高橋五郎の先端アグリ解剖学
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【20-05】第9回 中国の農産物を原材料とするエキス開発・応用技術の展開

2020年10月23日

高橋五郎

高橋五郎: 愛知大学名誉教授(農学博士)

略歴

愛知大学国際中国学研究センターフェロー
中国経済経営学会会長
研究領域 中国農業問題全般

1.トマトを例に

 農林畜水産物を原材料に技術開発とその応用が進むエキスには用途のさらなる拡大が期待され、実際にもその動きがみられることは前回のレポートで紹介した。今回は、中国におけるエキス開発技術のおおまかな現状とエキスのさまざまな分野への応用の展開に焦点を当て、またエキス開発についての政府の姿勢などにも言及してみたい。

 まず前回のレポートを基礎に、具体的な食材、ここではトマトを例に、食品トマトがエキスに姿を変えたとき、食品加工度のどこに位置することになるのかである。トマトを例にした理由はトマトを食さない国は存在しないほどポピュラーであること、そして私事であることを許して頂ければ、カットもしくは100%ジュースのかたちでほぼ毎日トマトを食するほど好物であるせいもある。ドレッシングは避け少しの塩をかけるだけでよく、トマトの甘味と香りが口の中で溶け出てくる食味がたまらない。健康にもいい。

表1 トマトを例にした食品加工分類
  加工分類 食 品 例
4階 デジタル食品 リコピン、トマト調製品、トマト含有調製品
3階 モジュール食品 トマトエキス、濃縮トマトジュース、トマトペースト、トマトケチャップ、トマトピユーレ、トマトパウダー、トマトスープ、トマトソース、トマトミックスジュース
2階 プライマリー食品 カットトマト、100%トマトジュース、乾燥トマト
1階 生鮮食品 生鮮トマト

資料:筆者作成。

 トマトの加工度ごとの形態の変化を並べたのが表1である。トマト、そして加工食品のほぼすべてが加工度によって4階構造に分類可能である。このような分類は筆者独特のものであり、まだ普遍化されていないし永久にされない可能性の方が大きいかもしれない。しかし、このような分類は高度に発達し、さらに複雑さを増している現代の加工食品を社会科学として研究するには便利なところがある。

 なぜというに、現代の加工食品は単に加工技術の進歩にとどまらず加工業者や消費者の極度に進歩した加工食品との経済的・社会的向き合い方や部品化の様相を強める下部加工食品の需要やもっと広範な意味でのグローバルなサプライチェーンを形成しながら存在しているからであり、また現在における加工食品の発展度や精緻化を意識しつつその社会や家庭における効用の変化を進歩の尺度として意識することができるからである。

 そこで早速表1を見て頂くことにしよう。原材料としての最初の形態は、トマトは丸い形をした生鮮食品の一つにすぎない。これを加工分類すると1階、まだ未加工の段階にある。ところが加工度の2階に上がると、たちまちのうちに、トマトは用途に応じた形態に変わり始める。

 2階で生鮮トマトはカットトマト、トマトジュース(この段階では100%ジュースでなければならない)、乾燥トマトにその姿を変え、プライマリ―食品となる。姿は変わるが2階の加工度はそれほど高くはない。切る、つぶして滓を取る、水分を抜くなどの手を加えるだけである。

 3階のフロアーは筆者がいうモジュール食品である。トマトのエキスはこの階に属すると位置づけられる。ほかに、濃縮トマトジュース、トマトペースト、トマトケチャップ、トマトピューレ、トマトパウダー、トマトスープ、トマトミックスジュースなどと一緒である。

 モジュール食品がプライマリー食品と本質的に異なる点は、加工する際に熱が使われ、水分を意図的に脱水し、トマトの純粋な成分を抽出し、他の食材や調味料を加えて混合し、味付けが施されることにある。例えばエキスはトマト成分のみを抽出し、液体もしくは粉末に純化したものであるし、濃縮トマトジュースは、トマト成分を一定の水分とともに残し、他の水分、滓を取り除きトマトを何十%かに圧縮したものである。また例えばトマトミックスジュースは、トマトを主成分に他の野菜や果物の成分を加え、さらにビタミン、塩分、香料、場合により水分とか色素などを添加したものである。

 このフロアーに属するエキスであるが、同じフロアーのモジュール食品やここから更に一階上の4階のフロアーの原材料となる汎用食品の便利な役割を果たす。

 4階にはデジタル食品群が配列されている。デジタル食品は、モジュール食品群を原材料としたり、他の多くの種類の食品や原材料と混合したりして作られる。ここに属するリコピン(トマト由来の非常に強い抗酸化作用があるとされる天然色素)は純度が高い添加物であるが、最も一般的な食品群は他の食材のモジュール食品やデジタル食品が複数混合され頭にトマトが付く「調製品」、頭になにも付かない「その他調製品」、「その他のその他」などと表現されることがあるトマト成分以外の成分は不明の食品である。その成分が不明なだけで、他の食材を原料とする食品成分がかならず含有されている食品である。

