【10-013】「低炭素社会の構築」日中国際学術シンポジウムの開催(2010年10月17日)
米山春子(中国総合研究センター フェロー) 2010年11月 2日
「低炭素社会の構築」―環境のマネジメントと国際協調のあり方―と題した日中国際学術シンポジウムは名古屋大学国際経済政策研究センターなどの主催、独立行政法人科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター・中国総合研究センターなどの後援により、2010年10月17日(日)、名古屋大学文系総合館カンファレンスホールで開催された。開会式では、中国駐名古屋総領事館総領事張立国氏の祝辞をはじめ、名古屋大学副総長藤井良一氏、中国対外経済貿易大学長補佐、国際低炭素経済研究所長趙忠秀氏、JST・研究開発戦略センター・中国総合研究センター参事役松澤孝明らによる挨拶があった。
本シンポジウムは低炭素社会の構築に向けての、日中両国の政策や取り組みの現状および課題などについて議論し、今後の日中協力の在り方などについて検討した。
基調講演では、まず、環境省地球環境審議官南川秀樹氏より「気候変動を巡る状況と日本の取り組み」について紹介された。講演では、今後100年間の世界全体の二酸化炭素(CO2)の排出量を予測し、コペンハーゲン合意に基づいた、日本および中国、アメリカ、EUなどの主要国の2020年までの二酸化炭素の削減目標、また、2012年までの気候変動分野における日本の途上国支援支出などについて述べた。2010年から2012年までの三年間、日本政府開発援助(ODA)やその他の公的資金(OOF)を合わせて1兆7500億円の支出が予定されている。これは世界のCO2削減のため途上国への支援金額のほぼ半分に相当する額である。この金額について、中国の研究者も驚いた。残念ながら、現在実施している風力発電計画、地熱開発計画、太陽光活用計画などのプロジェクトには中国が含まれてない。中国のGDPはすでに日本を抜き、世界第二の経済大国になっていて、もはや途上国でなくなったとの認識に立てばそれ相応の役割を果たしたいと中国の専門家も考えているようにも思われる。
つぎに、中国国家発展改革委員会・エネルギー研究所副所長戴彦徳氏は「中国の炭素削減の目標と現実」について講演した。現在、温暖化の危険なレベルの影響を回避するために、今世紀半ばまでに 、気温上昇を20世紀末に比べて「2度以内に抑える」ことが、先進的に取り組む諸国の合言葉になっている。当然、これを実現するには10年後にCO2排出量の約20%を占めると予想される中国を抜きにしては考えられないというのが日本をはじめ、世界の常識である。戴副所長の分析データは、過去30年間の世界経済の発展の現状からみると、この温度上昇を抑える目標を実現するのは容易ではないことを示している。その根拠は2050年まで地球人口は100億を越え、エネルギー需要は倍以上になる。1973年に比べ、2007年の全世界エネルギー消費量の81%の増加は化石燃料からである。とくに中国の経済成長から見ると、成長スピードは早く、規模は大きいが、経済成長の質は低く、バランスが取れてない。中国の東部は欧州似、西部はアフリカ似という表現が中国経済の状況を現している。このまま経済発展し続けると、一人当たりの消費量は少ないとは言え、消費総量は大幅に増え、化石燃料に対する依存度は依然として大きい。世界経済の成長を含めて考えると、2050年に気温上昇を「2度以内に抑える」ことは不可能に近いと戴氏は指摘した。それならば、もっと現実的な目標を設定すべきではないかと戴氏はいう。
現在、中国はCO2削減に向けて積極的制度づくりを行っている。国家や地方にそれぞれ気候変動対策本部の設立、CO2削減条例の策定、低炭素モデル都市の展開などである。具体的に削減の目標を設定している。たとえば、中国の計画目標は2020年まで各組織あたりのCO2排出量を2005年より40-45%下げる。非化石エネルギー消費比率を15%に達成する。また森林面積と貯蓄量は2005年よりそれぞれ4000万haと13億m3に増やすこと。この目標を実現するため、中国は世界に対し四つのことを実施したいと考えている。そのうち三つを約束している。1)低炭素・無炭素再生エネルギーの利用を推進する。2)省エネを強化する。3)炭素吸収源を増やす。四つ目の炭素隔離貯留を促進することは約束できないと戴氏は述べた。なぜなら、現在中国にはまだ有効な方法がない。そこで是非日本の環境技術を吸収したい、進んだ日本の環境技術が世界中に広まれば、効果は絶大である。日本とWin-Winな関係を築くことに大いに期待すると戴氏は最後に日本にラブコールを送った。
いままで中国は炭素削減に消極的だと思われていたかもしれないが、戴氏の講演では、中国の炭素削減の現状および課題について細かく分析し、現実に即した計画を立てていると実感した。このような議論の場を設け、具体的にどうするかも重要であるが、互いにさらなる会話、理解と信頼関係の構築が最も大切ではないかと思われる。
続いて、地球環境産業技術研究機構副理事長茅陽一氏と(社)日本経済団体連合会環境本部長岩間芳仁氏らは「日本の炭素削減:目標と現実」と「経団連における低炭素社会への取り組み」についてそれぞれ基調講演を行った。とくに茅氏が日本2020年25%、2050年80%排出削減計画はあくまで「2度以内に抑える」目標の延長であり、2度の目標の実現困難性を考えると、上記の目標の設定には疑問がある。京都議定書達成計画の場合を参考に、2020年目標は10%以上の非真水分の考慮が適切で、真水目標は90年比15%減以下とすべきだと強調した。
会議の後半、名古屋大学経済学研究科附属国際経済政策研究センター教授、国際低炭素経済研究所・学術委員会委員長薛 進軍氏がコーディネーターを務めた「低炭素社会実現のための日本の経験と企業の対策」と題したパネルディスカッションを行い、活発な意見交換が行われた。
シンポジウムの翌日、中国の関係者は、名古屋市の国際交流課や環境局環境都市推進部の方々と意見交換を行った。日程の最後に積水化学工業株式会社滋賀水口工場の水浄化施設などを見学した。積水化学工業株式会社は社内に自主的CO2削減計画や奨励金制度を設定し、推進している。日本の一企業の低炭素化への取り組みについて、中国の関係者は非常に感銘を受けていた。低炭素化社会実現に向けて、中国では、現在すべて国や地方の行政機関が強制的な手段を執っている。中国では長期的な投資回収や企業イメージアップなどを考える余裕がある企業はまだすくない。これも日中企業の意識の差とも言えるかもしれない。