上にバーコードを付けます。その後、目あるいは顕微鏡で個々のビーズを区別します。ただ し、パターンでビーズをコード化するので、コード化したバーコードをビーズに正しく置かないと、パターンが見えなくなります。従って、検出が非常に面倒で す。

 現在よく使用されているのは、スペクトルでコード化したものです。スペクトルは光の吸収によるものです。例えば赤い発光ビーズであればどちらから見ても 赤いです。検出するにはビーズに対する処理がいりません。この技術は世界中に幾つもの会社が応用しています。アメリカLuminexという会社が主に研究 しています。この会社はNECのアメリカの子会社です。xMAPという技術を持っています。この会社は2つの色素を使ってビーズをコード化しています。2 種類の色素を混ぜるとき、たとえば1:1、1:2、1:3、1:4のように一定の割合を決めます。そうして発光を検証すれば、1:1の割合の発光のピーク は同じですが、1:2の場合はこっちのピークが高くなります。現在この方法は既にNECによって特許出願され、全ての特許をNECが取得しています。

 そこで、我々はどうすればよいかを思案したところ、以前研究した蝶のことを思い出しました。その発色原理がここで使えないかと思いました。これは我々が 作ったサンプルです。青、緑、赤の色に見えますが、実はこの中に色素が入っておりません。ただのシリカガラスです。ガラスにある周期構造を持たせると、こ ういう色が発せられます。これが最初の発色です。

 実際自然界にこういう現象がたくさんあります。蝶や孔雀の羽は鮮やかな色が見えますが、調べてみると色素が含まれていません。簡単な実験を行いました。 蝶の羽にエタノールをたらすと、羽の色が変わりました。なぜなら、蝶の羽に、空気が入る孔が沢山あります。空気孔にエタノールを入れると屈折率が高くなり ます。回折ピークが長波長の方に移動したため、青が緑に変わりました。これが最初の発色実験です。自然界の生物の仕組みは簡単に見えます。できないとは言 い切れないが既存の技術で真似するのが非常に難しいことです。研究者は合成が得意なので、完全に同じ構造ができなくても、同じメカニズムで発色させること ができます。

 我々はこの発想に基づき、先ず同じビーズを作ることにしました。ビーズのサイズは大体可視光範囲の100〜300nmです。目で見える色は400〜 700nmです。このビーズを周期的に並べると色が現れます。ちょうどペンダントによく使われるオパールと同じ構造を有しています。

 このような周期構造を持つフォトニック結晶の中では、光の伝播が禁止されるフォトニックバンドギャップと呼ばれる領域が生じます。ほかのところに光を当 てると、光は透過しますが、このフォトニックバンドギャップというところに光を当てると、光が反射します。検出器を使えば、反射した光のピークの位置が分 かります。

 周期構造を変えれば、フォトニックバンドギャップの位置も簡単に上下にコントロールすることができます。我々は同じ構造のビーズを作れば、反射位置のピークでビーズを検出できるのではないかと思いました。これが初期の発想です。

 実際世の中にはこの方法を利用している人がたくさんいます。膜を作るのが主流です。小さいビーズを基板上にコーティングして膜を作ります。膜はこのダイ オードの検出に使われます。しかし問題があります。2つの膜を溶液に入れると、2つの膜がくっ付いてしまいます。くっ付いた部分はダイオード反応が起こり ません。つまり膜間の距離を保たないといけません。もし膜が丸い形にできれば、膜の接触部分は1点となります。そうなると、接触点以外の部分は全てダイ オード反応が起こります。

 我々はまずナノ粒子を水で分離することにしました。水が油の中に入れられると球状になります。これはだれでも知っている現象です。同様にナノ粒子が水中 に入れられるとナノ粒子を含む水滴が形成します。そこで、水滴が乾燥すれば、ナノ粒子が自然に集合することが実験で分かりました。我々はこの方法を用い て、水とナノ粒子の割合をコントロールすれば、色違いのビーズが作れるということを考えました。

 合成には装置が必要です。何種類かの装置を試しましたが、マイクロチャンネルという装置を使えば、非常に均一性が高く再現性のあるビーズを簡単に作れる ことが分かりました。装置はそれほど難しいものではありません。Tチャンネルがあれば簡単に作れます。われわれは最初別の装置を使いましたが、最近学生た ちは皆マイクロチャンネルを使っています。プラスチック製の使い捨てタイプです。実験道具を洗うのが嫌いな学生たちは好んでこの使い捨てタイプの装置を使 います。

 これは実験の結果ですが、油から分離したナノ粒子を含む水滴がここにぽつぽつ見えます。拡大して見れば、非常に均一性の高い粒子が見えます。これらの粒子が乾燥すれば色が出てきます。

 目で見ても均一性が分かりますが、サイズを測ると平均誤差は10%以下です。この誤差範囲なら医療用の条件を満たしています。

 色のコントロールもできます。例えばサイズ200nmのシリカを使うと反射ピークの波長は大体420〜430nmのところに現れ、色は青です。240nmになると赤になります。どのビーズを見ても色は均一で、サイズが非常に均一であることが分かります。