 デジタル食品に属するなんとか「調製品」とは具体的にどういうものを指すのかを知る手っ取り早い方法は、HSコード(実行関税率表)などをみることである。表2は実効関税率表(輸入品)第2部の第13分類食品中「植物性産品」の液汁エキス(コード4ケタ)などから派生したデジタル食品の一つ、コード9ケタ、1302.14.100「アルコール分が50%以上のもの」、「その他のもの」を示している。

表2 実効関税率表第2部(植物性生産品)第13分類食品
13.02   植物性の液汁及びエキス、ペクチン質、ペクチニン酸塩、ペクチン酸塩並びに寒天その他植物性原料から得た粘質物及びシックナー(変性させてあるかないかを問わない。)
  植物性の液汁及びエキス
1302.14 麻黄のもの
  100 1 アルコール分が50%以上のもの
  900 2 その他のもの
1302.19 その他のもの
  1 飲料のもと
  110 (1)植物性の一種類の原料から得たもの
  120 (2)その他のもの

 さらにさまざまな食材が混合した第4部「調製食料品」の「野菜、果実、ナットその他の植物の部分の調製品」(コード4ケタ)から5ケタとして派生した「均質調製野菜」とさらにその進化食品9ケタの「砂糖を加えたもの」、「その他のもの」はデジタル食品に分類される(表3)。

表3 第4部 (調製食料品など)第20分類食品
20.05   野菜、果実、ナットその他植物の部分の調製品
2005.1   均質調製野菜
  100 1 砂糖を加えたもの
  200 2 その他のもの

 ここで使った実効関税率表は日本のものであるが、中国の実効関税率表のHSコード番号や食品名もこれとほとんど同じである。HSコードは国際的に共通な取り決めに基づいているからである。ただし、まったく同じともいえない。その根拠は、諸種の食品成分の混合程度や混合される成分構成は国家や企業により異なったり、ある国にあるものがある国では存在しないことがよくあるからである。しかし、この点はここでの問題ではない。

2.エキス技術の展開

 技術展開の面からみたエキスには2層の技術構造がある。1層は原材料の農林畜水産物からエキスを抽出するための技術、2層は抽出したエキスを食材や食品として別の形態に発展させる技術で、この二つの層の技術があってはじめて、エキスは実用的な意義を持つことができる。

 図1はその展開構造を示している。1層の中国のエキス製造技術は大別して①水抽出法、②有機溶媒抽出法、③超音波抽出法、④マイクロ波抽出法からなる。それぞれの具体的な内容の説明は省く。現在、GB(国家規格)の対象になっているのは食品添加物のローズマリーエキスのみである。

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図1 エキス技術の展開

 GBには3分類あり、強制力が強い順にGB、GB/T、GB/Zとなっている。GBは強制規格、GB/Tは推奨規格、GB/Zは指導規格という意味である。ローズマリーエキス(図2)は2006年にGBの対象となり(GB/T2817-2006)、2016年にGBに発展的に移行した(GB1886.172-2016)。

 一般にGBは製造方法、製品規格、安全検査などに適用されるがローズマリーエキスについては、主にその安全性確保のための規格に焦点が当てられているが、このことがただちに危険性が懸念されていることにはならない。

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図2 ローズマリーとそのエキス(长沙康萃生物科技有限公司HPより)

 2層はそうしてできたエキスの応用として、①食品、②食品添加物、③飼料添加物、④医薬品、⑤化粧品、⑥その他(工業原料など)の製造に向けられる。第12回全人代五次会議では、ローズマリーにかぎらず全植物由来のエキスのさらなる健全な発展を進めるとの提案をあえて行った経緯がある(国家衛生計生委員会2017年8月7日資料による)ことには留意しておいてもよいであろう。

3.中国における最近のエキス開発技術の展開例

 中国では特許権や実用新案権が登録されたエキス製造技術が増加傾向にある。その一端を示した表4から、その底辺の広さとエキスの新分野開拓の様子をうかがうことができよう。

