アフターコロナ時代の日中経済関係
トップ  > コラム&リポート 特集 アフターコロナ時代の日中経済関係 >  File No.20-02

【20-02】第14次5ヵ年計画の検討動向―マクロ政策を中心に―(その2)

2020年12月24日 田中修(日本貿易振興機構アジア経済研究所 新領域研究センター 上席主任調査研究員)

その1 よりつづき)

2.習近平総書記の「建議」説明

 ここでは、「説明」のうち、党中央建議の重点問題を説明した部分を考察する。

(1)質の高い発展の推進をテーマとする

「これは、わが国の発展段階・発展環境・発展条件の変化に基づいて行った科学的判断である」とされる。

 まず、中国は、なお長期に社会主義初級段階にあり、中国は依然として世界最大の発展途上国であり、発展は依然として第一の重要任務であることが再確認される。その上で、新時代・新段階の発展は、「新発展理念を貫徹し、発展の質を高めなければならない」と強調されている。

 19回党大会で示されたとおり、中国社会の主要矛盾は、既に人民の日増しに増大する素晴らしい生活への需要とアンバランス・不十分な発展との間の矛盾、に転化しており、発展における矛盾・問題は、発展の質に集中的に体現されている。このため、発展の質の問題を更に際立てて位置づけ、発展の質・効率を高めることに力を入れることとされたのである。

(2)国内大循環を主体とし、国内・国際の2つの循環が相互促進する、新たな発展の枠組の構築

 「新たな発展の枠組の構築は、時代と共に進み、わが国経済発展水準を高めるための戦略的選択であり、わが国の国際経済協力・競争の優位性を築くための戦略的選択でもある」とされる。

 まずは、これまでの経緯を振り返り、改革開放以降とりわけWTO加盟後、中国が国際大循環に加入し、市場と資源を外に求め、「世界の工場」の発展モデルを形成したことは、中国の経済実力の急速な向上、人民生活の改善にとって重要な役割を発揮した、と積極的に評価する。

 しかしながら、ここ数年、国際情勢は大きく変化した。「説明」では、「グローバルな政治・経済環境の変化に伴い、反グローバル化の傾向が激化し、一国主義・保護主義を大いに進める国家が現れ、伝統的な国際循環は顕著に弱体化した」とする。新型コロナの影響で、グローバル産業チェーン・サプライチェーンが寸断され、国内市場を基盤としたチェーンの再構築が必要となっている。これに加え、米中経済摩擦の激化の中で、米国は国際大循環の中から中国企業・中国経済の切離しを図っているようにみえる。このような情況下では、発展の立脚点を国内に置き、国内市場に更に多く依拠して経済発展を実現することが必要となってくるわけである。

 具体的には、内需拡大という戦略基点を堅持し、生産・分配・流通を更に多く国内市場に依拠し、国民経済の良性の循環を形成することになる。この場合、既に国民の需要は高度化・多様化しているので、供給側の質を高めることが重要になってくる。供給体系の内需への適応性を高め、産業チェーン・サプライチェーンの完全性を高めることにより、需要が供給を牽引し、供給が需要を創造する、ハイレベルの動態的バランスを形成することが可能となる。

 しかし、この内需中心主義は、海外からは、中国が国際大循環から離脱し、対外開放政策を放棄して、過去の「自力更生」に回帰するものと受け取られかねない。このため「説明」は、「新たな発展の枠組は、決して閉鎖的な国内循環ではなく、開放的な国内・国際2つの循環である」とも強調している。

(3)第14次5ヵ年計画と2035年までの経済発展目標

「説明」では、意見徴収プロセスにおいて、一部地方・部門から、第14次5ヵ年計画の経済成長速度目標を明確に提起し、2035年までの経済総量あるいは1人当たり所得の倍増目標を明確に提起すべきとの意見があったことが明らかにされた。

 これに対し、文件起草グループの検討結果は、「経済発展の能力・条件から見て、わが国経済は長期に平穏に発展する希望と潜在力があり、第14次5ヵ年計画末に現行の高所得国家基準に達し、2035年までに経済総量あるいは1人当たり所得の倍増を実現することは、完全に可能である」というものである。

 しかしながら、将来一時期の外部環境には、そもそも不安定・不確定要因がかなり多く、国内経済発展に打撃を与える可能性のある、少なからぬリスク・隠れた弊害要因が存在する。これに加えて、新型コロナが世界で大流行したことにより、世界経済が引き続き低迷する可能性があることを考慮し、「建議」の段階では、定性的な記述を主とし、定量的な要素を含ませる方式に落ち着いた。

 ここには5年前の第13次5ヵ年計画建議の説明の際の反省もあろう。このときは、2020年に2010年のGDPを倍増させるためには、今後5年間で「6.5%以上」の成長を実現すればよいとされた。しかし「説明」は、更に「総合的に見れば、わが国経済が今後7%前後の成長速度を維持することは可能である」とした。

 このときも、そのあとに「直面する不確定要因も比較的多い」として、経済成長への制約要因が羅列されているのだが、その後のマクロ経済の議論では、「7%前後の成長は可能」という言葉が独り歩きすることになり、2016年の「政府活動報告」で成長目標は6.5%~7%とされ、これを実現するため、財政赤字の対GDP比率は2.4%から3%に一気に引き上げられ、M2の伸びの目標は「12%前後」から「13%前後」に引き上げられた。

 これは、2015年に株式市場と外為市場で混乱が発生し、16年当初にも株式市場の混乱があり、内外に中国経済の先行きへの不安が広がったことが背景にあった。しかし、16年前半に財政・金融で経済を刺激したことが、結果的に年後半に住宅市場の再過熱をもたらし、政府は長く住宅価格のコントロールに苦しむことになったのである。