 さらにこのビーズをSEMで観測すれば、つまり1個のビーズを極端に拡大して見るとさらに小さい粒子が見えます。この粒子のサイズは大体200〜 300nmぐらいです。さっきのビーズは数百ミクロンですが、このビーズは500ミクロンぐらいです。この500ミクロンのビーズの中には数百ナノ粒子が 並んでいます。

 今研究室では10種類のものが合成できます。測定ピークはビーズの種類と非常に一致しています。つまりこのピークはこのビーズであることが簡単に分かり ます。反射のピークはこのdθ、つまりビーズの大きさに関係しています。dθが変わればλが変わります。これはなぜピークの位置が変わる理由であります。

 バイオに応用する場合、ビーズのサイズが非常に重要になってきます。何故重要かといいますと、ビーズが小さければ小さいほど反応速度が速くなります。逆 に大きければ大きいほど反応速度は落ちますが、反応の確率は高くなります。ビーズが小さいほどに固定するプローブの量が少なくなり、ターゲットが捕まえら れないリスクが高くなります。ビーズが大きいほどに固定するプローブの量が多くなり、ターゲットが捕まる確率も高くなります。従って、使用目的によってこ のビーズの大きさを調整する必要があります。

 現在我々は数ミクロンから数ミリミクロンまでのビーズを作ることができます。1つ、よく訊かれる質問があります。光を当てる場所によってスペクトルは変 わらないかと。実際我々の実験結果では、光を当てる場所を変えるとスペクトルは少しずれますが、範囲は大体5nm以下です。つまり2種類のビーズのスペク トルが10nm以上を離れれば、この違いは無視できることが分かりました。

 先ほど、数ミクロンから数ミリミクロンまでのビーズを作れると言いましたが、われわれはビーズのサイズが変わった場合、スペクトルが変わるかどうかを確 認したところ、少しばらつきがあることが分りました。それは大体5nm以下です。しかし、このばらつきは必ずしもビーズのサイズの変化のみによるものでは なく、測定装置にも関係あることが分っています。

 また、こういうものの使い道もよく訊かれますが、実際既に医療現場で応用に移されています。例えば医療現場で免疫グロブリンの検出に使われています。使 い方は、まずアンチIgGをビーズの表面に固定して、検証したい溶液に入れてかき回します。次に2次抗体と反応させます。2次抗体は蛍光材あるいは酵素を 付けてラベル化しています。その後、反応しないものを洗い流します。検出方法としても非常に簡単です。普通の顕微鏡を用いれば検出が可能です。

 先ほどご紹介したLuminexという会社はプローブを使ってビーズを検出していますが、使っている装置は非常に高価なものです。我々が普通の顕微鏡を使って簡単に検出できるのがもう1つの特徴ではないかと思います。

 これは3つのビーズを使った実験です。Human IgG(免疫グロブリン)、Rabbit IgGとMouse IgGをそれぞれ3つのビーズの表面にプローブで固定します。固定したhuman IgGとrabbit IgGにそれぞれgoat anti-human IgGとgoat anti-rabbit IgG溶液を混ぜます。そうするとそれぞれ反応を起こします。Mouse IgGにだけ溶液を混ぜないので、反応が起こりません。勿論蛍光色素がラベル化されているので、反応があったIgGから蛍光が出てきます。反応がない IgGからは蛍光が出ません。

 そうしますと、ビーズにどういうものを固定するかによって、反射ビームでビーズの違いを目で確認できるから、色で違いを区別できます。色でどういうものに反応するかを区別し、反応しているかどうかを発光で確認することができます。

 ただ、実際医療現場で使う場合には安定性が求められます。ビーズを反応させるにはまず溶液を混ぜて超音波にかけなければいけないのですが、その時ビーズ が壊れてしまうと困りますので、我々はビーズの合成方法に特に力を入れて開発した結果、非常に安定したビーズを合成できるようになりました。

 これは超音波にかける実験です。普通のビーズは超音波にかけると懸濁液になり、ビーズがなくなります。しかし、我々が処理したものを使うと、超音波にかけても非常に安定していることが実験で分りました。

 そして、皆が関心を持っているもう1つの問題は感度です。普通のバイオセンサーあるいはバイオチップに比べて、こちらの方の感度が非常に高いです。大体 普通のバイオチップ、ガラスに固定したものに比べて10倍以上の感度を持っています。病院の先生からも非常に高い評価を受けています。

 理由は幾つかありますが、その内の1つは我々が使っているビーズの材料は全部シリカ(Silica)ということです。シリカというのは低蛍光材で、それ 自身は発光しません。逆にイルミナンスとか色素をエンコードしたものを使うとバックグラウンドに蛍光が出てきます。この蛍光を実際の信号に掻き混ぜると信 号がなくなります。それがなぜ我々の検出法の感度が高い理由の1つです。

 もう1つの理由はビーズの表面にあります。このビーズの表面は何もないように見えますが、顕微鏡で見れば表面がでこぼこしていることが分ります。つま り、表面積が普通のビーズや普通のガラスより大きいということです。感度が非常に高くなるのはこの2つの理由によるものと思われます。

