アフターコロナ時代の日中経済関係
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【20-03】第14次5ヵ年計画の検討動向―マクロ政策を中心に―(その3)

2020年12月24日 田中修(日本貿易振興機構アジア経済研究所 新領域研究センター 上席主任調査研究員)

その2 よりつづき)

3.第14次5ヵ年計画期間のマクロ経済政策

(1)マクロ経済政策の方向性

 「建議」は、第21章「マクロ経済ガバナンスの整備」において、「国家の発展計画を戦略方向とし、財政政策と金融政策を主要な手段として、雇用・産業・投資・消費・環境保護・地域等の政策を緊密に組み合せ、目標を最適化し、分業を合理化し、効率が高く協同した、健全なマクロ経済ガバナンスシステムを整備する」としている。これもシステムの概念を考慮したものであろう。

 具体的には、次の点が指摘されている。

①マクロ経済政策の制定・執行メカニズムを整備し、予想の管理を重視し、コントロールの科学性を高める。

②国際マクロ経済政策の協調を強化し、周期を跨ぐ政策設計をしっかり行い、カウンターシクリカル(景気変動抑制的)な調節能力を高め、経済の総量のバランスを促進する。

 過去の5ヵ年計画では、策定時の経済情況からマクロ政策の方向性を特定してしまう傾向があった。しかし、計画期間の間に経済サイクルは反転する可能性があり、これまでも、景気後退期に引締めを行い、景気過熱期に刺激策を継続する事態がみられた。この表現は、過去の反省を踏まえたものであろう。

③マクロ経済ガバナンスのデータベース等の建設を強化し、ビッグデータ等の現代技術手段のガバナンス補助能力を高める。

 財政政策のデジタル化を図ろうとしている。

④統計の現代化改革を推進する。

(2)財政改革

 「建議」は、第22章「現代財政・税制・金融体制を確立する」において、「中期財政計画管理を強化し、国家重大戦略任務の財政力による保障を増強する」としている。

 さらに、次の改革項目が挙げられている。

①予算管理制度改革を深化させ、予算編成へのマクロ指導を強化する。

②財政支出の基準化を推進し、予算制約と業績効果管理を強化する。

 成長の減速に伴い税収の伸びが鈍化し、すでに財政は倹約強化の時期に入っている。これからは歳出のメリハリが必要であり、日本の概算要求基準のような制度も考慮する必要があろう。

③中央・地方政府の権限と支出責任を明確にし、省以下の健全な財政体制を整備し、末端の公共サービスの保障能力を増強する。

 新型コロナを契機に、中央から地方への財政移転支出を、省をスルーして直接県・市・末端に交付する「特殊移転支出」制度が設けられた。これは、臨時特例の扱いとなっているが、李克強総理は、これを恒久制度へと転換する意向を示している。

④現代税制を整備し、健全な地方税・直接税体系を整備し、税制構造を最適化し、直接税のウエイトを適切に高め、税の徴収管理制度改革を深化させる。

 直接税のウエイトを高めることは、所得格差是正には不可欠である。

⑤政府債務の健全な管理制度を整備する。

 現在、新型コロナ対策で地方特別債の発行が急増しており、この適切な管理が重要である。

(3)金融制度

 「建議」は、同じく第22章において、「現代中央銀行制度を建設し、マネーサプライのコントロールメカニズムを整備し、デジタル通貨の研究開発を穏当に推進し、市場化された金利形成・伝達の健全なメカニズムを整備する」とする。

 さらに、次の項目が挙げられている。

①実体経済を金融が有効に支援する体制メカニズムを構築し、フィンテックの水準を高め、金融の包摂性を増強する。

 新型コロナ対策で、小型・零細企業向けのインクルーシブファイナンス(包摂的金融)が、急速に発達している。

②国有商業銀行の改革を深化させ、中小銀行と農村信用社の持続的で健全な発展を支援し、政策性金融を改革・最適化する。

 新型コロナ対策で、中小・零細企業向けに元本償還・利払猶予を行うとともに、貸付を増やしたため、2021年以降中小銀行で不良債権比率が高まる可能性があり、その健全性維持が課題となる。

③株式発行の登録制を全面実行し、常態化した市場退出メカニズムを確立し、直接金融のウエイトを高める。

 2020年に入り、債券のデフォルト問題が発生しており、上場企業の質の向上が政策課題となっている。

④金融の双方向の開放を推進する。

⑤現代金融監督管理システムを整備し、金融監督管理の透明度と法治化の水準を高め、

 預金保険制度を整備し、金融リスクの予防・事前警告・処理・問責の健全な制度体系を整備し、法律・法規に反した行為を絶対容認しない。

 既に包商銀行の破綻が発生しており、ペイオフに至る前の金融機関の破綻処理メカニズムを法制化する必要がある。

おわりに

 新型コロナ感染症流行が国内経済社会・世界経済に与えたダメージが、「建議」の起草プロセスに一定の影響を与えたことは間違いない。これに米中経済摩擦が加わり、「建議」では、「国内大循環」と「安全」がより重視されるようになった。また、将来の成長率予測の不確定性が増したため、「質の高い発展の推進」が一層強調されるようになっている。さらに、新型コロナは、世界の貧富格差問題を改めて浮き彫りにした。これが、農村貧困人口の脱貧困後の人民全体の「共同富裕」化を、一層明確にさせた面もあろう。

 「建議」を受け、李克強総理は、10月30日に政府「要綱草案」編成活動領導小組会議を開催して、「要綱」の策定作業を開始し、「第14次5ヵ年計画期間の経済社会発展の指導方針」を公表している。新型コロナの世界再流行、米国バイデン政権の対中経済政策の動向が、今後「要綱」にどのような影響を与えるか注目される。

(おわり)