 5中全会の段階で、具体的成長率を明らかにすることは、「要綱」のみならず、2021年の成長率目標の議論にも影響を及ぼすことになる。しかも、第14次5ヵ年計画のテーマは「質の高い発展の推進」であり、ここで計画期間や2035年までの成長率にこだわるならば、マクロ政策の議論が過去の成長率至上主義に逆戻りしかねない。このため、今回は表現を慎重にしたのであろう。

(4)人民全体の共同富裕の促進に関して

 「共同富裕は社会主義の本質的要求であり、人民大衆の共同願望である。我々が経済社会の発展を推進するのは、結局人民全体の共同富裕を実現することに帰する」とされる。

 中国は、農村貧困人口の2020年までの全面的脱貧困に取り組んでおり、これを「人民全体の共同富裕を促進するための重大措置」であるとしている。しかしながら、農村貧困人口の脱貧困が実現したとしても、李克強総理が全人代直後の記者会見で指摘したように、中国にはまだ相当数の相対的貧困層があり、都市・農村、地域間の発展と所得分配格差はかなり大きい。「説明」は「人民全体の共同富裕の促進は長期の任務」であり、人民全体の共同富裕の促進を更に重要と位置づけ、この目標が更に積極的な成果を上げるよう努力しなければならない、としている。

 このため「建議」は、2035年までの長期目標において、「人民全体の共同富裕が、更に顕著な実質的進展を得る」ことを提起し、人民生活の質の改善部分では、「共同富裕を着実に推進する」ことを強調し、低所得層の所得引上げ、中等所得層の拡大とともに、所得再分配メカニズムを整備し、税制・社会保障・移転支出等により、高すぎる所得を合理的に調節し、違法所得を取り締まるとした。

「説明」は、「このような記述は、党の全会文件では初めてである」とし、「人民全体の共同富裕を促進する道を不断に前へと邁進することに資するものである」としている。もともと鄧小平の「先富論」では、20世紀末になると所得格差が拡大することを想定し、「共同富裕」への道を模索することとされていた。だが実際には既得権益層の抵抗もあり、21世紀に入っても、所得格差の是正は、高成長の果実(パイ)を農村・低所得層に多めに分配することが中心となり、大胆な所得再分配政策に踏み込むことはできないでいた。

 しかし、高成長が終了し中成長時代に突入するとパイは拡大しなくなり、パイの増加分の分配で所得格差を是正することは難しく、パイそのものを切り分けなければならなくなる。すでに、2015年に提起された新発展理念には、発展の成果を人民が共に享受することがうたわれており、2015年の「建議」では、「共同富裕の方向に向けて着実に前進する」とされていた。第14次5ヵ年計画では、この共同富裕化を、更に具体的政策により進めることになる。

(5)発展と安全を統一する

 「安全は発展の前提であり、発展は安全の保障である」とされる。「説明」は、「現在及び今後一時期は、わが国の各種矛盾とリスクが発生しやすい時期であり、予見可能・予見し難い各種のリスク要因が顕著に増大する」としており、(最悪事態を想定して)最低ラインを守る考え方を樹立し、困難をより十分推し量り、リスク思考を更に深め、「遺漏を塞ぎ、脆弱部分を補強する」ことを重視し、先んじて主動的に、各種リスク・試練を有効に防止・解消しなければならない、と強調している。

 これまでは、政策の考え方としては「発展・改革・安定の関係を正しく処理する」との言い方が一般であり、重要な政治イベントがある年や、経済社会問題が発生したときには、特に「安定」が強調される傾向があった。たとえば、2019年は建国70周年であるとともに、経済の減速と米中経済摩擦の深刻化が加わり、「安定」が重要なテーマとなり、マクロ政策の基調は、「6つの安定」政策の実施となった。

 2020年は、そもそも「第1の百年奮闘目標」である「小康社会の全面実現」を達成し、21年の党創立100周年につなげる重要な一年であるが、これに新型コロナによる経済社会へのダメージと米中経済摩擦の激化が加わったため、これまでの「6つの安定」に加えて「6つの保障」任務が加わった。

 この「6つの保障」は、「安全」を意識したものであり、8月24日に開催された経済社会分野専門家座談会において、習近平総書記は、対外開放の推進において注意すべき点として、「開放をすればするほど、より安全を重視し、発展と安全を統一し、自身の競争能力、開放への監督管理能力、リスクの防止・コントロール能力の増強に力を入れなければならない」と念を押している。これからは、発展にせよ、改革開放にせよ、安全との関係をよく考慮しなければならないのである。

(6)システムの概念を堅持する

「第14次5ヵ年計画期間の経済社会発展は、システムの概念の原則を遵守し堅持しなければならない」とされる。

「説明」は、「中国の発展環境は深刻・複雑な変化に直面しており、発展がアンバランス・不十分の問題が依然際立ち、経済社会の発展における矛盾は錯綜し複雑である」とし、システムの概念から出発して計画・解決し、各分野の政策と社会主義現代化建設を全面協調させて推進しなければならないとする。

 具体的には「建議」では、国内・国際の2つの大局を統一し、発展と安全の2つの大事をしっかり処理し、全国を一つとすることを堅持し、中央・地方と各方面の積極性を更に好く発揮させ、「国の根底基盤を固め、優位性を発揚し、不足部分を補充し、脆弱部分を補強する」ことに力を入れ、重大リスク・試練の防止・解消を重視し、発展の質・構造・規模・速度・効率・安全の統一を実現するとしている。

その3 へつづく)