表4 中国で最近開発されたエキス製造方法抜粋(特許権)
1 食品エキスの入手方法とその応用
2 ドライポット風味の肉エキス、その処方および調製方法
3 肉エキスを抽出するための酵素的方法
4 セレン強化モリンガ茶からセレン含有抗酸化活性成分エキスを製造する方法
5 マイクロ波照射により製造された高麗植物エキス、その調製方法およびエキスを含む組成物
6 活性ポリペプチド化合物植物エキスアンチエイジング修復組成物およびその組成物を含む用途およびエッセンスミルク
7 万年茸から多糖類エキスを製造するプロセス
8 アボカドからポリフェノールエキスを製造する方法
9 キサンチンオキシダーゼ活性を阻害するための植物エキスの調製方法および適用
10 植物エキスを改変して調製した綿繊維とその調製方法
11 植物エキスとその調製方法を改変して調製した羊毛繊維
12 麻の花と葉から抗酸化成分エキスを製造する方法と応用
13 コラーゲン再生用植物エキスとその調製方法
14 自然植物エキス製造システムと方法
15 植物エキスの収集および処理装置
16 植物エキスとその調製方法およびその使用
17 ピーナッツフィルムエキスとその使用
18 天然香辛料エキスの製造装置の発明
19 マカデミアグリーンピールフェノールエキス濃縮相乗装置の一種
20 蓮の葉多糖エキスの製造方法
21 フェニックステールバンブーエキスとその調製方法と応用
22 アーティチョークの葉からアーティチョーク酸エキスを製造する方法
23 有機総合果物野菜エキスとその調製方法
24 ガーデニア/ミミズ植物エキスによる発毛促進とその応用
25 クソニンジンを含む植物エキスによる殺虫剤および卵抑制剤およびその調製および使用方法
26 植物エキスの低温滅菌プロセス
27 防腐・抗菌機能を有する複合植物エキス、その調製方法と応用
28 植物エキスを含むチューインガムとその調製方法
29 とげのある梨エキスとその抗菌用途
30 植物エキス含浸ナノ微孔性酸化亜鉛固形物およびその調製方法
31 植物からエッセンシャルオイルエキスを製造するための装置
32 植物エキスとその調製方法
33 チージワンエキスの一種の調製方法
34 牡丹エッセンシャルオイルエキスの製造方法
35 植物エキスの滅菌・消毒剤とその調製方法
36 植物エキスを含む組成物およびその調製方法および用途
37 アブシジン酸の植物エキスの調製方法
38 植物エキスまたはその調製物を検出するための方法
39 植物エキスとその調製方法および使用
40 セレンが豊富な米エキスとその調製方法および用途
41 果実エキスを使用してバーリータバコの反応物を調製するための方法および用途
42 フルーツエキスの一種とその応用
43 トロピカルフルーツエキスを使用して調製したタバコフレーバーとその調製方法
44 各種果実エキスが豊富なナノ粒子乳液とその調製方法
45 果物エキスの混合物とその応用
46 飲酒防止製品の適用および飲酒防止製品におけるキシロオリゴ糖および柑橘類果実エキスの組成
47 フルーツエキスの一種とその応用製造方法
48 植物加水分解エキスおよび果実エキスを原料としてタバコフレーバーを製造する方法
49 アントシアニン(色素)エキスが豊富な粗粒飲料とその製造方法
50 フルーツエキスの一種とその応用
51 皮膚疾患の治療における活性剤としての植物エキスの使用
52 そばかす除去効果のある植物エキスとその応用
53 植物から抽出した導電性グラフェンエキスの電磁スクリーン
54 神経栄養機能を有する植物エキス、その調製方法および応用
55 空気殺菌植物エキス組成物

 特許権が公開された55の事例を選んでまとめたこの表はエキス製造面に集中しているが、その応用技術の方面への広がりも確認できる。

 例えばエキスの製造技術としては番号3の肉エキス抽出法、8のアボカドからポリフェノールエキスの製造法、20の蓮の葉から多糖エキスを製造する方法などが挙げられる。製造と応用を兼ねたものとしては番号1の食品エキスの製造と応用、16の植物エキスの製造とその使用、36の植物エキスの製造と応用、50のフルーツエキスの一種とその応用などが挙げられる。エキス製造のための装置や薬剤の開発などに該当するものには番号18の天然香辛料エキス製造のための装置発明、31のエッセンシャルオイルエキスを製造するための装置開発、35の植物エキスの滅菌・消毒剤とその調製方法などが挙げられる。また、医薬や化粧品などの用途のためのエキス製造技術として、番号51の皮膚疾患の治療のための植物エキス開発、52のそばかす除去に効果がある植物エキスの開発、54の神経栄養改善のための植物エキス開発などが挙げられる。

4.まとめ

 中国における農林畜水産物を原料とするエキス開発とその用途の発展可能性は大きく、これまでだと廃棄していた質のものを再利用し、付加価値の高いものへ変える意味もある。農家などの第一次産品生産者にとっては所得の向上に寄与するメリットもあり、エキスの開発・利用事業者にとっては食品や医薬品などの技術革新や新素材・新製品の開発にもつながるメリットをもつ。

 一方では、政府も留意しているように食品安全の徹底という点には十分な配慮が欠かせないことも付言しておきたい。