 今何種類かの製品化に向けた研究が進んでいます。現在中国で一番関心が高まっているのは血液の中にあるB型、C型肝炎ウイルス、HIVをどうやって検出するかということです。

 通常、サンプルは1つのエフンドフ管を使って3種類の抗体を検出できます。5つの抗体を検出するやり方もありますが、我々の実験では3つの抗体にしてい ます。メリットは必要なサンプルを3分の1に減らし、速度を約2倍に上げたことです。現在製品化に向けて実験を進めています。

 まとめますと、我々はチョウやクジャクの発色原理を医療現場に使って、バイオセンサーあるいはバイオのエンコードを使って発光することに成功しました。

 この写真に写っているのはうちの学生です。実験は私ではなく、学生がやってくれました。この場を借りて学生に感謝の意を表したいと思います。

  最後に2、3分時間をいただいて去年初め蘇州市にできた研究室のことを少しご紹介します。去年太湖でアオコが大量に発生しました。中国ではこういった環 境問題を非常に重視しています。蘇州市にできた研究室では主に環境と生物の安全を研究しています。蘇州市には2つの大きな湖があります。2つの湖の間にあ り、蘇州市でも一番きれいなところに研究所が立地しています。

 実際行っている研究は何かと言いますと、1つ目は環境の回復、つまり汚されているところをきれいにする研究です。2つ目は分析と計測、つまりバイオセン サーやケミカルセンサーなどを使って汚染の程度と汚染の中身を分析、計測する研究です。3つ目は太湖で発生したアオコから出てくる毒素、いろんな有毒物が 人間あるいは動物にどのような危害や影響をもたらすかを研究しています。こうした研究をここ蘇州の研究所で総合的に実施しています。

 これは産官学連携を目指している応用研究なので、興味のある会社と共同研究を実施して行きたいと思います。

 御清聴ありがとうございました。


藤嶋:

 どうもありがとうございました。東南大学でこういう医学と関連、特にバイオセンサーを中心にしてフォ トニック結晶の概念を使いながら、ビーズにしていろんなものを検出しようと。例えばC型肝炎の検出が簡単にできる方法にもっていこうというようなことであ ります。御質問を、ぜひお願いします。

 A: 興味深い話をありがとうございました。1つ感度のことですが、顕微鏡で見るときに感度が高いとおっしゃったのは、何に対する感度が高いですか。感度だけの問題ではないと思いますが。

 顧: そうです。現在ファイバーオプティクスを顕微鏡に連動させて使用しています。感度というのはピークの高さです。その高さでどこまで検出できるかわかります。大体0.1ナノグラムあれば、ピークが出て来て、検出できるようになる。これが検出のリミットです。

 B: 医学用の場合のウイルスの数というのは、センサーのつかまえたいウイルスの数がたくさんあるということですか。

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 顧: この感度というのは実験中、溶液が自分でつくるもので、水の中に大分子を入れたときの濃度のことです。

 B: 実際のHIVウイルスの濃度ですか。

 顧: その通りです。

 C: それはこういうセンサーのキャプチャーの場所に比べるとたくさんあるということですか。

 顧: そうです。このビーズの上にそういうターゲットを全部プローブとして固定します。反応の確率を高めるためにそうしなければならないです。

 C: つかまえたウイルスが少ない場合とつかまえたウイルスがたくさんある場合のその辺の感度は変わらないかなと思いますが。

 顧: それは感度ではなく、リニアです。濃度をちゃんと計算すればそうなります。一番低いものに濃度が変わった場合、どのぐらい蛍光が変わるかをちゃんと計算しています。非常にリニアになっています。

 藤嶋: ほかにいかがですか。今具体的に例えばC型肝炎のための、実際に臨床というか、お医者さんと一緒にやりながら実際患者に、あなたはC型肝炎ですよというようなことが言えるようになってきているんですか。

 顧: 現在製品開発を進めています。それから、がんのDNA検出の研究も行っています。ガンというものは、大 体薬を飲んでいて、最初は効くけれども飲めば飲むほど効かなくなります。なぜならば、がん自身のDNAが変わってしまうからです。現在病院の先生と共同 で、がんの薬を飲んだ後、がん細胞のDNAがどういうふうに変わるかという研究を実施しています。

 肝炎の検査に必要なサンプル数が減り、検査の速度が速くなるのは患者にとって非常に重要なことです。例えば時間を半分に減らした場合、もともと1時間の待 ち時間が30分になりますので、健康な人にとっては大したことではないが、患者さんにとっては非常に大事な問題です。それから、サンプル数を減らすことに よって、病院での採血を大分減らしています。もちろんそういう研究は、病院の先生と一緒にやらなければ先へ進みません。

顧 忠沢

顧 忠沢:
東南大学生物科学・医学工程学院教授、
生物電子学国家重点実験室主任

略歴

89年中国 東南大学 生物医学専攻卒業。
98年東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻卒業(工学博士)。 同年から神奈川科学技術アカデミー専任研究員。
03年1月中国"長江奨励計画"特聘教授に選ばれ、同年から中国 東南大学 生物医学専攻教授。
現在、生物電子学国家重点研究室主任。主に光機能材料、バイオセンサーなどの研究に従事する。